「三度の飯より剣術稽古。剣術使い、雪童子!」
「一切合切凍て尽くす。妖術使いの雪女!」
「幻冬素雪、雨露霜雪。鬼の桜雪姫」
桜雪姫は違和感を感じながら二人に続いて、即興で考えたセリフを言いながら言われた通りに目元を隠していた布を手の甲で上げ、顔全体が見えるようにする。そして布を術で消す。
「雪国代表!」
「凍結専門家!」
「白銀世界」
そして一斉にそ各々のポーズを取る。
「「「雪見連合だ!」」」
その状態をしばらく保って、ある程度経つと桜雪姫はポーズを解いて二人に聞いた。
「満足しましたか?」
「うん!」
「えぇ」
二人は満足そうにポーズを解いてこちらを振り返る。自分の知っている二人と姿が少し違うし、雰囲気も違う。自分の知っている二人はこのようなことをしないだろう。世界が違うだけでこのように変わるのか、と桜雪姫は興味を持った。
「それで、私を探していたようですが、何か用でしょうか?」
「私達と同じ姿と名前と能力を持つ妖怪がこの船にいるはずだけど、どこにいるのか知らない? 探しているの」
「あなたならその二人とよく一緒にいるから分かるかもって聞いて、二人を探しながら探していたら」
「私のほうが先に見つかったというわけですね」
「えぇ」
「二人は一緒にいないかもしれないです。もしかしたら一緒にいるかもしれませんが、よく別行動を取っているようなので。雪女さんは商店街の甘味処でよく氷菓子を買うそうなので、そこに行ったら会えるかもしれないです。そこによく通っているので店主が何か知っているかもしれません」
「ここの雪女は氷菓子が好きなんだね。僕と同じだ。探しに行くついでにそこで買い物しようよ!」
「私はあまり氷菓子は好きではないのだけれど。綿飴はあるのかしら?」
「ありますよ」
「行きましょうか。それで、雪童子はよくどこに行くの?」
「怪談研修社によく足を運ぶそうです。いなかったらどこか道場で剣術稽古をしてるか、今日は月が綺麗なので景色の良い場所で刀を拭いているかもしれないですね」
「ここの雪童子はこっちの雪童子と変わらないみたいね」
「手合わせしてみたいなぁ」
「ここでは武力を禁止されてるので、やるなら外でですよ」
「分かってますよ。天邪鬼達に銭を盗まれそうになったから刀を抜いたら化け狸さんに注意されたので」
「あれは斬って良かったんじゃないかしら?」
「ダメですよ」
「分かりました。ここでは戦闘が禁止なんですね」
「平和に暮らせそう」
納得いってない様子の雪女と、優しい笑みを浮かべる雪童子。
「情報ありがとうございます。あ、これはお土産の雪兎ケーキです。今、平安京の戦場でイベント参加したらたくさんもらえるんですよ」
「雪丸にそっくりで美味しいです」
「あなたいつも一緒にいるのに全く躊躇せずに食べるから少し怖がってたわよ?」
雪女は最初の遊びで雪童子が投げた仮面を落とさずに回収してそれからずっと持ったままその場所で浮いている雪兎達のほうを見る。
「雪兎の形した食べ物はすごく食べたくなっちゃう」
「あなたいつか雪兎食べそうね」
「食べたことあるよ」
「あるのね。だから逃げるんじゃないかしら?」
「うっ」
「お二方。探しに行かなくてよろしいのですか?」
桜雪姫は雪女から雪兎ケーキを受け取り、無表情に二人を見る。
「あっ、そうでした! 情報をありがとうございます!」
「いえ。こちらこそ、お土産の品をありがとうございます。後ほど味わって食べますね。これは配っているのですか?」
「情報をくれた人に感謝を込めて渡しています。二人を見つけるまで残るといいけど」
「大丈夫だよ。もし数が少なくなってきたら勾玉を渡そう。こっちでも使われているんですよね?」
「はい。無料配布はないので、同じくらい喜ぶと思います」
雪童子はそれを聞いて安心したように笑みを浮かべる。
「それじゃあ行こうか」
「えぇそうね」
雪童子は仮面を持った雪兎達を呼び、仮面を回収する。
二人は来た時と逆で宙に飛び上がり、ふわふわとあっという間に周囲のものに隠れて見えなくなった。
「………騒がしい二人でしたね」
桜雪姫は雪女から渡された雪兎ケーキに目を落とす。
「さて、どうしましょう」
桜雪姫はしばらく考える。
「自室に持ち帰ってゆっくり食べて、作品を描きましょう」
桜雪姫は術で雪兎ケーキをしまい、道を辿った。