浴衣(ワンライ)「夏油さま、わたし浴衣が着たい」
「……わたしも」
服の裾をちょんと握られた感覚がして夏油が振り返ると、美々子と菜々子がそんなことを言った。顔を伏せているので表情まではわからない。けれど言いにくそうな声色で、おずおずと言葉を紡いだ彼女たちは、もしかしたら我儘を言っているとでも思っているのかもしれない。
彼女たちはあまり自分のやりたいことや意見を言わない。最初は夏油に遠慮しているのかと思ったが、育ちが育ちなのでもとから抑圧されており、言うこと自体に慣れていないようだと察したのは、彼女たちを引き取ってすぐの頃。あれから幾度かの季節が通り過ぎて、こうしてやりたいことを自分から言ってくれるようになったのは、夏油にとって喜ばしいことだ。しゃがみこんでふたりに視線を合わせる。
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