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    slow006

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    slow006

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    第16回 菅受けワンドロワンライ、「ごほうび」及菅で参加させていただきました。

    ドサリ。ベッドにうつ伏せに倒れ込んで、及川はふぅと息を吐いた。時刻は午前零時を回ったところ。疲労で鉛みたいに重い身体をもぞりもぞりと動かして、体制を横向きに変える。明かりを消してしまったので室内は暗いが、窓の外から入ってくる薄明かりでぼんやりと部屋の様子が見える。机の上は書類と文房具が散乱、椅子の背もたれには脱いだのか洗ったのかわからない服がかかっている。カバンは床に放りっぱなし。未だかつてない荒れ具合だ。

    この二週間の忙しさは尋常じゃなかった。クラブチームでの日々のトレーニングはもちろんのこと、慰問ボランティア、スポンサーとの会合などなど。オフシーズンといえど、なかなかのハードスケジュールが組まれており、それに加えて、ビザの更新時期が来たのだ。及川は飄々とした立ち振る舞いから軽薄な印象を持たれることはあるが、基本真面目な男である。学生時代、夏休みの宿題は計画的に進めるタイプであったし、無論こうした重要書類の申請などは、事前に準備を済ませ期日に間に合うようにしている。ところが、今回からビザ更新の代行先を変えたのがいけなかった。弁護士に依頼して動きがないまま二ヶ月、三ヶ月と経ち、あと少しで半年というところで、見かねたチームメイトが仲介に入ってくれた。蓋を開けてみれば、及川の依頼は手付かず。「アジア人のガキ」という認識で舐められていたのである。えらいこっちゃとチームメイトも巻き込んで奔走し、どうにかこうにか申請に漕ぎつけた。そんなこんなで日常生活が犠牲となり、この有様だ。

    明日はオフだから片付けなければ。でも今はこの惨状を見たくない。うーんと寝返りを打ち、傍らに放っていたスマートフォンに手を伸ばす。電源ボタンを押せば、日本にいる恋人が液晶に映し出される。海を背景に気取らずカラリと笑う姿。声をかけてからシャッターを切ると必ずと言って良いほど変な顔をするので、不意打ちで撮った写真だ。会いたいなあ。疲れた頭でぼんやりとメッセージアプリを開き、何も考えずにメッセージを送った。


    『めっちゃ頑張ったのでご褒美ください』


    日本との時差は約十二時間。今はちょうど昼休みに入った頃だろう。小学校教諭である菅原はきっと子どもたちと給食を食べている。返事が来ても仕事が終わったあとだろうな、とスマートフォンを伏せて眠りにつこうとすると、手の中がヴヴヴと振動する。まさかと思えばそのまさかで、ただ一言、簡潔に『ちょっと待って』と返信が来た。

    眠気と戦いながら待つこと十分。再びヴヴヴとスマートフォンが振動する。液晶には『sugaが写真を送信しました』の文字。ポップアップをタップし、表示された写真に及川はひっくり返りそうになった。

    薄暗い背景はトイレの個室だろうか。ジャージの前は開かれ、カッターシャツはたくし上げられている。なまっちろくうっすら腹筋が浮かぶ腹、平らな胸、薄く色づいた乳首に目がチカチカした。さらにその上、朱色のネクタイを銜える唇は艶かしい。そして目。僅かに熱を孕ませてキュッと悪戯っぽく細める目はひどく扇情的だった。沿うように歪む泣きぼくろが憎らしい。

    「えっちすぎるでしょ!!!!」

    思わず一人叫び声を上げれば隣の部屋からドンと壁を叩かれる。慌てて口元を押さえ、いてもたってもいられず音声通話のボタンを押すも、通話が繋がったのは七時間ほど経ってからだった。


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    slow006

    DOODLEリプorマロ来たセリフで短編書くで、リクエストしてもらいました!
    弱っている及川さん良いよねと思いつつ、こんな弱り方するか?と己の解釈と戦っている……。想定していたシチュじゃなかったら申し訳ない……。
    何も云わないで薄暗い玄関にいた。春からの新生活に向けて引っ越したばかりの部屋は物が少なく、未開封の段ボールがそこらかしこに鎮座している。引っ越した、と言ってもまだ準備段階。ここに住んでいるわけではなく、住環境を整えている真っ最中だ。照明もまともに機能しているのは部屋のなかだけ。玄関は用意していた電球ではワット数が合わず、そのままになっている。

    三月も終わりに差し掛かった頃、菅原のもとに一件のメッセージが届く。「これから会えない?」とただ一言。差出人は及川徹。半年ほど前から菅原と交際をしている、要は恋人である。恋人といっても付き合い始めた時期が悪い。部活だ受験だと慌ただしく互い違いになることもしばしば。そもそも通う学校が違う。きちんとしたデートは指で数える程度。なんとか隙間を見つけては逢瀬を重ねていたが、それでもやっぱり恋人というには時間が足りない気がしていた。そして、この春から二人は離れ離れになる。菅原は地元の大学へ進学。及川は単身、アルゼンチンに行くという。どうやら知己の人物を師事してとのことだが、よもや誰が予想できただろうか。それを初めて耳にしたとき、菅原は「そっか」とただ一言だけ返した。完全なるキャパシティオーバーで受け止めるのがやっとだった。
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    slow006

    DOODLE第17回 菅受けワンドロワンライ、「嘘・ハプニング」及菅で参加させていただきました。麦茶カランができたので満足ですが、時間が色々足りなかった。もうちょっと細かい描写入れたかった。
    嘘つきジージーと蝉が鳴く。夏休み真っ只中の小学生がはしゃぐ声が聞こえる。生温い風がそよりと部屋を抜けて窓辺に吊るした風鈴が揺れる。外の明かりに頼った室内は薄暗く、窓一面に広がる青色はまるで額に収まった絵画のようだった。外は雲ひとつない青空で、まさにレジャー日和。今遊ばずして、いつ遊ぶ。夏の陽気に誘われて外へ繰り出すぞ!とはならず、及川と菅原は勉強会を開いていた。夏休みと言えど受験生。部活がない日は勉強だ。及川の部屋に折り畳みのテーブルを広げ、それぞれの得意教科を教え合っていた。参考書を共有しやすいようにL字に座り、黙々と勉強。つい先ほどまでは。

    「ごめん、パーカー踏んで滑った」
    「や、大丈夫」

    今は、及川が菅原を押し倒し、すっぽり菅原を覆っている。きっかけは「麦茶、おかわり持ってくるね」と及川が立ち上がったこと。その足元には菅原を迎えに行く際に来ていたUVカットパーカーがあった。すべすべした素材のUVカットパーカーは滑りやすい。おまけに畳の上だと摩擦も少ない。つるりと滑ってすってんころりん。そばにいた菅原を巻き込んで、という具合である。幸いにも、及川が咄嗟に床に手をついたため菅原を押し潰すことはなかった。自分の下にいる菅原も、見る限りどこかを強く打った様子はなさそうだった。大事な時期に怪我をしたりさせたりするのは困る。及川はホッと胸を撫で下ろし、もう一度菅原のほうに目を向けた。
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    slow006

    DOODLE第16回 菅受けワンドロワンライ、「ごほうび」及菅で参加させていただきました。
    ドサリ。ベッドにうつ伏せに倒れ込んで、及川はふぅと息を吐いた。時刻は午前零時を回ったところ。疲労で鉛みたいに重い身体をもぞりもぞりと動かして、体制を横向きに変える。明かりを消してしまったので室内は暗いが、窓の外から入ってくる薄明かりでぼんやりと部屋の様子が見える。机の上は書類と文房具が散乱、椅子の背もたれには脱いだのか洗ったのかわからない服がかかっている。カバンは床に放りっぱなし。未だかつてない荒れ具合だ。

    この二週間の忙しさは尋常じゃなかった。クラブチームでの日々のトレーニングはもちろんのこと、慰問ボランティア、スポンサーとの会合などなど。オフシーズンといえど、なかなかのハードスケジュールが組まれており、それに加えて、ビザの更新時期が来たのだ。及川は飄々とした立ち振る舞いから軽薄な印象を持たれることはあるが、基本真面目な男である。学生時代、夏休みの宿題は計画的に進めるタイプであったし、無論こうした重要書類の申請などは、事前に準備を済ませ期日に間に合うようにしている。ところが、今回からビザ更新の代行先を変えたのがいけなかった。弁護士に依頼して動きがないまま二ヶ月、三ヶ月と経ち、あと少しで半年というところで、見かねたチームメイトが仲介に入ってくれた。蓋を開けてみれば、及川の依頼は手付かず。「アジア人のガキ」という認識で舐められていたのである。えらいこっちゃとチームメイトも巻き込んで奔走し、どうにかこうにか申請に漕ぎつけた。そんなこんなで日常生活が犠牲となり、この有様だ。
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    slow006

    DOODLE第15回 菅受けワンドロワンライ、「映画・特別」及菅で参加させていただきます。
    映画は「フォレストガンプ」です。面白いので良かったら見てください。1994年だと「天使にラブ・ソングを2」もおすすめです。
    第15回 菅受けワンドロワンライ「映画・特別」―― My momma always said,”Life was like a box of chocolates. You never know what you’re gonna get.”

    スクリーンに文字が流れ切ると一瞬、視界が真っ暗になる。それから一拍ほど置いて照明がつき、同時に静まり返っていた劇場内は賑やかになった。同行者と話し始める人、荷物の整理を始める人、足早に席を立つ人など、さまざまだ。菅原と及川は席に座ったまま、人が捌けるのを待っていた。

    菅原がときおり訪れる映画館では、名作映画を週替わりでリバイバル上映している。上映される映画は、菅原が生まれるより前のものであったり、まだ幼く映画館に訪れることがなかった時期のものだったりと、古くても目新しいものがほとんど。なかには、昔から映画番組で何度も観たことのあるものもあったが、テレビで観るのと、映画館で観るのとでは、没入感や臨場感、ストーリーの理解度が段違いだった。要は映画にしっかり向き合えるのだ。この週替わりの上映を菅原は気に入っていて、めぼしい映画をチェックしては、映画館に足を運ぶ。この日観た映画は、アメリカのヒューマンドラマ映画で及川と菅原が生まれた1994年に公開されたものだ。たまたま上映日と及川の帰国が重なり、菅原は及川を誘って映画館にやってきた。
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