点と線約束の時間の少し前に着くと、もうそこに彼がいた。
「すみません、突然お呼びだてして」
「いえ、こちらこそわざわざこんな田舎まで来ていただいて……俺がお役に立てるかどうか」
油で薄汚れた作業服、と裏腹に名刺を受け取った指先は綺麗だった。
「特攻に征った〝やぎ〟という人の情報を探していましてね、もう十年になります。ご存知ありませんか?」
「やぎ、さんですか。聞いたことあるようなないような……そんな人いたようないないような……すみません、人の名前を覚えるのがあんまり得意じゃなくて。それに実際整備兵をしてたのもそんなに長い間じゃないんです、すぐに終戦になってしまって」
「いいんですいいんです、わかります。私もね、せっかく名前と顔を覚えても次の日にはもう会えない人になっている、そんなことしょっちゅうありましたから。仲良くなるだけ、その人のことを知れば知るほど、別れが辛い時代でしたね」
2015