パンちゃんの運動会※DBの映画を見て、パンちゃんが可愛くてたまらなくなった結果の幻覚ですので解像度は粗めです。よろしくお願いします。
『一週間前』
3歳のパンちゃんは、幼稚園で初めて参加する運動会が楽しみで仕方ありません。
幼稚園で作った招待状は、自分で折った折り紙を貼った世界に一つだけのもの。これを来てほしい人に渡してねと先生に言われた日から、パンちゃんはずーっとドキドキしていました。
運動会に来てほしい人はたくさんいます。パパ、ママ、おじいちゃんにおばあちゃん。そして忘れちゃいけないのが、いつもたくさん遊んでくれるピッコロさんです。
「ピッコロさん、これね、招待状なの!」
「なんの招待だ?」
「今度ね、幼稚園で運動会があるんだ」
「お前も出るのか」
「そうだよ! わたしはね、お菓子拾いと、リレーに出るの」
「そうか」
「ぜったい来てね! 約束だよ」
「わかった」
そう言って、招待状を机の上に置いたピッコロさんに、パンちゃんは安心しておやつを食べました。
『運動会の日』
今日は待ちに待った運動会の日です。パンちゃんがお友達と並んでグラウンドに入場すると、観客席に座っていたパパとママ、それにおじいちゃんが手を振ってくれました。お友達のお家の人も、それぞれみんなレジャーシートや折り畳みの椅子に座ってビデオを撮ったり、写真を撮ったりしています。パンちゃんもママがカメラを持っているのに気がついたので、にっこりポーズをとってみれば、おじいちゃんの大きな声が可愛いと褒めてくれました。
「あれ?」
グラウンドで整列をした時、パンちゃんはピッコロさんの姿がないことに気がつきました。招待状を渡したときに来てくれると約束したのに、パパたちと一緒にいなかったピッコロさんは、どこにいるんだろう?
ピッコロさんが約束を破るはずがありません。園長先生がお話をしている間、パンちゃんは先生に怒られないように気をつけながらピッコロさんを探しました。ピッコロさんの気をよく知っているパンちゃんにすれば、ピッコロさんを探すことなど難しくはないのです。
ピッコロさんは、グラウンドから少し離れた木の上に座っていました。入場ゲートに戻るときに呼びかけて手を振ると、ピッコロさんの座っている木が揺れたように見えました。もしかしたら、お返事の代わりに木を揺らしてくれたのかもしれません。
『お菓子拾い』
三歳クラスの最初の競技はお菓子拾い。パンちゃんは手に持った袋がお菓子でいっぱいになるように、おしゃべりもしないで頑張りました。おかげで袋はパンパンです。
お昼の休憩時間にパパたちのところへ行って、何が取れたのかを確かめてみると、いろんなお菓子の中に一つだけ、水飴がありました。
「ピッコロさんの色だ」
棒つきキャンディーのようにビニールで包まれた水飴は、つやつやした黄緑色がとても綺麗です。
「これ、ピッコロさんにあげてくる!」
「じゃあ一緒にお水を持って行ってちょうだい。今日は暑いから、水分補給はしっかりしないとね」
「うん!」
パンちゃんがピッコロさんのところまで走っていくと、声が聞こえていたらしいピッコロさんは木の下で立って待っていました。
「ピッコロさん、これあげる!」
「さっきの競技でとったものだろう。自分で食べればいい」
「でもこれ、水飴だからピッコロさんも食べられるでしょ?」
「え」
「はい、どうぞ!」
ペットボトルの水と一緒に差し出すと、ピッコロさんは少しだけ唸ってから、大きな手で水と水飴を受け取ってくれました。
「これからご飯の時間だけど、ピッコロさんも一緒に来る?」
「俺はここでいい」
「じゃあ、お昼の後も応援しててね!」
「わかった」
『借りもの競争』
いよいよ午後の競技が始まりました。パンちゃんが出るのは借りもの競争。
先生の声とピストルの合図でスタートしたレースで、パンちゃんは一番に借りもののお題くじを引きました。
「パンちゃんが借りてくるのは『つよいひと』です。頑張ってね」
「はい!」
先生にくじを読んでもらったパンちゃんは、迷わず真っ直ぐ走り出しました。パンちゃんの知っている『つよいひと』はたくさんいますから、悩むことなんかありません。
でも、パパたちのところまで辿り着いたパンちゃんは、そこであっと気がつきました。
パンちゃんの前にいるのは、パパとママ、そしておじいちゃん。みんなそれぞれ、パンちゃんの大好きな『つよいひと』ばかりです。中でも一番『つよいひと』だと思うのがパパですが、今日ここに来てくれているピッコロさんも、パンちゃんにとっては『つよいひと』です。パンちゃんにはどっちが強いかなんて選ぶことができず、困ってしまいました。
うんうん悩むパンちゃんの借りものくじを見たママとおじいちゃんは、にこにこ笑ってビデオを撮るだけで、一緒に考えてはくれなさそうです。目の前にいるパパも、パンちゃんの様子を静かに見ているだけで、声をかけてはくれません。
そうこうしているうちに、お友達がゴールする声が聞こえてきました。早くしないと! そう思うのに、パンちゃんの答えは決まりません。
小さな頭を右へ左へ、たくさん揺らして考えたパンちゃんは、ぎゅっと握った自分の手を見て、いいことを思いつきました。
「パパとピッコロさん、じゃんけんして!」
「え?」
「ピッコロさん、じゃんけんー!」
パンちゃんがピッコロさんに向かって手を振ると、すぐに飛んできたピッコロさんが不思議そうにしています。腕を引っ張れば、レジャーシートの上に座ったピッコロさんが、パパと揃って首を傾げました。
「わたしね、どっちが一番つよいか決められないの。だから、じゃんけんで勝った人が、今日の一番つよいひと!」
得意そうに笑うパンちゃんに、パパとピッコロさんは少しだけ顔を見合わせてから、静かにじゃんけんをしてくれました。そうして勝ったのは、パパです。
「じゃあ、今日はパパが一番つよいひとね!」
「よおし、パン。走るぞー!」
「おー!!」
大好きなパパと手を繋いで元気よく走り出したパンちゃんは、ピカピカの笑顔でゴールテープを切りました。