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    ブレワシリーズ書いてます。
    感想はマシュマロに。貰えたら私がめちゃくちゃ喜びます。→ https://marshmallow-qa.com/1_raru3

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    神高男子でセカイ探索。操られた想いの話。

    狭間の想い、ぶれた境界 とある休日の昼下がり。神山高校所属の男子4人は仲間の女子達が用事があるという理由で不在で4人で壊れたセカイ攻略をすることとなった。ナビゲーターはお互いのセカイのKAITO。セカイ間の通信を使って作戦会議をしていた。
    「とりあえず、行けるとこまで進めばいいんだよな?」
    「うん。でも無理はしなくても良いよ。だんだん敵も強くなってきているしね」
    「それにお互いいつものメンバーではないからね。このメンバーで何度か行ったことがあるとはいえ、慣れないことも多いだろうし」
    「無理はしない、これが最優先事項か」
     通信画面越しに6人は目を合わせる。ストリート側のKAITOが心配そうに話しかける。
    「本当に無茶はしないでね?僕、なんだかとても嫌な予感がしているんだ」
    「まじかよ…こっちのカイトの嫌な予感は結構当たるからな。さっさと行って終わらせる」
     彰人の言葉に全員が頷く。全員が武器を取り、準備ができたところでモノクロの光が4人を包む。壊れたセカイへと足を踏み入れていった。
     今回侵入したセカイは街であったはずのような景色だった。家だったものや道、空までもがモノクロに統一されている。家はほぼ全てが崩れ落ち、無事なものも崩落寸前、蔦が絡まっているようなものもあった。道も瓦礫が散らばり歩きづらい。空には自分達のセカイで怪物達が強襲するときのような空間の裂け目が多数存在していた。
    「これは…」
    「寂しいセカイだねぇ」
    「瓦礫が多いな…」
    「足元に注意して行くか」
     四者四様の反応を示し、瓦礫に注意しながら進んでいく。前から盾役の冬弥、比較的近距離型の彰人、サポートもできる司、殿に遠距離攻撃の類という順番で進んでいった。たまに汚れのカケラが襲いかかってきたが、簡単に退けていた。
    「カケラは流石に弱いな」
    「彰人、油断してはいけない。慎重に進もう」
    「わかってるぞ冬弥」
    “僕達から見ても今は敵影は無いよ。でもここは敵地だ。周囲には気をつけて。強襲されるかもしれないよ”
    「わかってるっつの」
     彰人・冬弥・ワンダーランドのKAITOがそう会話している後ろで類とストリートのKAITOが話していた。
    「ねぇ、この空の裂け目からも彼等が来ることはあるこかい?」
    “うん、あるよ。でも空ばかり見上げてもいけないよ。後ろから急に現れるなんてこともあるし…空の裂け目からの敵は落ちるまでの時間がある分僕達も感知しやすいからね”
    「わかったよ。肝に銘じておくね」
     司は会話には参加せずに類達の話を聞いていた。ふと類の少し後ろ辺りから謎の気配を感じた。先頭の2人はもちろん、ナビの2人や類も気が付いていないらしい。一瞬周囲を確認したその直後には裂け目が生まれ、伸びる手が類へと伸びていた。司の体は反射的に動き出す。
    「類!危ない!」
     司は類を突き飛ばす。類へと伸びた謎の手は身代わりのように立つ司を掴み、裂け目へと引き摺り込む。その様子を見た庇われた類と司の叫びで振り向いた2人は咄嗟に動くことが出来なかった。
    「司くん!」
    「類!みんな!来たらダメだ、逃げろ!」
    「司先輩!」
     司の体は完全に裂け目へと引き摺り込まれ、目的を果たしたらしい裂け目は自然に消えてしまった。
    「僕としたことが…!僕が裂け目に気が付いていれば!」
    “僕達もごめんね。僕達が気が付いてさえいれば…!”
     類達は悔しさに唇を噛む。沈痛な空気となったこの場に彰人の声が響いた。
    「なら、さっさとオレ達でセンパイを取り返すぞ。同じような裂け目を見つけたらオレ達の方から乗り込めばいい。さっさとあの手をぶっ潰してセンパイ連れて帰るぞ」
    「彰人…そうだな、俺達がここで立ち止まっていても司先輩は助けられない。それならば行動を起こした方がいいだろう。神代先輩、大丈夫ですか?」
    「あぁ、大丈夫だよ。うちの大切な座長を取り戻さなければね。一瞬だったけどあの感覚は覚えた。あの裂け目が近くに出現しても今度は気付けるよ」
     冬弥からの問いかけに類は立ち上がりながら答える。気を持ち直したKAITO達も続いた。
    “あのパターンはインプットしたからもう大丈夫!予兆が来たらすぐに伝えるよ!”
    “あぁ。それに、今はいないみたいだけれど司くんが自力でこっちに戻ってこれる可能性もある。司くんの位置情報も注視しておくよ”

     3人は廃墟のセカイを歩く。あいも変わらず空気も読まずに襲ってくるカケラ達をいなしていく。しばらく進んだところでワンダーランド側のKAITOがあ、と声を上げた。
    “司くんの反応だ…でも何だろう、変な感じだ…”
     その言葉に類が反応する。
    「司くんが戻ってきたのかい!?場所は?」
    “類くん、落ち着いて。場所はこの先、少し開けた広場…のようなものがある場所だよ。でも気をつけて。さっきも言った通り、様子がおかしい”
    「おかしい、とは…」
    “まず、出現した場所から全然動かないんだ。あとね、僕やあっちの僕が司くんに呼びかけようとアクセスしても止められてる”
    「んだよそれ!めちゃくちゃやべぇじゃねぇか!さっさと迎えに行くぞ!」
     ストリートのKAITOからの返答に彰人も焦り始めた。3人は慌てて示された場所へと向かっていった。
     司がいると言われた噴水広場。3人がそこに向かうと片手に旗槍を持った司が背を向けて立っていた。だが確かに様子がおかしい。冬弥がそっと司へと近づく。
    「司先輩、無事だったんですね。大丈夫ですか、心配しま…っ!?」
    「冬弥、危ねぇ!」
     冬弥が槍の間合いに入った途端、司は振り向き冬弥へと攻撃する。的確に狙い澄ました攻撃であったが、駆け寄ってきた彰人の攻撃によって弾かれた。司が振り向いたことによって彼の表情が見えるようになる。司の瞳には何も映っていなかった。暗く濁り、何を考えているのか読み取れない。もしかしたら本当に何も考えてもいないのかもしれない。その異様な様子に動くことができなかった類は冷や汗をかいた。
    (あの時とも違う、とても嫌な感じがする…司くん、一体どうしたんだい…?)
     司は武器を構えた彰人と冬弥と一定の距離を取る。旗槍を掲げると、旗が鈍く暗い色に光った。司の能力発動の合図である。少しも経たないうちに、沢山のぬいぐるみが召喚された。
    「…」
     司は声を発さない。何を考えているのか未だにわからなかったが、彰人達を排除する動きをするつもりなことは理解できた。その予想の通りに司は旗を振り下ろす。ぬいぐるみ達は3人に向かって飛んでいった。ぬいぐるみ達を傷つける訳にはいかない3人はなかなか攻撃に転じることはできなかった。
    「センパイ、どうしたんすか!」
     この状況に耐えきれなくなった彰人が叫ぶ。司は問いかけに答えない。対話を試みることはできないのであろう。
    「司先輩…やるしかないのですか…?」
     冬弥はつぶやく。そこにワンダーランドのKAITOの焦ったような声が聞こえた。
    “司くんと接触できたことでようやく状況が掴み取れたよ。司くんはあの連れ去られた空間で想いを傷つけられたらしい!”
    「つまりどういうことだい!?」
     要領を得ないような言葉に類は問いかける。
    “司くんの中の想いを傷つけて、そのまま想いと心を閉じ込めて怪物側の思い通りに動くようにしているんだ。要するに操られているようなものだね。原因となっている結晶を倒すことができれば…!”
    「元に戻る、ということですか」
    「なんでこんなまだるっこしいことを…」
     彰人のぼやきにストリートのKAITOが答えた。
    “相手からすると楽だから、じゃないのかな。こうすることでお互いが潰しあう形となるわけだし”
    「ならさっさと元凶を潰そう。そうすれば無駄に僕たちが戦わずに済む」
    「神代先輩、それでも司先輩はこの先に進ませてくれないような気もします。敵はおそらくこの先にいるでしょう。誰か1人でも先輩の相手をしないと…」
     冬弥の言葉に、彰人が答える。
    「ならオレが相手する。オレは1人でも多くの敵に対処できる。この状況で残るならオレが1番の適任だ」
    “ねぇ、ワンダーランドの僕。冬弥くんと類くんの方についていってもらえるかな。司くんの想いを辿るのはそっちが適任だと思うし司くんが仲間と戦っているのを見るのは辛いでしょ。大丈夫、彰人くんと司くんのことはちゃんと僕が見るから!”
    ストリート側のKAITOの要望にワンダーランド側のKAITOが答える。
    “お気遣い、感謝するよ。類くん、冬弥くん、僕が想いの繋がりを通して元凶までのナビゲートをしよう。…さて、この状況、どうやって抜け出そうか?”
    「それならば僕が。僕の能力でちょっとした煙幕を出そう。そこから東雲くんが真っ先に飛び出すことで目線を彼に向ける。どうだい?大丈夫、火薬は使っていないから」
    “爆発は?”
    「するね。音で脅かしながら煙を発生させて目眩しをするつもりだから」
     もはやお約束のような会話である。KAITO達は苦笑し、彰人は少し呆れたような顔をし、冬弥はきょとんとした顔をしていた。司が正気だったならば、呆れた顔をした上で文句のひとつやふたつは言っていただろう。
    「…わかりましたよ。オレの方はいつでもいいんで準備してください。あ、爆発させるときは教えてほしいっす」
     彰人の言葉に頷いた類が手を振ると小さな装置が現れた。類は彰人へと声をかける。
    「東雲くん、3秒前からカウントダウンをするよ!残り1秒の声が聞こえたらそのまま後ろに飛んで欲しい」
    「うっす!」
     襲いかかるぬいぐるみ達をいなしながら彰人は後方にいた類と冬弥と一瞬目を合わせ、ぬいぐるみ達の壁の向こう側にいる司へと目を向ける。
    「それじゃあ、行くよ!3、2、1…」
    (今だっ!)
     彰人はそのカウントを耳に入れた瞬間に後ろに引いた。その瞬間、爆音が響きぬいぐるみ達と彰人達の間に閃光と煙が走る。
    (光は聞いていないんすけど!?…でも冬弥とセンパイをヤツのトコに行かせるためにはオレがやんねぇと!頼んだ!)
     彰人は冬弥に目配せし、煙の壁から相手側へと飛び出した。司とぬいぐるみ達の視線は彰人へと一斉に向いた。
    (東雲くん、助かったよ。東雲くんがしっかりと対応してくれている間に僕達は僕達のすべきことをしなければね)
    「…青柳くん。行くよ」
    「はい。元凶の元へと向かいましょう。…彰人、頼んだぞ」
    “…2人とも、無事でいてね”
     彰人が注目を引きつけている間に煙に紛れて類と冬弥はその場を切り抜けていく。司達の認識範囲外であろう場所まで来たところで2人は一旦振り返り、ワンダーランドのKAITOのナビゲートに導かれながら走っていった。

    (冬弥達は行ったか。…だが、相手はセンパイとセンパイんとこのぬいぐるみ達…やりづれぇな、全力出してボロボロにするのも緊急事態とはいえなんか悪りぃし、でもちょっとでも気を抜いたらやられちまう…!)
     全力でやらねばやられることは頭では理解をしているが、やはりなかなかやり辛い。なかなか攻撃の一手を踏み出せない彰人であったが、不意打ちのような形で一体のぬいぐるみから脇腹へと頭突きを喰らう。
    「うっ!」
    “彰人くん!”
     司の強化を受けたぬいぐるみらしからぬ強い衝撃に彰人は堪らずぐらつく。司達はその隙を見逃さない。また別のぬいぐるみが追撃を行おうとしていた。
    (仕方ねぇな、ここでやられるわけにはいかねぇんだ。あとでセンパイとあいつらには謝ろう…)
    「悪りぃな!」
     彰人は向かってきたぬいぐるみに対してハルバードを振るう。軽さはどうにもならないのであろう。ぬいぐるみは飛んでいき、光の粒となって消えた。
    「消えた…?」
    “アキトクン!”
    「はっ?カイト…じゃねぇよな…まさか、こいつらか?」
    “ソウダヨ!ボクタチダヨ!”
     彰人は困惑した表情を浮かべながら、話しかけているとは思えないような攻撃を行うぬいぐるみ達に武器を振るう。
    「一体どういうことだ…?」
    “ツカサクン、ナンダカイツモト違ウ!今日、無理矢理連レテカレタ!ボクタチノ考エテルコト、全部閉ジコメテ無理矢理ボクタチヲ動カシテル!…アキトクン、大丈夫?”
    「体を動かしているのはお前らの意思ではねぇってことか…オレなら大丈夫だ、さっきは不意打ち喰らったが、なんてことねぇよ」
    “アキトクン、ボクタチノ事ハ気ニシナイデオモイキリヤッテ!ボクタチ、セカイニ戻ッタラ元通リ!”
     ぬいぐるみ達は言外に、自分達に対して全力でやってもいいと伝えた。これは、やりづらさを感じていた彰人にとっては有益な情報であった。
    「そういうコトか。わかった、ありがとよ」
    “アキトクン、ツカサクンヲ元通リニシテネ…!”
     覚悟を決めた彰人は、そっと耳に付けているヘッドマイクの電源を入れた。それは即ち、彰人の能力の発動を意味する。武器を持ち直し、すっと息を吸う。
    「誰もが突然に始まった、デタラメなシナリオの上で…」
     彰人が能力のために歌い出したのは「シネマ」だった。彰人に関わる騒動から生まれた曲。彰人の想いを司達にぶつけるにはうってつけの曲だった。近くにいたぬいぐるみ達は相当なダメージを受けたらしく、ふらふらと沈んでいく。体力があるらしい大型のぬいぐるみが歌の攻撃に耐えて突っ込んできたが、彰人のハルバードによってセカイへと帰っていった。だが、比較的遠くにいる司にはあまりダメージは与えられなかったらしい。少し頭を押さえているようにも見えるが、表情は余裕そうであった。
    (彰人くん、ぬいぐるみくん達と会話?してから覚悟が決まったみたいだね。でも、なんだか心配だなぁ。彰人くんがこういった戦い方を得意としているのはわかっているんだけど。僕もそっちに行けたら一緒に戦ったのに!…でも、なんだろう、この胸騒ぎは。なんだか、もっと悪い事が起こる気がしてなんだか少し怖い…かも)

     ワンダーランドのKAITOに導かれた先、目的地は周囲と比較するとまだ無事そうにも見える小さな教会のような場所だった。しかしその建物は扉や窓にびっしりと蔦が絡まりまるでこの先に行くことには意味がない、と感じられるようなものであった。
    「なんだか…本当にここはとても寂しい場所だねぇ」
    「そうですね。それでも、ここはとても広くてきっと綺麗な街並みであったはずです。きっと、歪められただけで本来ここは司先輩のセカイのように明るくて活気のあったセカイだったのでしょうか…」
    “僕達がここに込められた「本当の想い」を知ることは現状できないけれど…きっと、災厄の純結晶から解放されたこのセカイのバーチャルシンガーが、教えてくれるかもしれないね。…辿り着いたよ。この扉の前で眠っている結晶。彼が元凶だ”
     扉の前には大きな獣人のような姿をした穢れの結晶が丸まって眠っていた。類は目の前で司を裂け目の先へと連れ去った手と同じものであると理解した。
    「君だね、司くんを連れ去って操っているのは」
     類の言葉に反応したのであろう結晶はムクリと起き上がり、敵…類達を排除するために戦闘態勢へと移行する。
    「お前…!司先輩を返してもらうぞ!」
     冬弥が真っ先に剣を構えて斬りかかる。類も銃を構え、能力でドローンを呼び出した。結晶はその体格に似合う体力を持ち合わせているらしい。2人の攻撃にもびくともせず、近づいてきた冬弥にその鉤爪を向ける。冬弥は大剣でその攻撃を弾く。
    「流石に、元凶と言うだけはあるな…だが、早く片付けねば先輩と彰人が危ない。早く済ませましょう、先輩」
    「あぁ、フォローは任せてくれ、青柳くん」
     次の攻撃に備えて剣を構えながら、冬弥はヘッドマイクの電源を入れる。次の攻撃が来る前に、と焦る気持ちを落ち着かせながら、冬弥は歌い出した。
    「ヘッドフォン外して一人きり歩く街 迷ってるのか?」
     冬弥が歌い出したのは「RAD DOGS」。冬弥が父親との確執を一歩改善し、成長した際に生まれた曲だ。冬弥が今一番想いをぶつけるのには適した曲であり、彼を変えるきっかけとなった司と彰人という2人への想いをぶつけることに対してもうってつけの曲であった。
     冬弥の歌は結晶に迷いなくぶつけられている。冬弥の歌は一点集中な分、威力が大きい。結晶もぶつけられた力の大きさに少し驚いた様子であったが、それを振り切るように咆哮する。すると周囲の崩れた建物から多数の汚れのカケラが現れた。
    「そういうことかい!でも、青柳くんにばかり注目して僕を忘れるとはどういうことかな?このくらい、僕の敵ではないさ!」
     類はカケラ達に対して銃を乱れ撃つ。弾は魔法のように一発の狂いもなくカケラ達に命中する。司を助けるという強い想いを抱いている影響か、その威力はいつもよりも大きい。一発でも弱いカケラ達を消滅、または重症に追い込むのには十分であった。
    「フフ、青柳くんの邪魔をしたいのであればまずは僕を倒すことだね!ということで青柳くん、雑魚処理は僕に任せて、君は大物だけに集中して欲しい!」
     歌いながら戦っているせいで返事が返せない冬弥は一瞬類の方に視線を向け、頷いた。
    (先輩がカケラ達を倒している間に俺はこの穢れの結晶を何とかしないと…!弱点はどこだ…?)
     冬弥をサポートするために、KAITOは焦る冬弥の代わりに結晶を観察する。ふと、とあることに気が付いた。
    (冬弥くんは全身に激しい攻撃をしているはずなのに、左肩の上部の傷だけ浅い…?ううん、なんだかそこだけ硬い?冬弥くんの攻撃を弾いているようにも見える…もしかして)
    “冬弥くん、左肩上部を集中攻撃して!もしかしたらそこにコアが隠れているかもしれない!”
     冬弥は頷く。歌いながら手に持つ大剣を再び構え直した。今度は左肩に集中するように斬りかかる。剣は確かに結晶に当たったが、冬弥は感触に確かな違和感を覚えた。
    (確かに、他の部分よりもこの部分は硬さや剣の弾き具合が違う…だが、弱点を見つけてしまえばこちらのものだ!)
    「Alright振り向かず 進んで」
     歌い終わりと同時に大剣の攻撃を叩きつける。すると、肩の装甲が割れ、結晶が大きくぐらついた。3人はその隙を見逃さない。
    “2人とも!今だ!”
    「「これで、終わりだ!」」
     類と冬弥は、全ての力を込めた攻撃を結晶へと叩きつけた。結晶のコアは類の弾丸が貫き、冬弥の剣によって砕け散った。どろりと結晶が溶けて消えるその瞬間、割れたコアから何か小さなものが落ちていくのを類は見た。
    「ようやく、終わったねぇ…ん?これは?」
     緊張の糸が解れたのか地面へとへたりこんだ冬弥の隣で、類は落ちてきた何かを拾い上げた。それは優しい黄色の小さなかけらだった。一方、KAITOは彰人側へと連絡を繋げた。
    “彰人くん、大丈夫かい?こっちは仕留めたよ”
     すると、彰人は驚いた声色で返事をする。
    「は!?それ本当っすか!?司センパイ、全然止まらねぇんすけど!」
     彰人と通信を繋げたストリートのKAITO、そして操られた司がいる噴水広場。元凶である結晶を倒したにも関わらず、司の暴走は続いていた。
    「もしかして、僕達は別の奴を倒していたとか?」
    “それは無いよ、僕は司くんの想いの繋がりを元としてあいつを追ったから。偽物ならすぐにわかる…っ!?”
    「ワンダーランドのカイトさん、何かありましたか?」
    “しまった、ジャミングされていたとはいえ、司くんの異変の本当の原因に気が付かなかったなんて…!あの結晶、予想以上に用意周到な奴だったみたいだよ”
    “何か仕掛けがしてあったの?”
    “そうなんだ。簡単に言うと二重に操るための罠を仕掛けていた、といったところかな。まず僕が最初に司くんにアクセスに繋いだ時に気が付いた操るための術式…のようなもの。これにジャミングされていて僕はもう一つの方を気付くことが出来なかったんだ。”
    「想いを閉じ込めてアイツの思い通りに動かす、ってヤツっすよね」
    “それだよ。そしてこれに隠して想いを結晶化して元凶自身が持っていたみたいなんだ。生まれた穴を埋める為に元凶からの命令が消えても暴れ続けている…と言った感じかな。今の司くんは暴走しているような感じだよ”
    「結晶…もしかして、これかい?」
     類は先程拾った小さなかけらを取り出す。かけらはどこか暗いこのセカイの中で、きらりと輝いていた。
    “類くん、ナイスだよ!それが司くんの想いのかけらだね。こっちに戻って来れば僕が治療をするよ。彰人くんには本当に悪いのだけど…司くんを気絶させてくれないかい?”
    「は、どうして…ってそっか、そうしないと暴れるっすよね」
    “そういうこと。嫌な役割ばかり押し付けてごめんね”
    「別に大丈夫っすよ。冬弥とセンパイは先に帰って治療の準備を初めててください。司センパイはオレがなんとかする。」
     申し訳なさそうに告げるワンダーランドのKAITOの言葉に彰人はそう返す。冬弥が心配そうに声をかけた。
    「彰人、一人で大丈夫なのか?俺もそちらに向かって手伝うが…」
    「大丈夫だっつの。センパイ、体力バカなイメージあったけど全力で力使ってるからバテてきてんのかな。だんだん操ってるぬいぐるみの数が減ってんだ。オレ一人でも決着付きそうだし、戻って休んどけ」
    「…無茶をしたら怒るからな」
    「…わかったよ」
     彰人が返事をすると、冬弥達からの通信が切れた。治療のためにワンダーランドのセカイへと戻ったのだろう。通信に集中するためにこちらへと向かってきたぬいぐるみ達を近づけさせないことに集中していたが、状況を理解したからには早めにかたをつけなければならない。たしかに言われてみると少し前から攻撃がでたらめなことになっていると彰人は気付いた。
    「あのうるさいセンパイじゃないと調子狂うんですよ!だから、さっさと元のセンパイに戻ってください!」
     彰人はそう言いながら突進してきたぬいぐるみ達を武器で傷つけ、ワンダーランドのセカイへと送り返す。すると、司に変化が起きた。一瞬ぐらつき、旗の鈍い輝きが消える。司の能力が解除された証だ。能力の乱用によって本来以上の負担がかかったのだろう。残ったぬいぐるみ達も動きを止め、セカイへと帰っていった。
    「センパイ…?」
     司の急な変化に驚きながら、一定の距離を取りつつも彰人は司を見る。司は武器を持っていない手で頭を押させていたが、まだ戦う気は残っているらしい。俯いていた顔を上げて彰人の方を向き、槍を持って彰人へと突っ込んでいった。
    「はぁ!?まだやる気かよ!」
     司はひたすらに攻めているが、錯乱状態であるためか動きもでたらめで隙も大きい。この様子ならばすぐに片付くだろう。
    「だからっ…目を…醒ませよ!センパイ!」
     彰人は司を必要以上に傷つけない為に、武器の柄の部分で思いっきり腹を殴った。その衝撃と蓄積された疲労によって今度こそ体力が尽きたらしい。司はふらりと倒れ込んだ。気絶したことで戦闘意思が消え、旗は消滅し衣装も私服へと戻っていた。
    “彰人くん、お疲れ様。司くんも…気絶しただけみたいだね。これ以上動くことはなさそう。あっちの僕も手が離せないみたいだし、メイコを呼んだからいったんこっちに来てからワンダーランドのセカイへと向かおっか”
     薄赤色のプリズムが輝き、ストリートのセカイへと彰人と司は戻ってきた。迎えにきたKAITOとMEIKOはすぐにワンダーランドのセカイへのゲートを開く。2人は心配そうに2人を見つめていた。

     ワンダーランドのセカイ。薄黄色のプリズムと共に、彰人と抱えられた司が帰ってきた。2人を発見した可愛らしいパステルイエローの2人が駆け寄ってきた。
    「彰人くん、司くんおかえり〜!」
    「カイト達がテントで待っているよ!案内するからついて来て!」
    「悪りぃな、ありがとよリン、レン」
     2人に案内されて彰人はテントへの道を急ぐ。目的地に着くと2人は司を抱えた彰人を気遣い扉を開ける。彰人は再び2人へと感謝を述べ、KAITOがいるであろう奥の楽屋へと向かった。
    (こっちのカイトさんがなんか術かけてんのかな、このテントにいるだけで気力が回復してきている気がする。…センパイも早く元通りになるといいんだけどな)
     ステージに登って舞台袖へと向かう。通用口を通って医務室の看板がある扉を開けた。そこでは冬弥と類、KAITOとワンダーランドのルカが彰人達を待っていた。
    「彰人!司先輩!無事でよかった…」
    「おかえり、東雲くん、司くん。僕も安心したよ」
    「怪我は大丈夫かな?司くんはここに寝かせてくれるかな?」
    「はい…っと」
    「彰人くん、おかえりなさぁい。司くんを繋ぎ止めてくれてありがとう。はいこれ。被っておいてねぇ。回復の魔法を織り込んでいるから、回復しやすいはずよぉ。司くんの治療するから、彰人くんはゆっくり休んでねぇ」
     そう言ってルカは羊毛で作られたような毛布を彰人に被せた。ポカポカしていて暖かい。ルカの言う通り彼女の魔法が織り込まれた毛布は彰人の心と体に安心感を与えた。
    「…あざっす。ちょっと外出てきます、ここにいてもオレなんもできないし」
    「…わかったよ。司くんが目を覚ましたら伝えるからね」
     彰人が医務室を出て行く。冬弥は心配そうに呟いた。
    「彰人、もしかして不可抗力であったとはいえ仲間である司先輩を傷つけたことを気にしているのだろうか…」
    「考えているところごめんね。司くんの治療を始めるよ。類くん、結晶をくれるかい?」
     はい、と類は司の想いの結晶をKAITOへと渡す。結晶は彼の手へと渡るとふわりと宙に浮き、司の中へと還っていった。
    「不思議な光景ですね」
    「そうだね。けど綺麗だ。カイトさん、これで司くんは元通りなのかい?」
    「そうだよ。今は疲労もあって眠っているけれど、少ししたら目が覚めるんじゃないかな」
    「司くんが目を覚ましたら起こすから、類くんと冬弥くんも少し休んだらどうかしらぁ。2人もお疲れでしょう?私も…すこし…ふわぁ…」
    「ルカは起きてほしいな!君が寝てしまったら回復術が弱まってしまうよ!」
     いつもの如く眠り始めようとするルカの肩を揺らしてKAITOは精一杯起こそうとする。類達はその光景が微笑ましくふふ、と笑っていたが、やはり体力も限界だったらしい。司が元に戻った事で緊張の糸がぷつりと途切れ、2人は眠りへと落ちていった。

     かちりと、理性や意識を閉じ込めていた檻の鍵が開いた音がした。ふわりと、司の意識は浮上する。身体を動かすほどの力はまだ戻ってはいないが、もうすぐ目を覚ますことができるだろう。
     閉じ込められた檻の中で司の意識は、操られ、暴走させられた身体と傷つきながらも司を救おうと戦う仲間達を見つめていた。その中でも、強く司の印象に残ったのは彰人だった。圧倒的数的不利の中、司の想いの結晶というこの檻の鍵を取り戻させるために、類と冬弥を先行させた。それに口ではああ言っていたが、本当のところは司を戦う事で苦しむ2人を見たくなかったし、そんなことをさせたくはなかったのだろう。そのような優しい彼を、操られた身体は強制的に使役したぬいぐるみと共に傷つけた。その光景は、見つめていた司の意識に傷を残した。類や冬弥にも自らの無事を伝えなければならない。そして、彰人にも自らの無事と感謝を述べなければならない。
    (早く、目覚めさせてくれ…)
     未だに体力が戻らない自らの身体に向かって、司は強く願った。

    「…っ…」
    「司くん!?」
     司の意識は体の制御にたどり着き、目を覚ます。側で見守っていたKAITOは、司の意識が戻ったことに気が付き、声を掛けた。
    「…ん。カイトか…」
    「そうだよ。目が醒めてくれて安心した…」
    「改めておかえりなさぁい、司くん。私もいるわよぉ」
    「おぉ、ルカもいたのか。治療をしてくれていたんだな、感謝する。カイトと、あっちのカイトには迷惑をかけたな…あとでお礼に何かしなければ」
    「そんな事しなくてもいいんだよ、司くん。無事で、本当によかった…」
     そう言ってKAITOは司を優しくそっと抱きしめた。
    「ふふふ。司くんが目覚めてくれたし、2人も起こさなきゃねぇ?…類くん、冬弥くん、起きて。司くん、起きたわよぉ」
     類と冬弥はルカの毛布を被りながら、机に突っ伏す形で眠っていた。ルカはぽんぽんと肩を叩きながら、そっと2人に声をかける。少しの間そうしていると、まず類が目を覚ました。それに続いて、冬弥も目を覚ます。2人はまだ少し眠そうではあったが、視界に目覚めた司を確認すると一気に頭が覚醒した。
    「…ん。…え!?司くん起きたんだね!無事なようで安心したよ…僕らのこと、わかるかい?」
    「おはようございます、司先輩。目覚めてくれて安心しました。身体には異常はないでしょうか?」
    「まてまてーい!一気に喋るんじゃない!…大丈夫だ。わかるぞ、類、冬弥。身体は…そうだな、まだだるいが動けない程ではない。カイトとルカのお陰だな。2人には心配をかけてしまったし、特に冬弥。彰人が助けに来なければお前は危ない目に遭っていた。本当にすまなかった」
     そう言い、司はベッドに座ったまま綺麗に頭を下げた。司は悪くないと考えていた2人は彼の急な謝罪に慌て、困惑した。
    「つ、司先輩、頭を上げてください!先輩は何も悪くありませんし、俺は無事ですから…」
    「そうだよ、司くん。悪いのは君を操っていたあの穢れの結晶だ。君は何も悪くない」
     2人が必死にフォローをするも、司は首を横に振り、聞き入れない。
    「いいや、確かにオレの意思でやったことではなかったが、オレの身体がやったことだ。どうしてもオレは謝りたいんだ。どうか受け入れて欲しい」
     意地と優しさのぶつかり合いによる司と類・冬弥の睨み合いは、類の降参という形で幕を下ろす。
    「…はぁ。もう仕方ないなぁ。そういうことにしておいてあげるよ。青柳くんもそれでいいかな?」
     ため息をつきながら冬弥の方を見る。冬弥も納得はしていなさそうではあったが、こくりと頷いた。司はは、として辺りを見回す。
    「なぁ、2人とも。彰人は何処にいるんだ?」
    「彰人なら、やることがないからと出て行きましたよ。何処にいるかまではわかりませんが…」
    「彰人くんなら体を休ませなきゃいけないからこのテント内にいると思うよ。多分…ステージの観客席かな。行ってくるかい?」
    「ありがとう、行ってくる」
     彰人の居場所を聞き出した司は、ベッドから降りてステージへと向かう。4人はそんな司を見送った。

     彰人が客席で休んでいると、様々な場所から沢山のぬいぐるみが駆け寄ってきた。
    「アキトクーン!」
    「無事デヨカッタヨー!」
    「おー、お前ら本当に元に戻ってる。戦ってるからとは言っても傷つけてしまって悪かったな」
    「ダイジョーブダイジョーブ!」
    「ツカサクンヤアキトクン達ミンナノタメダヨ!」
     彰人はぬいぐるみ達の頭を撫でながら話す。暫くそうしていると、ステージ裏から足音が聞こえてきた。何体かのぬいぐるみがそちらの方へと駆け出す。ひょこりと覗いてそれが誰かを確認すると、「ツカサクン!」と言いながらそちらの方へと駆け寄った。ぬいぐるみ達にしがみつかれた姿で、司がステージ裏から顔を出した。司は彰人を視認し、安心したように微笑んだ。
    「おぉ、彰人!無事でよかったぞ!重かっただろうに、オレを運んでくれてありがとう。…ここからが本題なのだが、オレを止めてくれてありがとう。お前が率先して動いてくれなければ、オレだけじゃない。お前や冬弥達も危険な目に遭っていただろう。礼を言わせてくれ」
     そう言って司は彰人に向かって頭を下げた。彰人は焦ったように答える。
    「あー、はい…はい?いや…それセンパイが謝ることじゃ無いっすよね?アレはセンパイのせいじゃないですし…こっちこそすいませんでした。緊急事態とはいえあんたやこいつらを傷つけてしまいましたし…」
    「そんなこと…!こいつらだって許していただろう?こうしなければどうにもならなかったんだ。許すも何もあるものか。オレは、お前が、お前たちが無事ならばそれでよかったんだ」
    「はぁ…こっちだってそーいうことっすよ。お互い様ってヤツです。だから、これはもうお互い謝るのはナシです」
    「む…まぁ、そういうことにしておくか…」
    「そーいうことにしといてください」
     司は納得したような表情はしていなかったが、このままでは堂々巡りになることは理解したのか、彰人に同意した。彰人に近づいていき、失礼する、と一声掛けると隣の席へと座った。
    「そーいやセンパイ、この件とはちょっと違うところで文句あるんでした。センパイ、流石に無茶しすぎです。神代センパイの身代わりになるんじゃなくてもうちょっとなんかなかったんすか。あの手殴るとか」
    「あぁ、そのことか。だが、こればかりははオレも身体が勝手に動いたからなぁ…オレが守れなければ、というところに意識が引っ張られすぎていて攫おうとした手に何かをする、ということがすっかり頭から抜けていた。まぁ、反省はしている」
    「センパイ…」
     彰人が呆れ顔で返す。が、司の態度である程度諦めたのか、話題を変えた。ぽつりぽつりと、くだらない話や今回の話と反省会、此処に着いてからの話をしたすると、ステージ裏から冬弥たちが現れた。KAITOが口を開く。
    「改めて、みんなおかえりなさい。今回は予兆を掴むことができなかった僕たちの方にも落ち度があるから君たちがひどく気にしないで欲しい。当たり前だけど、今回の探索はここで切り上げて、みんなには休んでもらうよ。みんな…特に司くん、お願いだからしっかりと休んでね」
    「カイトさんに賛成です。今回の反省会はまた今度集まった時に行いましょう。…俺は、司先輩が無事で本当に安心しました。ゆっくり休んで、また優しい先輩を見せてください。彰人、帰ろう。…それでは、司先輩も神代先輩もお大事にしてください。お疲れ様でした」
    「おう、冬弥帰るか。…司センパイ、ホントに休んでくださいよ?」
    「ふふ、今日はありがとう。気を付けてねぇ」
     彰人と冬弥は薄赤色のプリズムに包まれてストリートのセカイへと帰っていった。取り残された4人は顔を見合わせる。
    「さて、僕も疲れているから帰ろうと思うのだけれど…司くん、まさか君残るとか言い出さないよね?僕としても、心配だし司くんにはしっかりと休んで欲しいのだけれど」
     類のその言葉に司はぎくりとする。類はその反応にじとりとした目線で司を見た。慌てて司は弁明する。
    「い、いやな?残ると言ってもちょっとだけだぞ?ちょっと一人で考えたいことがあったからな!心配ならばオレたちがセカイへと向かったワンダーステージで待ってもらって構わない。絶対にすぐに戻るから」
    「まぁわかったよ。絶対にすぐに帰ってきてね。…あ、あと咲希くんに今回のこと連絡しておくよ」
    「う…すまない。色々とありがとう」
    「類くん、帰るのねぇ。お大事に。ゆっくり休んでねぇ」
    「改めて、今日はありがとう。ゆっくりと休んでね」
     類はお疲れ様、というと虹色のプリズムに包まれて現実世界へと帰っていった。KAITOとルカは目を合わせると、司に心配させないようにね、と伝えてそれぞれその場から離れていった。
     1人になった司は考える。
    (この前4人で巨大な結晶と戦ったこと、今回のこと。オレはみんなを守りたいのに、守れない。あの時はあっちが勝手に自滅したから結果的に良かったものの、圧倒的にオレの実力が不足していた。ならば、オレの鍛錬不足ということで終わるだろう。だが、今回のようにオレが誰かを守るための行動を起こして、その結果誰かを傷つけることになってしまったら。それは、正しいのだろうか…仲間を、大切な人や場所を守るためには、オレが盾になるだけでは足りないのだろうか…?)
    「オレはどうすればいいのだろうか…オレは、何か変わらなければならないのか…?」
     司はぽつりと呟いた。
    (これ以上は類が心配するだろうな。とりあえず、これ以上考えるのはやめて今日はゆっくりと休もう)
     音楽を止め、司も現実世界へと帰っていった。その様子を、KAITOは心配そうに見ていた。
    (何かが、変わるときなのかもしれないね…)
     ワンダーランドのセカイに、一瞬暗雲が現れていた。

    司が現実世界へと帰ってくると、類がすぐに駆け寄ってきた。
    「おかえりなさい。ちゃんとすぐに帰ってきたね。さぁ、帰ろうか」
     2人は、話をしながら帰り道を歩く。ふと類が、そういえば、と話を切り出した。
    「咲希くんにはちゃんと連絡をしておいたよ。すぐに休ませるって連絡がきたから諦めてゆっくりと休むことだよ。」
    「む…そのくらい流石のオレでもわかっているぞ。類こそしっかりと休んでくれよ。この徹夜寝落ち常習犯め」
     司もむくれながら反撃する。
    「あと…司くん。何かあったり、悩みがあるのならばちゃんと僕たちに相談してね。僕たちは司くんの役に立ちたいのだから」
    「そのくらい当たり前だろう!オレだってお前やみんなの役に立ちたいからな!」
     司はビシッとポーズを決めてドヤ顔で返す。類が苦笑していると、分かれ道へと近づいてきた。
    「それじゃあこの辺で。…帰れるよね?」
    「オレを何だと思っているんだ!動くぐらいの元気ならば余裕であるぞ!類の方こそ気を付けて帰ってくれ。またな!」
     手を振って分かれて家路へと急ぐ。司が自宅の近くまでくると、迎えにきた咲希が司の荷物を奪ってそのまま手を取り、ぐいぐいと兄を引っ張りながら家路を歩く。
    「おかえり、お兄ちゃん!るいさんから聞いたよ〜?今日は料理とかアタシがやるし、お兄ちゃんにはちゃぁんと休んでもらうんだからね!」
    「む…咲希まで言うとは…流石にオレでもわかっているぞ!言葉に甘えて、ゆっくりと休ませて貰おう!」
     仲の良い兄妹の笑い声が住宅街に響いていた。
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