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    @t_utumiiiii

    @t_utumiiiii

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    #不穏なお題30日チャレンジ 1(15).「トラバサミ」(傭兵とオフェンス)
    *日記のないキャラクターの言動等諸々を捏造
    *傭兵誕生日手紙(四年目/9-?-3ファイルの添付資料)の内容を含みます

    救援に馳せる(傭兵とオフェンス) 12月15日午後、実験台を移動しに向かった処刑人は、9-?-3が行方不明になっていたことに気づいた。同時に、処理室でこのメモを発見。
    その後の調査を経て、荘園内で9-?-3が残した痕跡が数発見された。その行方は分からないままだ。外部の人員を引き入れて調査を行ったのかもしれない。


    ***


     処理室を脱出したナワーブが当面の住処と定めたのは、森の中で忘れられたようにある猟師小屋だった。どこかしらが破れているのか、風の吹くたびに雪混じりの冷たい風が吹き抜けていく吹雪めいた音が響いてくるものの、曇っている窓ガラスはヒビが入りつつ健在であることが不幸中の幸いだった。追手がある以上、迂闊に火を焚くことはできない。ヒマラヤの気候の元で育ち、職業柄もあって過酷な環境下の生活が長いナワーブは兎も角、負傷したスポーツマンには今の状況すら十二分に過酷なものだろう。
     ウィリアムの足首には肉の抉れたような酷い傷があった。ナワーブが処理室で気絶しているのを見付けたとき、既に彼の足首はその状態であり、逃亡者の身の上であるナワーブに施せる処置と言えば、せいぜいが消毒と圧迫止血程度である。この処置はあくまで簡易的なものでしかなく、あまり長々と縛ると予後が悪いことをナワーブは知っていたが、他にどうしようもなかった。
     例の荘園にはどうやら複数人囚われているらしい。もしあの中に医師が居り、それを連れてくることができるのであれば話は別かもしれないが……これ以上部外者を抱え込むのは、既に「足手まとい」という多大なリスクを取っているナワーブにとって、許容しかねるリスクになる。名簿のようなものが保管されている場所がわかるのならば、或いは「医師を連れて来る」ということが叶うかもしれない。今はこの領域からの脱出に集中しているが、脱出が難しいようであれば“新たな人員の引き入れ”を検討するべきだろうか。無論、それまでに手遅れにならないという保証はないが――ナワーブは二重に重ねているくすんだ緑に薄汚れた上着(野戦用のカモフラージュにもなる)のフードを外すと、ベッドに寝かせているラガーマンの足に申し分程度に巻きつけていた包帯を解き、脱出経路を調査する道中で取得した救急箱にあった消毒薬を使いつつ、傷の確認と消毒を行う。
     筋肉質な彼の全体重を掛けて踏み抜いたのだろうトラバサミに掛かって、足首の肉のえぐれた傷の予後は、出血はほぼ止まっており、腐敗臭がない時点で悪くはない(今が冬というのも良かったのだろう。夏ではこうはいかなかった)。しかし、流石に再生の気配はなく、負傷した本人も基本的に寝たきりの暮らしを送っている。用を足すときは杖を付いて歩いていると本人は言うが、ナワーブが一応配慮として置いてやった尿瓶代わりの空き瓶を使っていることも多い。
    「……ナワーブ、さん」
     見ると、野性的な髭が若干伸びたラガーマンは目を擦るでもなく、彼のトラバサミにやられた足の具合を観察しているナワーブを、覇気のない様子(この男を担いで処置室から連れ出して以来、彼はずっとこの調子だった。負傷している他、体調も万全ではないのかもしれない――“望み”を叶える宛が外れ、精神的に参っているということかもしれないが。)で見ていた。
    「起こしたか、悪い」
     端的に返したナワーブに、ウィリアムは構わないとでも言うように首を横に振る。「具合はどうだ」と続けて聞いてやれば、彼は返事をする代わり、眉をハの字に下げながら、にやっと笑い返して来る。実際のところ厳しい状況を繰り広げてはいるが、気持ちの上では負けていない、というところだろうか。
    「すまない」
    「……なんで謝るんだ? 助けてくれたんだろ。この、ウィリアム・ウェッブ・エリスをさ はは……」
     表情を変えずに謝罪を口走ったナワーブに、ウィリアムは覇気がないながらに軽口を叩いて、胸を張るような仕草をした。ナワーブはそれに微笑みはしなかったが、応じるように首を竦めてみせた。(そういうことを言っているわけじゃない)と、わざわざ訂正するような真似はしなかった。それには意味がない――本当は、お前はあの処置室に居たほうが、もっと良い治療を受けられたかもしれないだなんて。

     ナワーブが経路を探しつつ行った「調査」によると、荘園の連中は確保した“実験体”の記憶を薬剤を用いて管理し、別の“実験”に使いまわしているようだ。損傷が激しい場合には廃棄されるのか、それとも何らかの技術によって蘇生を施されるのかははっきりしないが、もしかするとこいつの負傷程度なら、治療の対象としてあの部屋に留め置かれていたのかもしれない――無論、ナワーブと同様「処理」のために留め置かれた可能性も否定できないが。
     通りかかった部屋の中でこの男が気絶しているのを見た時、ナワーブはまず室内に潜入し、息があるかを確かめた。その時点で既に、彼に課された任務――依頼人のいないこの状況に於いては、彼が己に課した任務――から逸脱した行為でしか無い。最終的に、ここに囚われ憂き目を見ている実験体を救い出すことは、この任務において重要だ。ここで実験を繰り返している悪趣味な連中の鼻を明かすのにはそれが必要だろう。しかし、まずは自分の逃走経路を確保するべきだ。それに、足を負傷したこの男は文字通り、足手まといにしかならない……。ナワーブはそれらすべてを理解したうえで、処理台の上で気絶している、ナワーブより一回り以上身体の大きく見える筋骨隆々としたラガーマンを背負うように担ぎ、走り出した。あの衝動は彼が時折強く感じ、大概は抑えられないまま対象の喉を切り裂く類の攻撃衝動とは異なる類のものだった。
     要は罪滅ぼしだろう。そもそもナワーブには、この男を殺すつもりはなかった。その必要はないし、任務にも関係はなかった。この男は起死回生の夢を見ていた。それを夢見る状況に陥ったことがこの男自身の責だとか、夢に誘き寄せられて荘園に来たところで、“実験体”として使い回されて終わりだとか、そんなことは関係なく、任務によってこの男の夢を潰したのは俺だった。
     しかし、だから何だ? この男は考え無しで浅はかだ。ここで繰り広げられている殺し合いを、それこそ自分の馴染んだ感覚である「試合」程度に捉えている。ナイフを握る俺を、チームメイトと言って庇おうとする。俺を捉えるために向かってきた狩人の動きを止めるために、自分を危険に晒してその懐に駆け込んでいったこの男は、かつて救えなかった仲間たちに似ていた。誇り高きグルカ兵。ある戦場で銃弾に倒れたあいつを担いだ背中は、段々と冷たくなっていった。

    「……脱出口はじきに見つかる。気を強く持ってくれよ、相棒」
     無口な日頃らしからぬ調子のいいことを口にしながら、口角をにっと引き上げてナワーブが笑ってみせると、ウィリアムは呆気にとられたように目を丸くした後、ぶっと噴き出したかと思うと、顔全体で笑った。

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    @t_utumiiiii

    DOODLEピアソンさんの偏食をささやかな復讐に利用していたウッズさんの二次
    ※『記憶の庭』(転生現パロ短大生してるウッズさん(記憶あり)の部屋に空き巣のクリピ(記憶なし)が居候してる)の設定
    ※食べ方が汚い
    食育(転生現パロ泥庭) ピアソンさんは果物のことを、食べ物だとはあまり思っていない、みたい。“前”がどうだったのかエマは知らないけれど、今のピアソンさんは、例えば、冷蔵庫に牛乳やチーズをちょっと入れておいたりすると、まるでネズミみたいにすぐ食べちゃうのに、キウイやイチゴなんかを入れておいても全然手を付けないし、エマが自分で食べるために切ったのを、ちょっと分けてあげようとすると、(彼は元々、あまり美味しそうにものを食べるひとではないけれど、)眉間に皺を寄せて、はっきり嫌そうなぐらいの顔をしながら、「ク、クリーチャーは、べっ、別に、い、いいよ」「ウウ、ウッズさんが、ぜ、全部、食べればいいだろ!?」と、まるで急に責めるようなことを言われたのでそれに怒りながら反論する、というような調子で言い返してくる。普段のピアソンさんは、エマの部屋に勝手に住み着いて、家賃や生活費を出したりもしない癖に、エマの部屋の冷蔵庫に入っているものは、だいたい自分が手を付けていいものだと思っているぐらいの人で、そんな殊勝なことを言うような人じゃないから、本当に、そういう果物が好きじゃなんだと思う。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE転生現パロの傭オフェ(広義) ※日記のないキャラクターの言動を捏造
    so sorry(転生現パロ傭オフェ) 黒い樹皮を晒した木立の間を容赦なく吹き抜ける吹雪に凍てつく程の森を抜けると、開けたところに出た。風に多分に含まれる雪氷の破片によって白く濁った視界が目の前を塞ぐように覆っているというよりもそれはむしろ、白い地平が、どこまでも白々しく続いて、視界が効かない中でも、殺伐とした地平線が目に浮かぶようだった。追撃を撒きながら走り続け、鈍く痛み、倦んだところから溶け出すような疲労を訴えている彼の脳は、ここから先には〝何もない〟という得体の知れない直観をすっかり信じ込んでいて、それがナワーブをいっそう苦しめた。
     身勝手な直観によって、思わずどっと崩れ落ちるように雪の上に付いてしまった自分の膝を、ナワーブは拳で叩きながら、どうにか立ち上がろうとする。あの屋敷、そして、そこを取り囲むようにあるこの森から、何としてでも離れ、俺は、外に出る必要がある。応援を呼び、調査の為に戻る。あの荘園で行われている実験を調査し、白日の下に晒す――そこで、追ってきた追手かそれ以外の何かに見つかったのか、まるでスイッチを押し込んだかのように、ぶつんと途切れた意識が、ここで戻った。これが、彼が所謂〝前世〟の記憶を取り戻した瞬間だった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE試合でフールズ・ゴールドにぶん殴られて意識がぶっ飛んだ心眼が幼年期探鉱者と遭遇する二次妄想 ※日記のないキャラクターの言動を捏造 ※サバイバーが全員荘園で生活しているタイプの自由な荘園妄想
    壊れた鳥籠(探鉱者又はフールズ・ゴールドと心眼) ヘレナは目の前の景色が「見える」ことに気が付くと、すぐにそれが夢であることを理解した。彼女が視力を失ったのはほんの幼い頃であったが、それでも無意識はかつて見た景色を覚えているようで、彼女は時に夢の中で、窓から指し込んでくる明るい日の光に照らし出された、懐かしい我が家の内装を、ほんの低い視点から見上げることがある――が、目の前の景色は穏やかな昼下がりを迎えた家の光景とは全く異なり、まるでネズミかモグラが地面に掘った穴の中にいるのようで、自分が穴の中にいることを考えればその天井はそれなりに高く、人が動き回るには十分広いとはいえ、絶対的な空間としては狭く、こもった臭いがして、薄暗い。穴の中に敷かれた線路の枕木を文字通り枕にしながら、着の身着のまま土の上に横たわっていた彼女の顔を上から覗き込んでくる男の子の顔が無ければ、彼女はそれが夢だと(つまり、自分が今「目が見えている」ことに)気付くのはもう少し遅れただろう。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE背景推理や荘園の記憶がない弁護士ライリーさんがエミリー先生の顔を見て凄い引っかかるものを覚えたのでナンパしてみたらうまくいったのでプロポーズまで漕ぎ付けるような仲になったんだけど……という二次(現パロ弁医)
    restoring the balance(弁護士と医師)※現パロ 世間における一般的な理解として、事前の内諾があることを前提にした上でも、「プロポーズ」という段取りには何らかのサプライズ性を求められていることは、ライリーも承知していることだった。彼は弁護士という所謂文系専門職の筆頭のような職業に就いていることを差し引いた上でも、それまでの人生で他人から言い寄られることがなく、また、それを特別に求めたり良しとしたりした経験を持たなかったが、そういった個人的な人生経験の乏しさは兎も角、彼はそのあたりの機微にも抜かりのない性質である――つまり、そもそも万事において計画を怠らない性質である。
     その上で、彼は彼の婚約者に対して、プロポーズの段取りについても具体的な相談を付けていた。ある程度のサプライズを求められる事柄において、「サプライズ」というからには、サプライズを受ける相手である当の本人に対して内諾を取っておくのは兎も角、段取りについての具体的な相談を持ちかけるということはあまり望ましくないとはいえ、実のところ、彼女がどういったものを好むのかを今一つ理解しきれておらず、自分自身もこういった趣向にしたいという希望を持たないライリーにとってそれは重要な段取りであり、その日も互いに暇とはいえないスケジュールを縫い合わせるようにして、個人経営のレストランの薄暗い店内で待ち合わせ、そこで段取りについてひとつひとつ提案していたかと思うと、途中でふと言葉を止め、「待て、もっとロマンチックにできるぞ……」と計画案を前に独りごちるライリー相手に、クリームパスタをフォークで巻き取っていた彼女は、見るものに知的な印象を与える目尻を緩め、呆れたような気安い笑い方をしてそれを窘めてから、考え事を止めたライリーが彼女の顔をじっと見つめていることに気付くと、自分のした物言いに「ロマンチストな」彼が傷付いたと感じたのか、少し慌てる風に言い繕う。いかにも自然体なその振る舞いに、彼は鼻からふっと息を漏らして自然に零れた微笑みを装いつつ、「君の笑顔に見惚れていた」といういかにもな台詞をさらっと適当に言ってのける。雰囲気を重んじている風に薄暗いレストランの中、シミ一つないクロスを敷かれた手狭なテーブル――デキャンタとグラス、それに二人分の料理皿を置くと手狭になる程のサイズ――の中央に置かれている雰囲気づくりの蝋燭の光に照らされている彼女は今更驚いた風に目を丸くすると、柳眉
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    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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    @t_utumiiiii

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     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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