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    vwmuteking

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    腐/成人済み/文字書き/TRIGUN(台牧固定)/牧師命/

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    事件が発生します

    化物と探偵【後編】世の中とは、思う通りにいかないことばかりである——。





    男は震える手で拳銃を手にした。初めて手にした拳銃の重みは、これから己が犯そうとしている罪の重みを突き付けてくるようだ。
    それでも、手にした武器は決して下ろさない。
    すべては最愛の我が子の命を奪いゴミのように捨てたあの悪魔を討つために。

    さあ、裁きの鉄槌を下すのだ。



    □□□



    コナンは苛立っていた。
    赤井がコナンに、ヴァッシュとウルフウッドを探ることから手を引く旨を宣言したのだ。いきなりなことに驚愕したコナンは、赤井に何があったのかと詰め寄った。ところが、赤井は何も答えてはくれず、ただニヤリと不敵に笑うだけ。曰く、「ボウヤ。俺はあの二人のことをコソコソ探るのは止めたんだ。これからは直球勝負でいこうと思う」とのことだ。
    これにより、コナンはヴァッシュとウルフウッドに関しては頼りになる存在である赤井を失った。もう一人の頼りになる存在である安室は論外だ。ヴァッシュとウルフウッドとは徹底して友人関係という態度を貫き、ヴァッシュとウルフウッドとの間にあるであろう実際の己の立ち位置を決してコナンに掴ませようとはしない。自分に対してミスリードと思われる行為までしてきたことから鑑みて、安室がヴァッシュとウルフウッドに関しての情報を自分に渡すつもりなどないことは明白だ。
    仕方なく、コナンは赤井が調べた以外の情報がないか探って欲しいと灰原に求めた。ところが、灰原はまるで相手にもしてくれず、ただ呆れた顔をコナンに向けてくるだけ。曰く、「あの二人からは何も感じないと言ったじゃない」とのことだ。
    しかし、コナンは諦めるつもりは毛頭なかった。赤井の意味ありげな言葉——直球勝負。やはり、自分が最初に考えていた通り、ヴァッシュとウルフウッドには何か秘密があったのだろう。そして、赤井はその一端に触れたのだ。だが、それを自分と共有するつもりはないらしい。
    (オレ達は協力関係にあったはずじゃないのかよ⁉)
    頼り、頼られ、協力し、これまで何度も自分達は難事件に立ち向かってきたというのに。酷い裏切りに遭った気分だった。
    灰原は仕方がない。ヴァッシュとウルフウッドに何の疑念も抱いていないのだから。けれど、何故赤井は自分に何も教えてくれないのか。何故安室も自分に何も教えてくれないのか。
    (あんなに怪しい奴らなのにどうしてだ⁉)
    確かに、赤井の調べによる経歴はクリーンなものだった。けれど、交通事故の時にヴァッシュとウルフウッドが用いた自分でさえ解けないトリック、そして赤井の意味ありげな言葉と安室のミスリードと思われる行為もあって、コナンはもはやヴァッシュとウルフウッドを一般人として見てはいない。
    (組織と何か繋がりがあるかもしれねえってのに‼)
    黒の組織が絡んでいる可能性がある場合——いや、それ以外でも、コナンはいつも赤井か安室か灰原か、誰かしらの協力を得られていた。なのに、ヴァッシュとウルフウッドのことに関しては、どういう訳か誰の協力も得られない。いつものようにコナンの思い通りに事が運ばないのだ。
    (どうして‼)
    そして、ヴァッシュとウルフウッドの正体を探るための情報源を悉く失ったコナンは、苛立ちを——焦りを募らせていくのだった。



    □□□



    コナンがどんなに鬱屈した気分を抱えていようと、当たり前に日常は訪れる。そして、コナンの日常には高確率で非日常が訪れるのだ。
    それは、少年探偵団のメンバーといつもの公園に向かっていた時のことだった。コナンは擦れ違った中年の男性の異様な様子に気付き、険しく眉を顰めてその場に立ち止まると、自分達の横を通り過ぎて行った中年の男性の背中をじっと眺める。子供の姿になっているコナンの目線は当然低い。だからこそ、それに気付いた。その中年の男性は暗い表情で俯きながら歩いていたのだが、しかし前を歩く若い男性に暗い表情には似つかわしくない、ギラギラとした強い視線を向けていたのだ。
    コナンはあの視線を知っている。
    あれは——憎悪。
    「あの人、様子がおかしい。オレはあの人の後を追いかけてみる。お前達は……」
    付いて来るな——そう告げようとして振り返ったコナンは瞠目した。いつもなら、どんなにコナンが付いて来るなと言い聞かせても、「抜け駆けするな」と聞きわけない元太、光彦、歩美が、酷く戸惑った瞳で何故か灰原を見つめていたのだ。そして、三人は気まずそうに顔を伏せてしまった。
    「どうした? お前ら」
    訝しげに問うコナンに、灰原は子供達を後ろに庇うように前に出ると、いつもと変わらない冷静な口調でコナンにきっぱりと告げる。
    「江戸川君、この子達のことは私に任せてあなたは構わずに行ってちょうだい。どうせ、止めたって聞かないんでしょ? でも、危険だと思ったらあなたも引くのよ。いいわね?」
    「……お、おう」
    何が何だかわからないまま灰原に頷き、内心では『まあ、オレ一人の方がやりやすい』と思いながら、中年の男性の後を追いかけて一人走って行ってしまったコナンは知らない。灰原がウルフウッドとの約束通り、子供達にもう事故や事件に首を突っ込まないよう説得したことを。
    元太も光彦も歩美も結局はまだ子供。理詰めで説得するより情に訴える説得の方が効くだろうと灰原は考えた。
    そして、使った手は至ってシンプル。
    灰原の頭にあったのは、あの日のウルフウッドの何気ない助言だった。
    ——使える武器はどんどん使こたらええで。
    (ええ、その通りよね)
    だから、灰原は使ったのだ。友達の涙という武器を。
    つまり、泣き落としである。
    もう事故や事件に首を突っ込むような真似は止めてちょうだい。あなた達は何度も遺体を見たことがあるわよね? このまま事故や事件に首を突っ込む真似を続けていたらいつかあなた達がああなってしまうわ。あなた達がああなってしまったらあなた達の家族が悲しむのよ。家族だけじゃないわ。博士やみんなが悲しむのよ。私だってあなた達がああなってしまったら悲しむわ。いいえ、あなた達が死んでしまうくらいならあなた達の代わりに私が死ぬわ。
    灰原は涙ながらに切々と訴えた。半分以上は本気の涙だったけれど。
    正直、ほぼ脅しも同然だった。それも、自分を人質にした脅しである。けれど、形振り構ってなどいられなかったのだ。泣き落としや脅しが卑怯だと責めるならば、いくらでも責めるがいい。子供達を喪ってしまうよりは、そちらの方が遥かにマシだ。
    コナン同様に色んな意味で感覚が麻痺していた灰原も気付いてはいなかったが、元太も光彦も歩美もあの交通事故の時、自分達がコナンに頼り切っていたことを、自分達が無力な子供でしかないことを身に染みて思い知った——実は、灰原がウルフウッドに語ったコナンが不思議がっていた最近子供達が妙に大人しい理由とは、これが原因だったのだ——ため、説得のタイミングとしては絶妙だった。しかも、いつも冷静な灰原が取り乱して涙する姿は、子供達にはこれ以上ないほど効果的だった上、とてつもない衝撃を与えたのだ。
    こうして、もうコナンを追って事故や事件に首を突っ込んだりしないように、灰原は子供達の説得に成功したのである。
    (やったわよ、ニコラスさん。後はこれ以上この子達の好奇心を刺激する物を与えないように博士を説得すればいいわね)
    子供達を可愛がっている博士ならば、きっと灰原の言い分にも耳を貸してくれるはずだ。博士は発明家なだけあって少し浮世離れしてしまっているせいか、たまに常識を欠いたことをやらかしてしまうという欠点はあるけれど、それを補って余りあるほど、優しくてあたたかい人なのだから。
    (本当は工藤君の無茶も止めたいけれど……)
    こればかりは、自分にはどうあっても無理な話だ。コナンが探偵としての己を自負する限り、そして黒の組織が存在する限り、コナンの無茶な行動は止まらないだろう。そもそも、黒の組織に関しては自分にもコナンの無茶な行動の原因と責任があるのだ。止める資格などどこにある。
    だから、せめて子供達だけでも事故や事件といった危険から遠ざけることに成功したことを喜ぼう。
    (工藤君……)
    灰原は一人走って行ってしまったコナンの後ろ姿に向けていた複雑な視線を振り切って、「今日は博士のところに遊びに行きましょう」と子供達を促した。



    ~中略~



     錯綜するそれぞれ——。





    夜——。
    今日の食事当番はウルフウッドだったのだが、朝食と昼食はショッピングモールのフードコートで済ませてきてしまったため、今日はウルフウッドにとって夕食を作るだけで済んだ非常に気楽な日となった。作った料理はオムライスだ。ノーマンズランドで巡回牧師をしていた頃のウルフウッドの食事は、保存食か外食で、余程必要に迫られなければ厨房に立つことはなかった。ウルフウッドが厨房に立っていたのは孤児院で暮らしていた頃だ。そのせいか、ウルフウッドが得意な料理は子供が好む料理が多かった。
    そして、夕飯の片付けを済ませてしまえば後は大人の時間である。
    エアコンを効かせたリビングのソファーに座り、ウルフウッドはこれまた日本酒とセットでヴァッシュに買ってもらった一合徳利と猪口を用意し、涼しい室内でテレビを鑑賞しながら熱燗を楽しむという最高の贅沢を味わっていた。買ってもらった日本酒——想天坊じゃんげ——はアルコール度数20%とウルフウッドが口にするには低過ぎるが、かつて味わったことのないピリっとした辛口の酒はスッキリとしていて飲みやすく、想像していた以上にウルフウッドを楽しませてくれる。
    ちなみに、ヴァッシュも好奇心から一口もらって飲んでみたが、正直口に合わなかった。なので、ヴァッシュはウルフウッドの向かいのソファーに座って自分用に買ってきた酒——アルコール度数40%のザ・マッカラン——をチビチビと飲んでいる。
    そんな訳で、ウルフウッドはご満悦だった。けれど、そんな気分を台無しにするような話題をヴァッシュが振ってきたのである。
    「コナン君、毛利さんに話すって言ってたけどさ、あれ絶対に自分で何とかするつもりだよな」
    「甘いで、トンガリ。あれは自分で何とかするつもりちうだけやのうて、安室の兄ちゃんに知られんようにワイらを巻き込んだろ思っとるんや」
    「え? 俺達を巻き込もうとしてるのはわかるけど、透に知られないようにって……何で?」
    「ワイらのこと色々暴くために決まっとるやろが。安室の兄ちゃんに知られたないんは邪魔されたないからやろ」
    「あー……」
    「せやから、ワイらの連絡先なんぞ聞き出そうとしよったんやろが。おんどれもホイホイ教えよってからに」
    「や、それはその……」
    「阿呆が」
    「うぐっ」
    ウルフウッドの非難がましい視線に、ヴァッシュが一瞬言葉に詰まる。
    「——あ! でもさ、あれ公安の監視の人も全部見てたし、コナン君の思い通りにはいかないと思うよ、うん」
    「ま、せやな。おんどれが余計な首を突っ込まんかったらワイらに飛び火はせんやろ。おんどれが余計な首を突っ込まんかったら」
    「ちょっ! 二回言った⁉」
    「この手のことでおんどれに対するワイの信用度はゼロやと思え」
    「ちえっ」
    美味そうに口にしている日本酒のように辛口なウルフウッドの言葉に、ヴァッシュは唇を尖らせて拗ねてみせた。別に本気で拗ねた訳ではない。戯れの一つ。言葉でじゃれ合っているだけだ。
    「拗ねんなや。マイナスちゃうだけええやろ?」
    「それはそれで何か複雑」
    「ほんで? おんどれはどうするつもりでおんねん?」
    「あー……、うん」
    手の中のグラスに視線を落とし、ヴァッシュは何とも歯切れの悪い返事をする。ウルフウッドは密かに溜息を吐いた。やはり、面倒事に巻き込まれるのは避けられそうにない。実は、ヴァッシュがコナンの頼みを聞き入れた時から嫌な予感はしていたのだ。
    だが、あの事件性を秘めた不穏な密会——あの建物内にもう一つ気配があったことなど、ヴァッシュもウルフウッドも察知していた——にヴァッシュが乱入しなかっただけでも、ウルフウッドは奇跡だと思っている。おそらく、自分との約束を守るため、殊勝にもあの場では様子見に徹したのだろう。〝前〟ならば考えられなかったことだ。正直、ちょっと感動した。
    「酷い様子だったな、あの人」
    「せやな。あのおっさん、ごっつ殺気垂れ流しとって殺る気満々やったで」
    そう、ヴァッシュもウルフウッドも尾行していた中年の男性がヴァッシュ曰く酷い様子——殺気を纏っていたことに気付いていた。殺気を漏らすなど素人だ。何の驚異にもならない常人だ。しかし、素人だろうと常人だろうと人を殺す時は殺す。そんな場面は嫌と言うほど目の当たりにしてきたし、そんな噂話も嫌と言うほど聞き覚えがある。ヴァッシュもウルフウッドも伊達にディストピアの如きノーマンズランドを渡り歩いてきてはいない。二百五十年以上の時を生きてきたヴァッシュなどは特にだ。
    「復讐、かな?」
    「そんなんワイが知るかい。ただ、殺しの標的はあの兄ちゃんで間違いないやろ。あのおっさんの様子やと実行に移すんも時間の問題やな」
    「……あのさ、ウルフウッド」
    「何や?」
    「ここは平和な場所なのに、どうして人類同士で争うんだろう?」
    「あんなあ、おんどれは人類に期待し過ぎやねん」
    「そんなことない。だって、ノーマンズランドの人類も〝俺達の知ってる地球〟の人類も争いを止めたんだ」
    「そんなん人類存亡の危機に直面して争っとる場合やのうなったからやろ。自分らのケツに火が点いてようやくや」
    「この世界の人類にはもう少し時間が必要なのかな?」
    「さてな。ワイにはわからんわ」
    「俺は、人類が争うのは嫌だ。さすがに国家レベルの争いまでは止められないけど……。せめて身近な誰かが犠牲になるのは止めたい。もちろん、コナン君のことも。だから、ウルフウッド……」
    「わかっとるがな。いつものトンガリィズムやろ? おんどれに付き合えるんはワイくらいやしな。付き合うたるわ」
    「! ——ありがとう」
    ヴァッシュとて、自分が面倒事に首を突っ込むことをウルフウッドがあまり快く思っていないことくらい理解している。だから、ウルフウッドからの否定的な言葉を覚悟しながら名を呼んでみたのだが、ウルフウッドからは意外にも協力的な言葉が返ってきた。ヴァッシュはホッとしてウルフウッドに礼を告げた。〝前〟のように意見の対立から喧嘩になるのはできれば避けたかったから。
    それにしても、今のウルフウッドは〝前〟よりもずっと自分の主義・主張を尊重してくれているように感じる。それはきっと、ウルフウッドの愛する家族やノーマンズランドの命運が懸かっているような極限状態ではないからだろうと考えているヴァッシュは知る由もなかった。まさか、〝前〟のウルフウッドが何よりも優先していたのが愛する家族であったように、今のウルフウッドが何よりも優先するのが自分であるということなど。
    あからさまに安堵の表情を浮かべるヴァッシュに、ウルフウッドは苦笑いの口元を猪口でそっと隠した。改めて、自分がヴァッシュに絆されていることを自覚して。だが、言うべきことは言わなければならない。
    「ただな、トンガリ。もしもこれが安室の兄ちゃんの管轄やったら——」
    「うん、わかってるよ、ウルフウッド。透の仕事には手を出さないって約束は守る。透には俺達が関わっても問題ないかちゃんと確認するから」
    「ええんか? おんどれあの坊主に安室の兄ちゃんにはワイらの口からは何も言わへんて約束しとったやろ?」
    「もちろん、コナン君との約束も守るよ。透には俺の口からは何も言わない。でもさ、俺の行動と公安の監視の人の仕事は無関係だよな?」
    「は?」
    「今日のことはもうとっくに透に報告がいってると思うんだよねえ」
    「おい、おんどれまさか……」
    猪口を一旦置いて、煙草を口に咥えようとしたウルフウッドの手がピタリと止まった。
    まさか、あれは自分達を監視している公安警察官の存在を考慮した上での口約束だったのか。
    「俺はただ、透にコナン君がこれから関わるかもしれないトラブルに俺達が関与しても問題ないのかを確認するだけだ。今日のことは何も言わずにね。だから、コナン君との約束を破ったことにはならない。そうだろ?」
    「よくもまあいけしゃあしゃあと。なんちう屁理屈や。とんだ食わせ狸が居ったもんやで」
    「えー、酷いなあ」
    そんなことを言いながらも、ヴァッシュは笑顔だ。やはりこの男、人の好い顔をして上手である。呆れたものだ。
    とはいえ、降谷の対応次第という言質を取っただけでも何よりだ。
    (果たして……)
    まあ、事態がどう転がるにせよ、ウルフウッドのやるべきことはすでに決まっている。ヴァッシュに付き合う——それだけだ。ただ、ヴァッシュが起こした面倒事に付き合うのと、ヴァッシュ以外が起こした面倒事に巻き込まれるのとではあまりにも話が違う。ヴァッシュ以外が起こした面倒事に巻き込まれるなど、避けられるものならば極力避けたい。これからコナンが巻き込もうとしているらしい面倒事については、ウルフウッドの思惑もあるので、例外ではあるけれど。
    「もしも、問題ないならさ、一応戦闘許可も取っておいた方がいいよね? できれば、銃所持許可も欲しいんだけど無理かなあ?」
    「安室の兄ちゃんの胃に穴開いてまうかもな」
    「あー……、だね。それに、コナン君の前では大人しくしてないとマズイか」
    「ただの好奇心と猜疑心からワイらの正体を暴きたい思っとるだけの素人相手に、わざわざ実力見せたる義理なんぞあらへんわ。玄人相手の牽制とはちゃうねんぞ?」
    「ああ、赤井さんのこと? 諦めてくれたみたいでよかったよね」
    「ま、ホンマに諦めたんかは知らんけどな。——て、話が逸れてもうたわ。あのFBIの兄ちゃんのことはええねん。今は坊主のことや。安室の兄ちゃんからOKもろたとしても、坊主には余計なモン見せんように動くで」
    「わかってる。その時は陰からの援護に徹しよう」
    「せやな」
    ヴァッシュとウルフウッドならば、陰で立ち回ることなど造作もない。ついでに言えば、隠し武器だけでも充分に対処可能だ。だが、ヴァッシュの言うようにウルフウッドもそろそろ銃所持許可は欲しいのが本音だった。備えは必要だからだ。
    「ワイからも頼んでみるわ」
    「え? 何を」
    「銃所持許可や」
    「……ああ、うん」
     頷きながらも、ヴァッシュは酷く複雑そうな苦い顔をしている。
    「おい、どないしたトンガリ? 何やその顔は? 銃所持許可欲しいて言うたんはおんどれやろ?」
    「そうだけど……」
    「何やねん? ハッキリせんかい」
    「本当は……戦闘許可も銃所持許可もそんなもの必要ないならその方がいいと思って」
    「ま、おんどれならそうやろな」
    「できれば話し合いで平和的に解決したい。だけど、何だか嫌な予感がするんだ。銃が必要になるような。まあ、勘なんだけどさ」
    「勘か……。正直、途方もない修羅場を潜ってきたおんどれの勘は無視できへんな」
    「透に迷惑はかけたくないけど、やっぱりもらえるものなら銃所持許可はもらおう。さすがに【力】を使うのはどうかと思うし」
    ヴァッシュがそう言うと、ウルフウッドの眉間によく観察していなければ見逃してしまうくらいの、ほんの僅かな皺が寄った。当然、ヴァッシュがそれを見逃す訳がない。そして、ヴァッシュは思う。
    (ああ、やっぱりそうなんだ)
    ——と。
    あの交通事故で、子供達を守るために【尖翼】を使った時から、ヴァッシュは何となくだが察してはいたのだ。ウルフウッドがヴァッシュに【力】を使わせたくはないと思っていることに。そして、その理由が【力】が恐ろしいからではないことにも。ウルフウッドはヴァッシュが【力】を使うことによってヴァッシュの生命機能が劣化——要するに、黒髪化することを厭うているのだ。
    (ホント大切にされてるなあ、俺)
    素直に嬉しいと思う。できることなら、心のままに抱き締めてしまいたいくらいに。
    (キスしちゃったし、抱き締めるくらい大丈夫かな? いやいや、今はそういう場面じゃないから! ここは俺が反省する場面だから!)
     ヴァッシュは一瞬己の心を占めた欲求を、『空気を読んで俺!』と必死で振り切った。
    (心配してくれてるのに、邪なこと考えてごめん、ウルフウッド)
     言葉にしたらきっと怒られるだろうから、せめてもと心の中で謝罪する。
    一応、【尖翼】は生命機能が劣化するほどの【力】ではないため、黒髪化まではしないという事実をウルフウッドにはしっかりと伝えてはある——あの交通事故の後で、ウルフウッドから【尖翼】を使うと黒髪化するのかと聞かれたのだ——が、とはいえ自分の【力】はウルフウッドにとっての不安材料なのだから、安易に口にすべきではなかった。
    「でもさ、銃所持許可もらえても俺の銃って簡単に隠せなくない? どこに隠せばいいのぉぉぉぉぉ⁉」
    うっかり話題に出してしまった自分の【力】のことからウルフウッドの意識を逸らすため、ヴァッシュは天井を見上げて大仰に嘆いてみせた。きっと、ウルフウッドならば敢えて誤魔化されてくれるだろう。聡い男だから。
    「……せやな。あれはゴッツイ銃や。簡単には隠せんやろ。ワイのハンドガン貸そか?」
    (ほら、やっぱり)
    思うところがあるだろうに、それでもウルフウッドは何も言わずに誤魔化されてくれるのだ。
    実際、ウルフウッドはヴァッシュの話題転換の不自然さの理由が自分にあることを察していた。それが、自分がヴァッシュの黒髪化を不安視しているせいだということも。
    (気ぃ遣わせてしもたか)
     ならば、ヴァッシュの望む通り誤魔化された振りをしておこう。
    「ありがとう。だけど、それは最後の手段にするよ。お前も同じだと思うけど、慣れない銃って扱い難いだろ?」
    「いや、ワイはどんな銃でも問題ないで?」
    「え? そうなの?」
    「まあな。最悪そこら辺に転がっとる銃でもワイは問題あらへん。——で、どうすんねん? さすがにコートは着れへんやろ?」
    「そこなんだよなあ。この世界? この国? 暑いと薄着するのが普通みたいだから。長袖着てるだけで言い訳に苦労してる有様だし」
    「よう暑苦しい目で見られとるよな、ワイら」
    「おかしくない⁉ 暑いなら尚更厚着だろ⁉ 日差し舐めたら駄目じゃん!」
    「ここは砂漠ちゃうで?」
    「そうだったぁぁぁぁぁ!」
    万一、銃所持許可をもらえた場合、拳銃をどこに隠せばいいのかと、真剣に悩み始めたヴァッシュを横目に、ウルフウッドは煙草に火を点けると紫煙を燻らせた。
    ふと、コナンのことが脳裏を過ぎる。
    実は、ウルフウッドはコナンにある種の危機感を抱いているのだ。あの時は仕方なかったとはいえ、コナンに人外の力を見せたりすべきではなかった。それでなくとも、何故か自分達に猜疑心を向けていたところに、好奇心まで向けさせてしまったのだから。猜疑心の理由については、灰原と話したお陰で理解したけれど。そして、コナンは自分達の正体を何としても暴こうと躍起になっている。それ故、コナンは失念しているのではないだろうか。情報とは理解を行う際に必要な檻だということを。そして、知識とは毒だったり毒になる可能性がある恐ろしいものだということを。その点、降谷と赤井はさすがだ。檻に囚われるのも、毒に侵されるのも危険であると弁えている。だからこそ、降谷も赤井もギリギリの一線は超えてこようとはしないのだ。
    (さて、あの坊主はどうやろな)
    降谷や赤井と比べてしまえば、圧倒的に力不足といえるコナン——いや、工藤新一が果たしてそこまで弁えているのかは甚だ疑問だった。
    けれど……。
    (ま、ワイの知ったことやないな)
    正直、気にかけてもあまり愉快な存在ではない。好意の反対は悪意などではなく無関心であるというのに、ウルフウッドがコナンに対して決して無関心でいようとしないのは、コナンに何かあればヴァッシュが悲しむからだ。両手いっぱい抱えて何一つ手放せない男の背負う荷物が少しでも軽く済むように片付けようと決めたのは他でもない自分であり、そしてヴァッシュは確実にコナンという荷物を背負おうとしてしまうだろう。ならば、ウルフウッドは例え本意でなかろうとも、コナンに対して無関心でいる訳にはいかないのだ。まあ、灰原と話した時についうっかり死にさえしなければコナンのことはどうでもいいと本音を漏らしてしまったけれど。実際、コナンに死なれては前述の理由によって困る。
    とりあえず、コナンの対応は成り行きに任せても問題はないだろう。コナンの目的が自分達の正体を暴くことにあるのならば、自分達の目の届かないところで下手を打つ確率は低い。自分達を巻き込むためにコナンが動き出すまでは放っておいても遅きに失するようなことにはならないはずだ。
    ちなみに、先程「素人相手に、わざわざ実力見せたる義理なんぞあらへんわ」とか「坊主には余計なモン見せんように動くで」とかヴァッシュに言ったウルフウッドではあったが、実は少しくらいは実力を見せつけてやるつもりでいた。中途半端に実力を見せたから好奇心を抱かれたのだ。ならば、少しは本気を出して恐怖感を抱かせてしまえばいい。挫折感を味合わせるいいスパイスにもなる。要は、牽制という名の脅しだが。猜疑心については簡単な話なので、時期が来たら実行すればいいだけだ。
    (はあ、もうええ)
    コナンのことを考えると脳が疲労する。
    ウルフウッドは灰皿で煙草を揉み消すと、猪口をくいっと傾けて脳の疲労と一緒に中身を一気に飲み干した。そして、空になった一合徳利と猪口を手にソファーから立ち上がる。もう少し飲んでもよかったのだが、また燗をつけるのは手間だ。なので、今日は一合で終わりにすることにした。明日は冷酒にしようと思いながら。それに、今夜はやろうと思っていることがある。
    「あれ? もう飲まないのか?」
     いつもならもう少し深酒するウルフウッドに、ヴァッシュが意外そうに声をかける。
    「おう。風呂入ったら銃のメンテしよ思ってな。おどれはまだ飲むんか?」
    「んー……、俺も今日はもういいや」
    そう言うと、もはやBGM状態だったテレビをリモコンで消して、ヴァッシュも酒瓶とグラスを手にソファーから立ち上がる。そして、ウルフウッドと並んでキッチンへ向かった。
    「ワイの方が片付けるモン多いな。おどれはグラスだけか。ついでやから洗っといたるし、おどれは先に風呂入ってき」
    「いいの?」
    「おう」
    「ありがとう、ウルフウッド!」
    ヴァッシュが嬉しそうに弾んだ声で礼を告げてきた。それはいい。ただ……。
    「?」
    ウルフウッドは僅かに首を捻った。すぐにでも風呂へ向かうものと思ったヴァッシュが、何故か未だに自分の隣に立ったまま自分に視線を向けて動こうとはしないからだ。しかも、何やらご機嫌な気配まで垂れ流している。何が言いたいのか気にはなったが、ウルフウッドはヴァッシュの存在はとりあえず無視することにして、さっさと片付けを済ませてしまおうとスポンジを手に取った。だが、あまりにもうるさい視線と気配にウルフウッドはとうとう根負けしてしまう。
    「何や?」
    「うん、何か新婚さんみたいだなあって思って」
    何か言い難いことでもあるのかと思い、ならばとヴァッシュに水を向けたウルフウッドに、とんでもなく阿呆な回答が返ってきた。今の自分達の言動のどの辺りが新婚のようだというのだ。意味がわからない。幸せそうな顔で自分を見ているヴァッシュに白けた視線を送り、ウルフウッドは聞こえよがしに溜息を吐いた。
    「アホなこと言うとらんとさっさと風呂に行け」
    「あ、今のセリフも何か新婚さんっぽい」
    「~~! ええ加減に新婚から離れろや! ド阿呆が‼」
    「ちえっ。少し幸せに浸るくらい別にいいじゃないか」
    「浸るなら幸せやのうて湯にせいや!」
    「お前、今ちょっと『上手いこと言った』って思っただろ?」
    「思っとらんわ! ええから、はよ行けや! ——あ、風呂上がりにパンツ一丁でウロチョロするんやないで?」
    「えー、暑いのにー」
    「むさ苦しいちうとんねん!」
    「わかりましたー」
    不服そうに返事をしてからキッチンを出て行くと、ヴァッシュは着替えを用意するためだろう、寝室へ入って行った。寝室から着替えを持って出て来たらしいヴァッシュは、風呂場へ続く扉の向こうへ消えて行く。ところが、だ。
    (ん?)
    ヴァッシュの行動を無意識に気配だけで感知しながら——これは〝前〟からのことだが、ウルフウッドは常時周囲の気配を感覚で探っている。それは、もはや呼吸のように無意識の行為だった——キッチンを片付けていたウルフウッドは、ヴァッシュの気配が風呂場へ続く扉の後ろから動いていないことに気付いた。いったい何をしているのだろうか。しかも、何故かずっとヴァッシュの視線を感じる。それを放置して片付けを終えたウルフウッドがリビングへ戻ると、ヴァッシュが扉から半分だけ体を覗かせて片目でじっとこちらを見つめていた。ちょっとしたホラーだった。
    「何しとん?」
    「一緒に入りませんか?」
    「……」
    一瞬、ヴァッシュが何を言っているのかわからずに固まったウルフウッドだったが、すぐに意味を理解すると、ソファーのクッションをむんずと鷲掴んでヴァッシュに向かってぶん投げた。
    「何でやねん⁉ お断りや! とっとと入ってこいやあ!」
    「はい! ごめんなさいぃぃぃぃぃ!」

    ヴァッシュの悲鳴と共に夜が更ける——。



    ~中略~



    誰かのための行動が、誰かの明日のためになる——。





    その夜、ある暴力団事務所が襲撃を受け、当該暴力団は事実上壊滅した。
    事務所内に居た暴力団構成員全員が銃弾に倒されるという異常事態に襲われながら、しかしすべての弾丸は〝奇跡的に〟急所を外れており、死者は一人も出なかったという。
    元暴力団構成員は病床でこう証言する。それは一瞬のでき事で正直何が起こったのか何もわからなかった、と。気付いたら全員が血を流して床に倒れていた、と。
    狙撃場所の特定は困難を極め、未だに不明とされていた。鑑定の結果、使用された弾丸は7.92×57mmモーゼル弾と判明したが、しかし7.92×57mmモーゼル弾の有効射程距離は1kmと言われており、人海戦術によってその範囲内を隈なく捜査したものの、痕跡が一切見付かることがなかったためだ。ただ、狙撃場所の方角だけは特定された。暴力団事務所側面にそびえるいずこかのビルの屋上——壁に残された弾痕から割り出された——である。いや、その方角以外からはあり得ないのだ。恐るべきことに、その弾丸はガラス窓の向こう側からではなく、壁の向こう側から壁を貫き暴力団構成員だけを撃ち抜いていたのである。
    この襲撃事件は狙撃場所の特定にも及ばなかった上、狙撃者の目撃情報もなかった——防犯カメラにも怪しい映像がなかったことから、狙撃者はあらかじめ防犯カメラの場所を知っており、防犯カメラを回避して行動していたものと思われる——ため、やがて迷宮入りが確定することとなった。
    ちなみに、暴力団同士の抗争の可能性は否定されている。何故なら、この襲撃は不可能犯罪とされたためだ。暴力団構成員を目視することもできない——壁の向こう側からなのだから当然だ——場所から〝無駄弾を一発も使わずに〟暴力団構成員だけを狙って撃ち抜くなど、どれほどの修羅場を潜り抜けた玄人であろうとも可能な技ではなかったからだ。
    まるで壁の向こう側を透視でもできる化け物によって行われたかのようなこの一夜の襲撃は、後に『Attack by freaks』と呼ばれるようになる。



    ~中略~



    人は皆、誰かを想って生きているのだ——。





    密かに写真の男の後を追ってコナンが辿り着いたのは、建設途中のマンションの敷地内だった。建設現場の外周をぐるっと囲う工事用仮囲いと足場に張られた防護ネットで、外側から内側はまったくと言っていいほど見えない。どうやら写真の男の目的地はここのようだ。コナンは敷地内に置かれた建材の陰に隠れ、敷地内に立っている写真の男を見張ることにした。
    ちなみに、何かトラブルでも起きたのだろう、平日だというのに建設作業は休んでいるようで、作業員の姿が一人も見られない。おそらく、写真の男はこのことを知っていてここへ来たのだろう。
    コナンは建材の陰に隠れてじっと写真の男を監視しつつ、ヴァッシュに電話し、写真の男には聞こえないように小声でヴァッシュと話した。
    「ヴァッシュさん」
    『コナン君? どうしたの?』
    「あのね、あの男の人が人気のない場所——建設現場に入っていくのを見たんだ。これから何か起こるかもしれない」
    『コナン君は安全な場所に居るの?』
    「……う、うん」
    『わかった。僕達もそっちに向かうからコナン君はくれぐれも危ないことはしないこと。いいね?』
    「うん。それじゃあ、建設現場の住所送るよ。早く来てね、ヴァッシュさん」
     コナンはヴァッシュとの通話を切ると、現在地の住所をショートメールでヴァッシュに送った。
    (あいつらを巻き込むのは成功した。あとは安室さんを……)
     安室にも連絡を入れようとしたその時、建設現場に若い男が現れた。間違いない。写真の男と擦れ違ったあの時、写真の男が憎悪の視線を向けていた若い男だ。コナンは緊張からゴクリと唾を飲み込んだ。
    「俺に電話してきたの、おっさん?」
    若い男は不機嫌そうに眉根を寄せ、斜に構えて写真の男に問うた。口も態度も悪い——要するに下品な男だが、よく観察してみれば身なりはとても良い。もしかしたら、良いところのお坊ちゃんなのかもしれない。年の頃は二十二、三といったところか。
    写真の男は、擦れ違ったあの時はあれほど憎悪の視線を向けていたというのに、今は不気味なほど静かな視線で若い男を見据えている。
    「おい、聞いてんのかよ、おっさん! 昨日の夜、例の事件のことで俺に電話してきて、ここに呼び出したのはてめえだろ⁉ 言っとくけどな! 俺は証拠不十分で容疑者から外されてるんだぜ!」
    (証拠不十分で容疑者から外されてるだと?)
    なるほど。だから、野放しにされていたのか。証拠不十分となった経緯はわからないが、とりあえずコナンは納得した。だが、あの時の様子からして、写真の男はまるで納得していないように見える。というより、若い男が犯人と確信を持っているとしか思えない。確信させ得る何かがあるのか。では、何故警察は証拠不十分としたのか。この事件に関しては一切の情報を得られていないので、コナンには何もわからない。わからないことが悔しかった。
    「あ? 何だよ、おっさん」
    若い男が不審そうな声を上げる。写真の男が不意に小脇に抱えて持っていた鞄のジッパーを開けたからだ。そして、取り出された物は——。
    (——‼)
    それは、人を殺傷せしめる武器——拳銃だった。
    コナンは咄嗟に腕時計型麻酔銃を構えた。しかし、射程距離外。ここからでは写真の男にも若い男にも届かない。
    (くそっ! どうする⁉)
    コナンは何とか射程距離内に移動しようと360度周囲を見回すが、けれどここの他にこの身を隠せる場所がなくはないがあまりにも遠過ぎる。自分の存在を写真の男と若い男に気付かれるのは不味い。
    (仕方ねえ! こうなったらやるしかねえだろ!)
    コナンはどこでもボール射出ベルトのダイヤルを合わせてボタンを押すと、バックルからサッカーボールを射出させ、キック力増強シューズの側面のスイッチを押した。
    (タイミングを図って銃を叩き落す!)
    「ハッ! そんな玩具の銃で脅しかよ? バカじゃねえの?」
    若い男はあの拳銃を玩具だと思っているらしく、写真の男を嘲り笑った。まあ、当然だろう。本物の拳銃など普通の日本人には馴染みのない物だ。だから、気付かない。あれが本物の拳銃であるということに。だが、コナンにはわかる。散々見て触って撃ってきたから。
    「私は悪魔を討つ!」
    写真の男が高らかに叫んだ。
    「ああん? 何言っちゃってんの? 頭沸いてんのかよ、おっさん?」
    「死ね! 悪魔め——‼」
    そして、写真の男は若い男に向かって拳銃を構えた。



    ~中略~



    おわり
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    vwmuteking

    MENUコナン君、哀ちゃん、少年探偵団、赤井さんとの出会い
    化物と探偵【中編】どうかそっとしておいて——。





    コナンはその時ポアロに居た。蘭は園子と連れ立って米花駅前に最近できたことで話題となっているショッピングモールへ行くため、小五郎は身辺調査の依頼が入ったために二人揃って朝から留守にしていたので、いつものようにポアロのカウンター席で昼食を摂っていたのだ。
    ポアロの店内は一番奥のテーブル席以外、カウンター席も含めほぼ満席状態だった。さすがは日曜日である。まあ、ほぼ女性客なところを見るに、安室効果が多大に発揮されているのだろうが。
    ちなみに、一番奥のテーブル席だけが空いているのには訳がある。時代の流れ——健康増進法に従って、ポアロも終日禁煙制を導入していた。しかし、安室の話によると「カフェの名を掲げているならともかく、喫茶店の名を掲げているのに喫煙ができないのはおかしい」と喫茶の意味を履き違えている苦情が何件も入ったようで、苦肉の策として大きな換気扇の真下にある一番奥のテーブル席だけを喫煙席にしたそうなのだ。その話を聞いた時は、『何という詭弁』とさすがのコナンも呆れてしまった。まあ、喫煙者である小五郎は喜んでいたが。
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