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    yanson88b

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    yanson88b

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    8巻軸以降の妄想話の小説もどき。
    ビスコとしばらく会えなくなったミロがなんか不調になる話。
    シュガーちゃんがでてきます。

    欠乏症紅菱達が開拓した九州は新華蘇県、そこに出張開業されたパンダ医院の一室で、ミロは机に突っ伏していた。ここ最近、何故か日に日に気力が衰え、何をしても気持ちが上がらない。眠りも浅く、食欲もない。凄腕のパンダ先生からは想像できないようなケアレスミスを連発し、得意の調剤にすら失敗するといったありさまで、元来医者としての自負にあふれたミロも、今回ばかりは自分の不調さに自信の綻びすら感じはじめていた。

    診療時間の合間となる昼下りの時間、通常であれば、カルテ整理やら薬の補充、入院患者への対応に当たっている所ではあるが、ここ数日のミロの目に見える不調ぶりと顔色の悪さに、看護師たちから「取り敢えず先生は休んでください。」と、遠まわしの戦力外通告を受け、この時間には人の出入りがない診察室へ否応なしに放り込まれてしまった。こじんまりとした部屋には患者用のベットも備え付けてあるが、眠る気にもなれず、ただ椅子に座り、机に項垂れている次第である。

    これといって便りのないビスコたちは元気にしているだろうか。
    机に顔を横たえて、外で鳴く小鳥のさえずりを聞きながら、ミロは遠く離れた場所にいる相棒のことを考えていた。

    現在ビスコと娘のシュガー、そしてアクタガワはミロを残し、北海道に遠征に出かけていた。
    数か月前、北海道のきのこ守り達に再び北海道を動かしてほしいとの一報を受け、ついでに北海道の潤沢な薬草やきのこを採取して補充しようとミロとビスコは計画していた。ここ最近の多雨と日照不足で、一部の植物やきのこはひどく生育が悪く、近辺の採取では心もとないという状況でもあり、旅の計画はスムーズに決まった。
    が、問題は出発の直前に起きた。紅菱達の間に流行り病が発生したのである。
    明日にも旅立つ予定だったミロは急遽その対応に追われることとなった。

    幸いなことに短期間で死亡者がでるほどの毒性ではなく、応急的な処置で、ある程度症状の緩和が見られた。またその病は紅菱達のもつ植物的因子に起因する物のようで、罹患するのは紅菱達のみであり、ミロ達自身の体には全く影響がなかった。
    しかしながら、その感染力たるやすさまじく、新華蘇県で医療業務に携わっていた紅菱達も次々と倒れていく。ミロは医者として、さすがにそんな紅菱達を放って旅立つことができなかった。
    北海道のきのこ守り達に急かされているのに加え、元気の有り余るシュガーを都市部に長期留めるのもはばかられたこと、何より大勢の紅菱達を完全に治療するのに必要な材料も不足していたため、ビスコ達には北海道へ赴いて貰うことにして、ミロは一人留守番とあいなったのである。

    ビスコ達は旅立って数か月、紅菱達の病はミロが一週間近く精魂を注いで調剤されたアンプルによって次第に落ち着きを見せ始めていた。
    その一方、相棒からは便りのひとつもない。
    ビスコ達の力に圧倒的な信頼を置いてはいるが、何か重大な事件に巻き込まれて怪我などしていないだろうか・・その顔に似つかない優しさから、面倒事に首を突っ込んで手に負えない事態になってはいないだろうか・・と心配になっては頭をふる。
    シュガーも生まれた直後に比べたら随分理性がついてきてはいるが、まだ稀に感情が高ぶると制御がしきれず力が暴発することもあり、建造物どころか丘の一つや二つ吹き飛ばしてしまうなんてことも十分に想像できる。娘が頑丈な肉体と大きな力に反して、とても繊細な心を持っていることを母親であるミロは知っていた。
    (ビスコと喧嘩してないといいけど・・二人が暴走したらアクタガワだけが頼りだな・・)
    そんな風に、ここ最近はぐるぐると相棒と愛娘と蟹一匹のことを考えては、ため息をついていた。

    目に見えて元気のない弟を姉のパウーはひどく心配し、他県の医者を連れてきて診て貰おうと提案するほどだった。
    「ミロ、最近ため息ばかりついて、元気がないな・・。顔色も悪い。どこか具合が悪いのなら無理せず医者に見て貰おう。心配するな知事だった頃の伝手もわずかだがある。なるべく腕のいい医者を呼ぼう。」
    「だ、大丈夫だよ!パウー!僕も医者だよ?少し忙しかったし、運動不足なのかも。だいぶ新規の患者さんも落ち着いてきたし、もう心配ないよ。」
    ミロは特に姉や患者の前では気丈に振る舞っていたが、そろそろその繕いも限界のようで、最近商売に来ていたチロルには
    「ミロさ~患者診る前にちょっと自分の顔見て来なよ~。ちゃんと寝てる?ほとんど両目パンダだよ。綺麗な顔が勿体ない~。」などと言われ、金も取らず栄養ドリンクを押し付けられる始末である。

    ミロ自身、初めは流行り病への対応で疲れが出たのか・・とも考えていたが、冷静に客観的に、医者として今の自分を分析するに、この不調はどうも精神からきている物であると考え始めていた。
    「寂しい...のかな」
    自分以外の誰もいない診察室でボソリと呟く。思えば、相棒とは忌浜で出会ってからずっと一緒だった。こんなに長い時間離ればなれになるのは、初めてかもしれない。
    なんだか胸の半分がそがれたような、ポカリと空間が空いたような感覚で、相棒の存在を反芻する度に、その空間をより鮮明に認識して、胸の痛みにわずかにうめいた。
    自分の名を呼ぶ相棒の声が頭の中で反響する。
    支え合い、高めあい、時に悪態をつきあって、二人錆喰いを求めて旅したあの日から、ビスコはもはや自身の半身に近い存在になっていたのかもしれない。
    (会いたいなぁ.. )
    さまざまな欠乏症は世にあれど、さながらビスコ不足というものを、(なんだそれ・・)とやや自身の考えに苦笑しながらもひしひし実感しはじめていた。

    「ビスコ..」
    そこにいない相棒の名前をか細い声で久しぶりに呼べば、ぐっと喉の奥がつまり、切なさが込み上げた。
    「ビスコぉ..」 
    「なんだよ」 
    もう一度名前を呼んだその時、突然返ってくる声に、バッと顔をあげれば、そこには想い焦がれた相棒が立っていた。 
    「うわあああっ!!」
    突然のことに驚いて椅子から転げ落ちる。
    「おいなんだてめぇ!人をおばけみたいに!!!」
    「と、突然来るからでしょー..あービックリした。ちゃんとドアからはいってきてよー」
    「確かに窓からは入ったけど・・よ。ちゃんと声は掛けた。けどお前が机に突っ伏してブツブツ言ってて気づきゃしねぇ。ったくようやく帰って来たってぇのに、もっと言うことあるだろうが。・・ほら。」
    やや不満げな表情で、ビスコは椅子から転げ落ちたままの相棒に手を差し伸べた。
    ミロは少し微笑んでその手をとりぐっと起き上がった。
    「・・おかえりビスコ」
    「うん。ただいま。」
    ミロが嬉しそうに笑うとビスコも犬歯を覗かせて笑う。
    笑い合ったのも束の間、相棒の顔を真正面から見たビスコは、色白なミロの顔がいつもより一層白く、少し青ざめているのに気付き、少し眉をひそめた。
    「顔色がよくねえ。あと痩せたな。調子でも悪いのか?」
    焦がれていた翡翠の瞳に真っ直ぐ見つめられて、ミロは何かが決壊しそうなのをぐっと堪えて微笑んだ。
    「ううん、大丈夫。忙しくて少し寝不足なだけ。これから回復に向かう所・・かな。」
    「ふーん..?そうか?ならいいけどよ。さっきお前がシュガーや俺やアクタガワに会えなくて寂しがってるんじゃねぇかってアクタガワと話してたんだが..」
    いたずらっぽく笑いながら話しはじめたビスコの胸にトスとミロの頭がもたれ掛かった。
    「..寂しかった」
    ビスコは冗談まじりに話し始めた言葉をピタリと止めて、いつもよりか細いミロの声に耳を傾ける。
    「..食欲でないし、気力も湧かないし、調剤も、失敗するし、優秀な医者で、いられなくなるぐらいには、君に・・・会いたかった。」
    「・・いつもは優秀みたいな言い方だな?」
    とつとつと呟く相棒に、ビスコは静かで、優しい眼差しを向けながらも煽り文句を放った。
    「いつもは優秀でしょ・・」
    ミロは抗議こそしたが、顔をあげずビスコの胸に突っ伏したまま、その声はどこか泣きそうで弱々しかった。
    どつかれる程度の抗議を想定していたビスコは、未だ項垂れる相棒の様子を見て、黙って両の腕をミロの背に回し、そのまま優しく抱き締めてやった。
    ミロはずっと望んでいた、子供が母親か父親の暖かさに包まれるような安心感を得て、ようやく少し本来の調子を取り戻したようだった。
    空に垂らしていた自身の腕をビスコの背に回し、ギュっその存在を確かめるように抱きしめた。
    「・・怪我はない?」
    「ねぇよ」
    「シュガーは、元気にしてた?」
    「元気すぎるくらいだ。時々ママ元気かなって寂しそうにはしてた。」
    「・・そっか、シュガーにも早く会いたいな」
    「今入り口で会ったチロルとアクタガワの飯取りに行ってる。なんだか知らねぇが、俺はさっさと行けってチロルのやつに追い出された。」
    「あはは、チロルにはバレてたか。敵わないなぁ」

    ビスコはしばらくミロを抱き締めたまま、ミロが満足いくまでと、望むようにさせていた。
    そこで、
    「カシャッ」
    突然響いた機械的な音に二人が顔を上げると、体の1/3ほどもある大きなカメラを持って窓辺に腰掛ける娘のシュガーがいた。
    「あ!?!?ッッな!!!シュガーお前っ!!!何撮ってんだ!!!」
    「きゅははっ!仲良しなパパとママ!!!!」
    「チロルはどうした!」
    「アクタガワとデートだよ」
    「あの野郎またアクタガワさらう気じゃねぇだろうな!」
    大方チロルから借りてきたものだろう、シュガーは嬉しそうにカメラを掲げた。
    それを取り上げようと飛びかかったビスコであったが、シュガーは実の父を華麗な足さばきでいなし、踏み台にして、そのまま母に飛び付いた。
    「ママーーッ!!」
    「シュガー!!」
    「会いたかったーーっ!」
    「僕もだよ」
    ミロは娘を優しく、そして目一杯抱き締めて久しぶりのその愛しい体温に少し涙ぐんだ。
    「ジュガー元気にしてた?」
    「うんっ!ママは!?」
    「ちょっと寂しかったけど、シュガーたちに会えたからもう元気だよ。北海道はどうだった?楽しかった?」
    「うん!楽しかったよ!あのね!ママにお土産もあるよ!!」

    ビスコといえばシュガーに足蹴にされ、診察室の床にひっくり反ったまま、久しぶりの再会に楽し気に話す母子の様子を、微笑ましいような、でもどこか納得いかないような、複雑な気持ちで眺めていた。

    後日、カメラはチロルに返還されたが、撮った写真をシュガーが頑として欲しがったため、出世払いを約束させてチロルからシュガーに進呈された。
    シュガーはそれが余程気に入ったのか、行く先々で「見て!!!仲良しなパパとママ!!!」と会う人会う人に見せて回ろうとするので、しばらくビスコはシュガーを追い回す日が続いた。

    おわり
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