山崎は、日々苦労しているいつも通りのポーカーフェイスで、物陰から顔だけを出しちょいちょいと手招きをする沖田に、山崎は怪訝な顔をして足を止めた。
ニヤリと笑って手の動きを止めた沖田だったが、山崎は足を止めたままその場を動こうとはしない。機嫌のいい沖田に絡まれても、ろくな事にならないというのを山崎は知っているのだ。
互いに目を離すことなくピタリと止まったままの二人だったが、手招きをしたままだった沖田はその手で握りこぶしを作ると、親指をひょこりと出した。
「行きます! 行きますから悪い顔止めてください!」
「分かりゃいいんでェ」
握りこぶしが首を横切る前に、わっと駆け出した山崎の肩に腕を回した沖田は、不安げな山崎のことなど知らぬ顔で自室へと向かった。
何をするんです?という山崎の問い掛けに、まぁまぁ着いてからのお楽しみでさァと軽く答える沖田に、山崎は青白い顔で嫌な予感を一身に受けている。
そして二人が部屋に入ると、沖田は素早く障子を閉めた。
半ば強引に部屋へと押し込まれた山崎が、居心地の悪さにキョロキョロと視線を彷徨わせる。
ふと目についたのは、卓上に転がる鉛筆と数枚の紙だ。
「マジック…ショー…?」
その場に立ったまま、少し上体を前に傾けて覗き込むと、沖田は何かを書き殴ったその紙を山崎の目の前に突き出した。
「マジックでさァ! これで土方さんをバラバラにして、誰かと合体させてやろうと思いやしてね」
「えっ、何サラッと怖い事言ってるんだろうこの人」
「で、誰がいいかと歩いていたら丁度おめーさんが通ったもんだから、じゃあもう山崎でいいかな~って。おめでとう山崎。おめーは選ばれた人間ですぜ」
「いやいや! 何その人選! 全然嬉しくない!」
「とりあえず一人ずつこの箱の中に入って、腹のとこで仕切るだろィ。で、それぞれの上半身と下半身をくっつけられたら成功でさァ!」
「こわ! 物凄くキラキラした目で半端無く怖いこと言ってるよ! この人!」
素早く逃げ出そうとした山崎を、やる気満々の沖田がそう簡単に見逃すはずはなかった。
ジタバタと藻掻く肩を、しっかりと背後から掴んだ沖田は山崎の耳元でボソッと呟く。
「土方さんの下半身ですぜ。よく考えてみなせぇ、あの人の下半身が手に入るんですぜ」
「いや、だからって何…」
「分かんねぇってのかい?オメーもまだまだですねィ」
「そ、それは、どういう…」
恐る恐る振り向いた山崎の目に映ったのは、不敵に笑う沖田。
一体、何のメリットがあるというのかと、ゴクリと喉を鳴らした山崎に、沖田はゆっくりと口を開いた。
「足が長くなりやす」
山崎は白目を剥いた。
足が長くなる。ただそれだけの理由で体を貸せと言われても無理があるだろう。沖田は至って真剣な顔をしているが、今にも怒りが爆発しそうな山崎は掴まれた肩の手を振り払うと、背後の沖田を鋭く睨みつけた。
「何でェ! おめーと土方さんじゃあ、大して上半身の長さ変わりゃせんだろィ」
「それ俺のこと胴長短足って言いたいんですか!?」
「まぁまぁ、それにもう一つありまさぁ」
「いやもう手伝う気ないですから」
「土方さんの下半身を手に入れるってこたぁ、実質脱童貞でさァ。ヤリチンゲットだぜ!」
「いやいや言い方! そんなこと言われてもですよ。それに副長だって経験豊富かどうかなんて分からんでしょ」
「あー、それはつまりー、土方さんが童貞だって疑ってやすね。山崎は土方さんのことを、ピュアっピュアのチェリーボーイだって思ってるってこった」
「いや、そうは言ってませんよね? 何この人、話が全然通じないんですけど。話がややこしくなるぅぅ」
「んじゃ確かめに行きやしょう。土方サーン! どこにいやすかー?」
「ちょっと! 嫌な予感しかしない! 沖田さんやめて!」
終わり