1かつては軍服を纏い、雇われ兵士として傭兵部隊での任務に打ち込んていた彼は、今はいかにも探偵然とした青地のインバネスコートを身にまとい、「Mr.ミステリー」という名の私立探偵として事務所を構え、日々の労働に励んでいる。その通り名を(ふざけた名前だ)と感じる程度の感覚は彼にも備わっていたが、かといって、それは彼にとって気に病んだりするほどのことでもない。名前は何ら重要なことではない。仕事は仕事だ。
「私立探偵Mr.ミステリー」という姿は、都市における擬態である。彼は時折、“雇い主”からの指令を受けて任務行動を行う。その際に、退役軍人として物々しい格好を揃えていくよりは、私立探偵の外装を整えていたほうが容易く対象に接近し、「任務」をこなしやすい。それだけのことだ。
ある冬の日、彼のもとに一人の男が、薄汚れたスウェットというラフな格好で飛び込んできた。
「娘がいなくなったんだ」と訴えるその男は、巨漢と言ってもいい立派な体格をしている。しかしその必死の訴えは、若干異臭がする寝間着のような格好のせいで、警察では浮浪者の世迷言と相手にされなかったらしい。男の手には、Mr.ミステリーが私立探偵の外装をいっそう整えるために撒いた宣伝チラシが、さながらちり紙のように握りしめられている。
「あの女、離婚した妻が、勝手に連れ出したのかもしれない、あの子を、リサを……ああ先生! どうか娘を探していただけませんか、先生……」
巨躯を縮めて床に這いつくばる男やもめの杜撰なその身なりから、成功報酬には期待できそうにもない。しかし、直近で“雇い主”からの連絡はなく、ちょうど彼は暇を持て余しているところだった。私立探偵の外装をよく取り繕うために、素人からの依頼をある程度はこなすべきだろう。Mr.ミステリーは男からの依頼を引き受けることにした。