前髪とざんにこ。「あ」
ニ子と俺の声が重なり、ニ子の少しクセのある柔らかい髪の毛が、ゆっくりと肩に落ちる。
俺はしまった、と小さく呟き、ニ子はただただ、鏡に映る自分の姿に青ざめ、言葉を失っていた。
俺は二子の前髪を切り過ぎてしまった。
鏡に映る二子と目があう。
絶対に顕わになることのないニ子の目が鏡の前に晒されている。
一般的に言えばちょうどいい長さか、少し長いくらいに切られた前髪。
それでもおでこと目を見られるのを極度に嫌がるニ子にとっては短すぎる状態だ。
ニ子がおでこと目を見られるのを嫌がる理由はわからない。
ただ、サッカーをするにもその長さは邪魔にならないかとか、ニ子の大きくて青い瞳が隠されるのはもったいないな、なんて思っていたら、手元が狂ってしまった。
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