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    sanmenroppi03

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    sanmenroppi03

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    炎人の昔話です。
    (様々なお話を参考に書いてはいるけど特定の神様を指すつもりはないのでなんとなくお楽しみください)

    嫉妬の炎 その祟り神の名は、「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」。
     仮の名前を炎人とする。



     時は平安まで遡る。
     ある貴族に、兄は白痴で遊び人、弟は文武両道で美男子という、極端な兄弟がいた。
     兄のあまりの白痴っぷりに周りは呆れ返り、礼儀正しく博識で見目麗しい弟・炎人を慕う者が多かった。後継ぎは周りの人間も当人も当然、炎人になるものと思っていた。
     ところが兄の頭が上手く働かないのをいいことに、まつりごとの実権を代わりに握って好き勝手に振る舞おうとする者たちに担がれて、後継ぎは兄になってしまった。
     よくわかっていないが俺の方が偉いんだぞと踏ん反り返る兄に、炎人は穏やかに微笑んでおめでとうとだけ言った。だがその心をジリジリと嫉妬が蝕んでいった。



     その日から兄の周りで奇妙なことが起こり始めた。
     兄を祭り上げて甘い汁を啜っていた者たちが次々と変死した。
     天井に手足、胸を杭で打ちつけられ死んだ者。天気が良いのに雷が落ちて死んだ者。突然湧いて出た大量の百足に噛まれ穴という穴に百足が詰まって死んだ者。まつりごとの最中に突然発狂し、十二人を殺したのちにその場で自刃した者……。
     誰かによる祟りではないだろうか。いい加減な兄を妬んで呪っている者がいるのではないか。残りは兄だけとなった時にはそんな噂も立ち始め、兄は心底怯えて神に仏に縋った。
     やがて炎人が姿を現した。おめでとうと微笑んだ時より顔色が悪くやつれていたが、晴れやかに笑顔を浮かべている。今までの恐ろしい事件を起こしたのは他でもないこの炎人だったのだ。手には小刀を持っていたので、兄は震え上がって命乞いをした。炎人はそれを聞き流し、なんと自分の腹に小刀を突き立てた。

    「努力も、才能も、人望すらも、長兄という立場だけであしらわれる絶望感を兄様はご存知ないだろう」

     ひゅうひゅうと息を漏らしながら炎人は言う。どくどくと溢れ出る血に指を浸し、床につらつらと何かを書いていく。ひとしきり書き終わると、炎人は顔を上げた。色の白い顔が更に血の気を失い、しかしその目は恨みと憎しみで真っ赤に燃えている。

    「僕と同じくらいの苦しみを味わい抜いて死ね」

     その呟きは呪いのようにその場にいた者たちに纏わりつく。炎人はそのままバッタリと倒れ、事切れてしまった。

     床に書かれた文字は、兄や関係者、都、果てはこの世そのものを呪う言葉だった。どんなに力強く擦っても落ちず、床を張り替えても文字が浮かび上がるので、神主たちはそこにしめ縄を張り、誰も入れないようにした。

     しかし炎人の呪いは強く、被害は広がるばかり。
     災害も飢饉も次々と起こり、都を中心に恐ろしい疫病によって死者が大量に出た。
     都中の神主たちは何年もかけて炎人の魂を宥め鎮め、炎人を祀る神社を建てた。それからは穏やかになり、手入れが行き届いていた間は豊かなご利益を施す神となってくれた。

     しかし、時代と共に神社への信仰が薄まり、やがて誰も炎人のために手入れをしてくれなくなった。
     張られていたしめ縄が、チリチリと焦げて千切れ始める。



    「マツリ。マズいヨ」

     珍しく飛び起きたミンミンが、目に手をかざしながら東の方向を見つめている。千里眼を使っていた。

    「何ですの急に?」
    「あの祟り神がもうすぐ結界を破って出てくるアル」

     それを聞いて、マツリの脳裏に恐ろしい記憶が蘇る。遠く離れた都から流れてきた疫病に当てられ、村人が何人も亡くなったこと。炎人の恨みが大地を揺らし、人々を苦しめたこと。

    「あいつがまた出てくる……?」

     また村人たちが犠牲になってしまうのは、もう見たくない。マツリは都のある東の方向をキッと睨みつけた。

    「ミンミンは留守をお願い。あたくし、ちょっと行ってきますわ」
    「気をつけてネ……」

     ミンミンが少し心配そうな声をかけるが、マツリは突風に乗って飛んでいった。



    「あ、マツリちゃん!」

     件の祟り神の神社の前。狸の耳と尻尾が生えた年増が、降り立ったマツリに声をかけてきた。

    「狸沙子!ちょうど良かった……あなたの人脈が必要ですの!呼べるだけでいいから、力がある者を呼んできて下さる⁉︎」
    「え、ええ……でも、どれだけ来てくれるか……」

     狸沙子と呼ばれた年増の言う通り、来てくれたのはほんの少しだけ。十数人ほどしか集まらなかった。

    「たとえ少なくてもやるしかないですわ……」

     マツリは、朽ち果てた鳥居を睨みつけた。集まった神々や妖怪たちが不安そうにマツリを見上げると、

    「心配ありませんわ!これがありますもの!」

    とニコッと笑って、手に持ったものを掲げた。



     炎人は朽ちたしめ縄から体を解放し、大きく深呼吸をした。何百年ぶりの自由。ずっと待ち侘びていた。

    (これで、この世の全てを呪うことができる……)

     炎人が腹の底からグッと力を入れると、燃え上がるような嫉妬、恨みが湧き出てくる。白い肌はどす黒く、艶やかな黒髪は真っ赤になって逆立ち、美しい瞳は真紅に燃え上がる。人ならざる姿になり、一歩足を踏み出すだけでその場所は呪いで穢れていく。
     と、いきなり戸が勢いよく開いた。先頭に山伏のような格好をした金髪の少女が仁王立ちしている。炎人は鼻で笑う。自分が復活しそうだと聞きつけて無謀にもやってきたのだろう。

    「あたくしはマツリ!大人しくしてもらいますわよ!」
    「君の言うことを聞く義理などない」

     炎人が冷たく言う。しかしマツリと名乗った少女はニヤリと笑った。
     不意にマツリが帯を解く。炎人が思わず動きを止めていると、なんとマツリは着物の前を思い切り開いて見せつけてきた。炎人は驚いて顔を袖で隠し、顔を背ける。

    「今ですわ‼︎」

     が叫ぶと、隠れていたであろう神や妖怪があちらこちらからワッと出てきて、炎人を囲み込んだ。状況を把握しきれてない炎人の首にしめ縄をかけると、一斉に各々の神通力を込めた言葉を唱え始める。宗派も生まれも何もかもが違うが、炎人を抑えこみたい思いは同じで、それが一つの大きな力となってしめ縄に込められていく。やがて炎人の力を大幅に縮小させ、生前と変わらぬ姿になると呻いてうずくまった。

    「なんだこれは……おかしい、お前たちだけでこんなに強い封印はできないだろう⁉︎」
    「察しが良いですこと」

     もうキチンと着物を着ているマツリがクスクス笑いながら近づいてきた。

    「そのしめ縄は、あらかじめここまでの道中にいる神々に頼んで、力を込めてもらって持ってきたんですのよ!」

     マツリの地方には一際強い神がいた。そこから更にこの都中を駆け回って神通力を集めれば、今ここにいるだけの人数でも十分に炎人を抑えつけられる。

    「やった!祟り神を捕まえたぞ!」
    「いやしかし、マツリ……肌を見せつけるのは流石にどうかと……」
    「解決できるんだったらなんだってしますわ!終わり良ければ全て良し‼︎」

     マツリが高笑いするのを、感謝やら安堵やらの表情で見る皆。
     炎人はまたメラメラと嫉妬心が燃えてきた。

    「羨ましいなぁ……君のその無謀にも近い勇気……恥を恥とも思わない面の皮の厚さ……!」

     マツリはキョトンとして炎人を見た。炎人は大変美しい顔をしているのに、その顔を歪ませて恨み言を言う。

    「そこにいる君は大変賢い……そちらの君は優しくて人間に慕われている……君にいたっては夢も希望もある生まれたばかりの妖だ。そんな沢山の者たちを率いてやってくるなんて……」

     炎人の瞳が一人一人を睨みつけていく。美形が凄むと背筋が寒くなるほど恐ろしいことを、その場にいた者たちは思い知った。

    「いいなぁ、みんな僕が持っていないものを持っている……羨ましい……妬ましい……ああ気が狂いそうだ……」

     メラメラと絶えることのない嫉妬の炎をその目に燃やして唸る。力を抑えたというのに、今にも飛びかかってきそうな気迫に皆後ずさった。

    「どうする、マツリ……こやつ、このまま放っておくとまた暴れる可能性があるぞ」

     天狗がマツリに話しかける。マツリも、炎人をこのまま一人にするのは危険だと考えていた。
     と、ここでタタタ、と駆け寄る音がした。見ると、狸沙子が片手を上げながらマツリのそばにやってきた。

    「あ、あのね、その人を誰か見てないとならないって言うなら、私が面倒みたいなぁと思って……!」

     マツリと天狗が驚愕していると、

    「だってぇ〜、あんなに綺麗な顔をした男の人、初めて見たんだもの〜!欲しいな〜、良いでしょ?ねっ?」

    と、どんぐり眼をキラキラ輝かせて懇願してくる。マツリが天狗に目配せすると、天狗は肩をすくめた。

    「……じゃあ、狸沙子にこの人を任せますけど、何かあったら便りを送ってくださいな。すぐに駆け付けますわ」
    「やった〜!ありがとう、マツリちゃん!」

     なんの話かさっぱり検討がつかない炎人は、マツリたちや狸沙子を警戒しながら見つめていた。不意に狸沙子がかがみ込み、炎人と視線をあわせて笑いかける。

    「えへへ、よろしくお願いしますね。私の大事なお婿さん!」
    「……は?」

     炎人が疑問を投げかける前に、狸沙子がおもむろに巨大な風呂敷を取り出して炎人にかける。辺りは途端に暗闇となり、無力化した炎人が何をしてもその空間から逃げる事ができなかった。
     こうして、恐ろしい祟り神は狸の年増に持って帰られてしまった。
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