キr誕アフターアsキr未満アスランは一人、ミレニアム艦内の通路を歩く。
元々勘は働きやすい方ではあるが、幼馴染みの動向に関しては殊更それが鋭くなる自信があった。
今日はキラの誕生日で、彼を慕う部下、ミレニアムやAAの乗組員達にそれはそれは盛大に祝われただろう。
アスランも休暇を申請してはいたけれど、忙しい身である為なかなか解放されず、ミレニアムに到着出来たのは日付けが変わるまであと数時間という刻であった。
遅い時間であるにも関わらず快く乗船を受け入れてくれたコノエ艦長への挨拶もそこそこに、アスランは足早にキラの居場所を目指す。
部下達による誕生パーティーをむず痒く受け入れた後は、きっと一人になれる場所で辛気臭いことでも考えているだろうと当たりを付けていた。
MSの格納庫、キャットウォークにぽつりと小さく座る影がある。
格納庫に入る際の扉の開閉音にも、わざと大きめに立てて歩くアスランの足音にも、まるで気付かない振りをするキラとの距離まで、あと数十cmといったところで、ようやく彼はちらりと一瞥し、アスラン、とポツリと名前を零した。
「一人になる為にわざわざこんなところを選ぶなんて、お前は本当に猫みたいだな。」
軽くため息を零しながら言ってやれば、キラはどういう意味?と眉をしかめる。
「気まぐれで、頑固で、甘ったれで、丸くなって眠る癖、それに高いところが好き。ほら、猫みたいじゃないか。」
「……悪口を言いたいだけならもう帰ってくれる?」
「悪口じゃないさ、可愛いって言ってるんだ。」
「納得しかねる。」
頬を膨らませてそっぽを向くキラの、形の良い後頭部を撫でてやれば、それはそれで気持ち良いとでもいうようにアスランの手を受け入れる。
拗ねやすいところも、撫でられるのが好きなところも、猫みたいなんだけどな、とアスランは声は出さずに笑った。
「遅くなって悪かったな、キラ。誕生日、おめでとう」
「…………ありがとう……」
これにもまた、居心地悪そうにお礼を返される。
いつからか、キラが自分の誕生日を受け入れ難く思っているのだろうとアスランは感じていた。
「キラ」
「なぁに?アスラン」
「お前、ここ数年誕生日にはわざと仕事を詰めまくってただろ」
「…………」
「今年はとうとう逃げられなかったか?」
「嫌な言い方……」
「悪い。けど、それだけ皆お前のことが好きで、祝いたいって思ってるってことじゃないか。」
「うん、そうだね……そうだけど……」
キラは広げた自分の手の平を見つめる。
見抜かれているだろうと思ってはいた。自分の誕生日に時間を作らないようにしていたこと。
己の出生を知り、経緯を知り、それで尚自分の誕生日を喜ばしいとはとても思えなかった。
理由など、心を許している幼馴染にだって明かすつもりも無いけれど。
「祝ってもらえる資格なんて、あるのかなって」
少し、弱音を吐いてしまいたい気分だった。
ヤマト隊員達に祝ってもらえたことが本当に嬉しかった。
その想いが、罪悪感を更に重くする。
アスランは、キラが重たい秘密を抱えていること、それを誰に話すこともなく、話す気がないことも知っている。無理に聞き出すつもりもない。
深く深くため息をついた。
「キラ、そもそも、祝って“もらってる”っていうのが間違いだ。」
「え?」
「俺達は祝ってやってるんじゃない、俺達が“祝いたい”だけなんだからな。」
「え?何?どういうこと?」
「だからつまり、お前は祝って“もらってる”んじゃなくて、“祝わせてやってる”くらいに考えておけばいいんだってことさ。」
キラの額を、人差し指で軽く弾く。
ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせ、キラの表情はふにゃりと緩んでいった。
「……ふふ、アスランにしてはすごい暴論だ……」
「そうかな、猫みたいなキラにはそのくらいが合ってるだろ。」
「だから、その猫みたいって意味分かんないって。」
顔を隠すように、キラは俯きながらアスランの肩に頭を乗せて体重を預ける。小さく小さく、届かなくて構わない程度の細い声で「ありがと……」と呟いた。
キラの抱えてる重たい荷物は、こんな言葉程度では到底無くなりはしないだろう。
根本的な解決にもなり得ない。ただ今は、キラがこの肩に、胸に、身を預けてくれればいい。
アスランはキラを強く抱きとめ、小さく微笑った。