ヒヨシと弟妹 〜そうめん編〜「今日はそうめんじゃ!」
「やったー!」
「ピンクいろ食べる」
「おれミドリ!」
「おうおう。ばっちり入っとるぞ」
弟妹の器にダシを入れたヒヨシが笑えば、幼い二人はコップを三つ出して麦茶を注いだ。ペットボトルから注ぐ際に跳ねた滴がテーブルをところどころ濡らしていく。仕上げにと入れた大きな氷が麦茶の海に勢いよく沈んで、器の中のそうめんを濡らした。
「自分でそうめん取れる人ー!?」
「はーい!」
「とれる!」
「じゃあ手を合わせて」
「いただきます!」
「いただきます」
元気な声と共に器に伸びた小さな手は、少しずつ麺を持ち上げていく。小さなお椀に小山ができたところでイスに腰を下ろした弟妹を確認してから、ヒヨシは大きく自分の分をお椀に取り分けた。
「にいちゃん何色?」
「あか?」
ツルツルと麺を食べていた手を止めて自分を見上げてきたつぶらな瞳に応えるよう、ヒヨシは白い麺を持ち上げる。
「お前らがそれぞれ食べてるから、兄ちゃんのは特にないな」
「えっ」
「美味しいのに」
「なあに。お前らが美味そうに食べてくれれば満足じゃ」
不服そうな頭を撫でて食事を再開すれば、幼い二人は小さく尖らせた口で静かにそうめんを啜った。
後日、得意げな顔の弟妹にヒヨシが差し出されたのは、かき氷のシロップに漬け込まれたそうめんだった。
「にいちゃんのだから赤にした!」
「イチゴあじ、ぜったい美味しい」
大きなグラスに入れられたイチゴシロップに漬けられた乾麺は、長く水分に触れていたためか僅かに曲線を描いている。これは嗜めた方が良いのか、それとも全てを受け入れて昼食をそうめんにするべきか。脳内で悩みに悩んだヒヨシは、とりあえず笑顔でお礼を言うことにした。