「…なんか。先輩、変わったわね」
唐突に教科書から顔を上げたと思うと、窓の外を見て口を開いた。
校庭で咲き誇っていた桜の姿はとうに消え、緑の葉が野薔薇の頬に影を落としている。まだ5月も序盤だと言うのにワイシャツ姿の野薔薇は、タイツに覆われた足を組み替える。光を反射する白と薄い黒のコントラストが眩しい。
「変わった。なんで?」
頬杖を着いて、そのまま視線だけを向かいに座る五条に向けた。
高専は閑散としていて、校舎棟には今五条と野薔薇の二人しか居ない。だから、その問いが向けられているのは、家入でも夏油でもなく必然的に五条になるのであって。
言ってやれよ。変わったのは自分じゃない、俺を孤高にしておいて、そのまま俺だけを残して周りが勝手に変わっただけだって。そしてそれ以上の会話を拒絶して、野薔薇との関わりを断てばいい。情なんて持つだけ無駄なんだから。どうせいつかは、野薔薇も自分の所から離れるのだから。誰も自分について来れないことくらい、嫌という程知っていた。
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