3Z万←山 別に教えるつもりなど無かった。
一生心の中に閉じ込めて誰にも気取られず、何なら墓まで持っていくぐらいの気持ちでいたというのに、目の前で笑うコイツがあまりにも自然におかしな事を言うものだから、俺だってポロリと口から飛び出してしまった。
「じゃあ俺と付き合えんのかよ」
沈黙が痛い。
俺だってなりたくてこうなった訳じゃないし、普通に女性アイドルと付き合ってみてーなんて思う事もある。彼女が欲しいとか。
それがどうして、俺は目の前の男を目にすると、これまでに女子に抱いていた想いに似たようなものを感じるようになっていた。
いつからかは、もう思い出せない。だが恐怖心からの錯覚だと思い込むには、あまりにも俺の頭と体は正直だった。
ふざけて肩を組まれれば動悸もするし、不意に笑顔を見せられればこちらも緩んだ。
そういった積み重ねを否定して否定して、やっと諦めて肯定し、そして腹の奥底に沈めて…と、決意した所だったのに。
「拙者、山崎殿なら体を触られても嫌ではござらんよ」
隣りに座り込んでいた河上が、そう言って俺の手を握って目の前まで持ち上げた。
あまり人と触れ合ったりするのが好きじゃない、とか何とか言う話から、俺の事は嫌ではないという河上に俺は舞い上がってしまったのだろうか。
少し微笑みながら言う河上は、自分がまさか俺から好意を寄せられているなんて思っても居ないだろう。ただのクラスメイトよりは仲が良いかもしれないが、高杉達に比べたらそれ以下の知り合いといった半端なポジションくらいなもんだろう。
そんなこと分かっていたはずなのに、俺の頭はそう思いながらも勝手に吐き出していた。
「じゃあ俺と付き合えんのかよ」
柔らかな表情だった河上はきょとんとして俺を見たまま固まっているし、俺は俺でどうすることも出来ないまま同じように固まるしかない。
目を逸らせば、一生合わせてもらえないような気すらしているこの状況で、俺はただただ後悔していた。
よりにもよって何故俺は真顔で聞いてしまったのか。
せめて、ふざけたように聞いていれば笑い話にでも昇華できたんじゃないか。嫌な顔をしながら言えば、誤魔化せたんじゃないか。
河上の目をじっと見ながら、頭の中でぐるぐると言い訳を考えるが、結果は真っ白なままだ。
「……」
一度まばたきをした河上の目が再び俺を捉えて、ゆっくりと唇が動き出す。
握られた手は力を込められることもないし、込めることもなく、宙に持ち上げられたままだ。
(あぁ、何も聞きたくない。時が止まってくれればいいのに。時間が戻せたらいいのに)
くだらない後悔に沈みながら、俺は河上から目を逸らした。