現パロ万山「退、拙者をどこかに連れてって」
「え?何?新しいキャッチフレーズ?」
寝不足が続き、沸騰しているかのように熱を持っている頭をテーブルに伏せる。
ごつん。と鈍い音が小さく鳴ったが、冷たいテーブルに余分な熱が吸い取られているようで、段々と気分が落ち着いていった。
「詰め過ぎなんだって。そんな無理してっから頭もおかしくなるんだろ」
ほら、という言葉と共に顔の近くにボトルの置かれる音がして、ゆっくりと音の方へ向く。視線のすぐ先にはスポーツドリンクがそびえ立っていた。
薄らと濁ったそれから、少しだけ冷気を感じて目を閉じる。
「ここで寝るなって。飲めや」
「ウァァァ…」
「どこから声出してんだよ」
「喉を絞って…」
「説明しなくていいから」
ボトルを頬に押し付けられ、予想以上の冷たさに驚いたが恋人は飽きれたようにグリグリと底をめり込ませてくる。
じわじわと表面に水分を纏い始めたそれをありがたく頂戴して、重い体を起こす。パキっと音を立てて蓋を取れば、ちゃぽちゃぽと揺れる液を喉に流し込んだ。
「……はー、美味い」
「店で飲む酒ならもっと美味かったかもな」
すぐ隣りで、あざとく頬杖をつきながら笑う恋人の姿がまるで天使にでもなったかのように拙者の目に映った。
先程までは悪魔のような顔で、悪魔のように嫌がらせをしていたというのにだ。
「疲れた。遠くへ行きたいでござる」
恋人の肩に頭を預け、ため息とともに呟けば、恋人はよしよしと幼子にするように拙者の頭を優しくなでてくれた。こういう時は優しい恋人に、もう一つ甘えてみてもいいだろうか。
寄せた頭にこつんと軽く衝撃が走る。恋人も頭を傾けたようで、柔らかな髪が頬を擽った。
「退殿、この仕事が片付いたら、拙者と二泊ほどの旅行など付き合ってはくれぬか」
「何それ、フラグ?」
「フラグにござらんよ」
「ハハハ!じゃあ温泉旅行とか、食べ歩きとか良いかもな」
「退殿が連れてってくれるならばどこでも構わぬよ」
寄り添っていた頭がすり寄せられて、拙者は恋人の肩を抱いて引き寄せた。
無抵抗に体を預けられ、間近にある恋人に顔を寄せれば、その唇はにやりと弧を描く。
「それって天国でも?」
いたずらっぽく細められた瞳に、疲れた顔の拙者が映りこんでいる。
それが無性におかしく思えて、拙者も同じように口角を上げて、そっと唇を合わせた。
「行けば帰らぬと聞くからな。それも悪くないかも知れぬ」