この夜を灰にして 燃える火のおとがする。
シダの葉が繁る深い森のなか、獣の足跡を避けてすすめば、じきに水辺にたどり着く。夜の湖畔は月光を映して眩しい。透き通った水底には、朽ちた花びらや、生き物の真白い骨が沈んでいる。浅瀬にうちあげられた旧い小舟と、屋根のない水車小屋。その、ほとんど崩れかけた小舟の端に座って、誰かが火を起こしていた。集めた焚き木をくべながら、彼は歌を口ずさむ。なだらかな頬を赤く染めて、秋雨のように穏やかな声で。すみれ色の眸に、淡い翳を落として。夜にみる灰は、雪に似ている。だから初め、俺はそこにだけ雪が降っているのだとおもった。雪のように降る灰だなんて、あまりにも寂しい。そうおもってしまうのは、俺が北の生まれだからだろうか。けれどもその光景は、不思議と俺を懐かしく、安らかな気持ちにさせた。そういう、絵だった。俺が迷いこんでしまったのは。
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