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    kisaragikirara

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    kisaragikirara

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    過保護なミレ霧ちゃんです。

    過保護 なんだか喉が渇いたな。そう思って、霧香はソファから立ち上がり冷蔵庫に向かう。
    「ね、アンタどこ行くの」
    「どこって……冷蔵庫だけど」
    「そう」
    デスクで資料を読んでいたミレイユに呼び止められる。別に外に出ていく訳でもないのに、不思議なミレイユ。霧香は首を傾げながら、すっからかんの冷蔵庫からパックのリンゴジュースを取り出す。透き通った黄金色の液体がなみなみグラスを満たした。長らく冷えていたので甘いとか言うより『冷たい』の味がする。半分ぐらい飲んだところでグラスを置いて、霧香はこんなに注がなくてもよかったかなぁ、と思った。別に喉が渇いているとか甘いものが欲しいという訳ではなかったみたいで、まだどこか満たされないままソファに戻る。
    「アンタ、どっかいく前に私に一言いいなさいよ」
    「えっ?」
    カタカタパソコンをいじりながらミレイユが言う。
    「家主はあたしなんだから」
    「……そういうものなの?」
    記憶にある限りでは、霧香の同棲歴にはこの家が最初に刻まれている。それって束縛とかではと疑うけれど、反論材料は勘だけだった。
    「そうよ、貴方は知らないでしょうけど」
    さも当然というふうに余裕ぶってミレイユは振り返った。なんだかバカにされたみたいで、というか多分バカにされて、霧香はぷくーっとほっぺを膨らませる。ミレイユはくすくす笑った。
    「とにかく、あたしはアンタのことを守らなきゃいけないのよ」
    霧香はなにそれ、といってベッドに不貞腐れる。まるで私がちっちゃい子供みたいじゃない。
    「ちっちゃい子供よ」
    「あれ」
    ぜーんぶ聞こえてるのよ、そうミレイユはおどけてみせた。
    「銃の腕は一人前かもしれないけど、アンタすぐ机に足引っ掛けて死んじゃいそうじゃない」
    またくすくす笑いながら霧香の方へ歩み寄る。椅子の軋む音と、遠くに聞こえる子供の笑い声と、それからミレイユの美しい足取りを刻むブーツの足音。霧香はうつ伏せだった体を起こし、どこかうっとりした様子のミレイユを見つめていた。
    「ね、霧香」
    「なあに、ミレイユ」
    「私、本当に心配なんだから……」
    ささやき声。ぽす、と霧香の横にミレイユが座り、絹の触り心地の頤をそっとまさぐる。
    「霧香……」
    「なあに」
    健康的なペールオレンジにほの白い指が映える。
    「さっきのは、嘘よ、霧香はなんにも私に教えなくていい」
    「そう」
    軽く、キス。口紅の跡がうっすら霧香の目許に残る。
    「私……霧香のこと……」
    手離したくない。そう言いかけて、次は耳にキス。初めの方に交わした契りを、うっかり忘れるところだった。
    「私のこと、なぁに?」
    心做しか霧香の声が甘い。二人の距離が縮まる。十五センチ……五センチ……五ミリ……、ゼロ。
    小さな唇同士がくっついては離れる。微かなリンゴの風味が二人の間を行ったり来たりした。その度ぴちゃぴちゃ音がする。二人の間にディープキスみたいなものは到底必要なくて、ただ唇がてらてらお互いの唾液で濡れていれば、それだけでよかった。
    「……まだ死んでもらっちゃ困るって、思っただけよ」
    「ほんとに?」
    いつもはミレイユが難しいことを言うと、霧香は大体頷くだけで何も言わない。でも今日の霧香はしつこかった。
    「……本当よ」
    「ほんとのほんと?」
    すっかりかまってちゃんになってしまった霧香は、ミレイユのすべすべした太ももに手を置いて、それからそっとミレイユの赤い唇をちゅっちゅと喰む。今週初、霧香からのキスにミレイユは動揺を隠せない。手はさわさわミレイユの太ももやら腰周りやらをさすっているし、これはもうそういうことをしたいのだとしか思えなかった。軽いキスで満たされるなんて、やっぱり綺麗事だ。
    「嘘よ、霧香の事が……好きだから」
    ミレイユは霧香をぐっと押し倒してそう呟いた。じわじわと顔が熱い。一世一代の大告白だった。目を閉じて、満足そうに微笑む霧香にそっとキスをひとつ――。
     しかし、ミレイユは口周りと腕に強い衝撃を受ける。何事かと目を開くと視界に霧香はいない。顔を上げると霧香はのそのそベッドの向こうへ這い出ていってしまっており、さっきのは顔をあげた霧香とぶつかった衝撃であるとようやく理解する。満足そうに奥の方でにこにこ笑う霧香を見て、ミレイユは何が起こったのか気づいた。ミレイユが考えるに、さっきまでの霧香のキスやお触りは教えて教えてという子供のおねだりだったのだ。拍子抜けしてベッドに転がり、途端に行き場の無くなった熱をもやもや抱え込む。自分の気持ちをいいようにされて、ミレイユは怒り半分、愛しさ半分だった。案外霧香は駆け引きが上手いしあざとい。むすーっとして恨めしそうに霧香を見つめれば、目をぱちぱちしてから頬を赤く染めてはにかんだ。そして、かわいい女の子特有の、丸めた背中をぴこんと伸ばす動きをみせる。
    「あれっ」
    その時、ぐら、とバランスを崩して霧香がベッドの縁から落ちる。
    「霧香!」
    間一髪、ミレイユが身体ごとベットに抱き上げた。別に落ちたところで霧香は受け身を取れるしどうってこと無かったのだけれど、ミレイユは霧香が傷つくのがどうしてもたまらなかったのだ。
    「……無事でよかった」
    困ったように笑うミレイユ。指先で軽く霧香の髪を撫でた。
    「過保護なミレイユ」
    ぽかぽか温かいミレイユの腕の中に収まり、霧香もへにゃりと笑う。本当に、過保護なのだ。さっきまでの、嘘だとか本当だとか好きだとか心配だとか、そういうくすぐったいやり取りはしょっちゅうで、でもお互いにやめられない。
    「それはどうも」
    だけど、冷たいリンゴジュースでは届かない心の片隅が満たされていて、ま、過保護もいいかなぁと思う。
    「……ありがと」
    霧香からちっちゃなキス。正真正銘、大好きのキスだった。
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    kisaragikirara

    DOODLE※本編後&同棲続行中
    冬服を買いに行く二人のお話。
    冬服を買いに行こう!(ミレ霧) 水色のキャミソール、穴の空いてしまった白いパーカー、デニムのノースリーブワンピース。
    「霧香、あんたってほんとに冬服持ってないわけ?」
    クローゼットに頭を突っ込んでミレイユは話す。ん、といって霧香はちょっとだれてしまったピンクのニットとクリーム色のニットをミレイユの前に突き出した。
    「これ以外は?」
    そうミレイユが詰めると霧香はさながらしょんぼりした子犬のようになって、だめ……?というふうに上目遣いで見つめてくる。ミレイユはこの目に弱い。
    「……駄目!駄目よ!」
    霧香に、というよりかは自分自身への叫びだった。一昨日、霧香の冬服がないんじゃないかというのに気がついたミレイユにより提案されたお買い物。霧香はどうやら寒いのがあんまり好きじゃないらしく、それから今日までやだやだと渋っている。こんなにかわいくおねだりされると、どうせ家から出たくないだけなのだけれど、もしかしたらあたしと家でいちゃいちゃしたいのかなとか、今日はそういう気分なのかなとか考えてしまって、耳の端が熱くなってくる。頬まで真っ赤になる前に慌てて妄想をかき消した。
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    kisaragikirara

    DOODLE※最終話から二年後、二人で同棲&お付き合いしてます
    いい夫婦の日に合わせて書いたけどぜーんぜん間に合わなかったやつです。
    苺の花言葉は「幸福な家庭」だそうで、相互さんに紅茶の色々教えてもらったのですが上手く活かせずしょんぼり……
    というか全然夫婦とかじゃないかも。そーいうことに興味が出始めた学生カップルみたいになっちゃいました。ミレイユが左かも怪しいです。
    いい夫婦の日(ミレ霧) 冷たい風が強く窓ガラスを叩く昼下がり。霧香は頬杖をついてカタログをぺらぺらと捲る。その横に湯気の立ちのぼる紅茶が置かれた。苺の甘い香りが冬の冷たさと混ざり合う。
    「霧香、そこはあんたにはまだ早いわよ」
    霧香が見ているのは有名なアクセサリー店の結婚指輪特集だった。ベビーピンクの幸せなページにシルバーの輪っかが所狭しと並んでいる。霧香はその中の一つ、小ぶりで細身のものを指さした。
    「これ可愛い」
    「ふうん、なかなかいいデザインじゃない」
     あれから二年の月日が経った。二人にはもう暗殺以外の道なんて残っていないから、まだ相変わらず銃を握る日々が続いている。けれど、霧香は前よりよく笑うようになったし、ミレイユはどこか丸くなった。本棚には世界の名作が分かりやすく書き直された児童書の一角ができ、食器棚には猫の絵が入った皿やマグカップが増えた。
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