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    Xで流した「リプ来たセリフでSS書く」やつです

    内容:「やっぱり、僕の手は取れない?」(アベンシオ)
    ※年齢差捏造(明言なし)
    ※痩せた若シオ
    ※知の行人もどきだった時代の思想捏造
    ※ふんわり捏造キ物
    ※実在学者への言及

    すれ違ったりすれ違わなかったりしながら、少しずれた世界の「B」を「A」にする話です。

    From B's last towards A's past(A)→

    「教授。――やっぱり、僕の手は取れない?」
     摩天楼の中にある深淵。暗闇から伸びた大きな手がアベンチュリンの掌上に一枚のチップを戻した後、金色に光る双環が端的に、是、とだけ答えた。彼が身に纏う何らかの奇物の効果だろうか、瞳以外の容姿はぼんやりとした影に紛れて全く見えない。
    「どうしてか、聞いてもいい?」
    「解決できる問題のために君に余計なリスクを背負わせたくない」
    「君は現状を、解決できる問題だと捉えてるんだ」
     はじめて徹底的な情報隠匿を決断した翌朝の、夜の化身のように警戒心の強いひとりの猛禽を、完全に隠れてしまう前に捕まえられたのは僥倖だった。
    「いつ戻ってくるつもりなの?」
    「僕が其の視線を射止めるか、君が賭けに負けたら」
    「そう」
     ずるいひと。僕の元には二度と戻ってこないつもりなんだ。そんな言葉を飲み込みながら。
     ある日。人類は薄汚れた欲望と絶望のために、ひどく呆気なく、理性と良識を棄ててしまった。スターピースカンパニーは始まりの終わりへ向かう世界を存護するため死に至る病原を売り始めた。あらゆる賢者たちが一斉に終末論を唱え始めた世界で、太古から変わらず建設され続ける琥珀の王クリフォトの壁を、そのためのものだと解釈したからだ。壁が閉じられる日、敬虔な信徒たる自分達だけが生き残るために、彼らは完全な死の商人になった。レイシオが所属する技術開発部そして博識学会の一部はそのカンパニーの方針に諸手を挙げて賛成し――何故なら戦争というものは得てして技術発展の無尽蔵な加速をもたらすものであるので――レイシオはいとも簡単に『招待状』を破棄した。
     相互利益に基づく関係は、その利益が保証されなくなった途端に崩れるような、脆いものだ。カンパニーとの協力関係を前提とした『戦略的パートナー』という関係も、例外ではない。カンパニーを『裏切った』レイシオは、今や卑劣なお尋ね者だった。カンパニーの一幹部であり琥珀の王の忠実な信徒の一人であるアベンチュリンは、彼を捕らえて、カンパニーに差し出さなければならない。今更だ。アベンチュリンには指名手配中の『友人』が何人もいる。死の投げ売りを決断してから、多くの友人がカンパニーの方針に異を唱え、決別した。
     無理に浚ってそのまま逃げてしまえるような、そんな関係だったら良かったのかもしれない。だがアベンチュリンにはそうすることができないし、しないだろう。十の石心の一人である博戯の砂金石アベンチュリンにはカンパニーと共に沈む以外の道がないから。
     それでも。どうしても、常に鋭く正しいことを言うその美しい口で、どうか一緒に逃げて欲しいと、一言でも告げられてしまったら。掌サイズのその石ころを投げ棄てて、その託宣に従ってしまいたいと思う程、逆らえない程の恩と情があることもまた、自覚していた。
     その心を、理解しているのだろう。まもなく金環が姿を隠し、チェロのように優美な声が響いた。
    「いつかの僕が待っていた『未来』は……君だったのかもしれない」
    「それなら」
    「でも、もう遅い」
     ――遅いんだ。すべて。『それ復讐』を成すためには、光の速度ですら、遅すぎる。星が砕け散るのはいつも一瞬の出来事だ。時なんて待っていられない。何故なら、人々が光の存在に気がついた時点で、全てはもう『終わっている・・・・・・』のだから。
     その運命を歩むものは、最後には必ず自分だけの『鏃』と添い遂げることになる。巡狩の道は常にひとり、自らと標的の死へと向かう。重くなるだけの鎧も盾もいらない。放たれた時点で――否、放たれる前、初めて討つべき標的の存在に気付いたその時から、鏃たちの終着点は決まっている。
     ――狂ったテーゼを撒き散らす『賢者』を討つ。
     その野望を始めて聞いたとき。正気じゃないと思った。否、彼はずっと昔から正気なんかではなかったけれど。だって、そうだろう。もし正気の沙汰であったなら、宇宙から愚鈍を根絶しようだなんて、そんな大言壮語、吐こうとも思わない。
     アベンチュリンは何処までも正気だった。昔から、そうだ。あの時も。アベンチュリンは――否、『カカワーシャ地母神に祝福された子』は、狂ったように荒地を駆けていく人々の中に、飛び込めなかった。その結末が虚無でしかないことを、何処かで理解していたからかもしれない。
     雨の音が耳を打つ。それは真っ白なノイズのように、あらゆる感覚を麻痺させ、目の前の狩人との距離を必要以上に遠く感じさせる。
     自分の性を隠し知恵の友のような顔をしていたかつてのレイシオなら、きっとアベンチュリンの手を取ってくれただろう。そんなレイシオに手を差し出したくなかったから、アベンチュリンが彼に手を差し出すことはなかった。けれど、巡狩のレイシオはもう手を取らない。誰の手も、取ってくれない。
    「この世のどこにも、本物の『天才』はいない。凡人ばかりだ」
     この世には、自分を賢いと思い込んでいる愚者と、自分が愚かであることを自覚している愚者の二種類しかいない。無論、レイシオもその例外ではない。
     レイシオは『天才』ではなかったのに、自分を天才だと、誰かの手を取れる人間だと『自惚れて』いたことをひどく悔やんでいるのかもしれない。
     咳をしたとて、道の終着に辿り着いたとて。彼を救ってくれる『その人』などもう来ないだろう。レイシオを『知恵の星神ヌース』が一瞥することはなかったのだから。レイシオはこれまでもこれからも、一度としてみにくいアヒルの子などではなかった。彼が歩むのは、知恵の道ではなく、どこまでも巡狩の道でしかない。
    「『成し遂げられる』者たちはとうにこの宇宙を見放している」
    「でも君は……誰の誘いも受けなかった」
    「僕は誰かの手を取れるような人間じゃない」
     アベンチュリンは、彼が、機械の神のそれの代わりに、機械の王からの誘いを受け、そしてそれをも断っていたことを知っている。自由そのもののような彼ならきっと、何処までだって逃げられたのに。彼は全ての庇をはね退けながら、しかし何処へも逃げなかった。逃げなかったから、彼はここから去っていく。彼への援助を断られたのは何も、アベンチュリンだけのことではない。それが、ほんの少しだけアベンチュリンの心を慰めた。
     けれど、それだけだ。それは慰め以上の何物でもない。
     レイシオとの会話はそれっきりで終わってしまった。あまりにも唐突で、さよならもなかった。暗闇を見ても、もう二つの金環はどこにもない。いつものことだ。これまでもこれからもいつも通り変わらず、あっという間に消えてしまう流星のようなひと。――けれど。
    「自惚れ、なんかじゃ、ないのになあ」
     本当は、ずっと。その手を取って、唯一の供である武骨で冷たい悟性の剣の代わりに、君の手をあたためてあげたかったんだ。
     でも、アベンチュリンが手を伸ばすのがもっと早かったら。アベンチュリンがレイシオを離さずとも、彼はしがみつかれた自分の腕ごと棄てていっただろうから。
     生者である限り、いつかみんな死んでしまう。死こそが生の前提条件だから。ゴールがなければスタートもないように。誰にも殺すことができないものは、既に死んでいるものだけだ。生きているアベンチュリンたちは、いずれ来る『その日』が今日ではないことを祈ることしかできない。
     生とは思考だ。思考するなら、其は生きているといえる。そして生きているならば、『死』を直視せずにいられる存在など、ありはしないだろう。
     それは実現不可能なことではなかった。少なくとも、アベンチュリンが彼以外の何かに負けることよりは、ずっと簡単に、成し遂げられることだ。
     アベンチュリンは、眠れなくても明日が来るのと同じくらい当たり前に、そう、ただただ信じている。



    (B)→

    「やはり、僕の手は取れないか?」
     アベンチュリンが知るそれよりずっと丸く、細身で、柔らかそうな手だった。無論、成長期を終えた身体が格段に変化するということはないから、身長は殆ど同じだろう。アベンチュリンがレイシオを見上げる首の角度も同じ。ただ、未熟な魂と目的のために研ぎ澄まされていない肉体は、荒事を必要としていない、安楽椅子を好みやたらと自分の空論に自信があるような、凡庸な学者の一人にしか見えないというだけだ。アベンチュリンはそれをひどく残念に思った。
    「うん。やっぱりダメみたい」
     学者とは思えない程――むしろ、学者だからこそ、だろうか?――発達させられた体格も、瞳に宿る僅かな陰りも、徹底的な自他への厳しさも。まだ何一つない、自分のほんとうの運命を知らないひとだ。
     その日アベンチュリンは、奇遇にも、レイシオの過去と触れ合う機会を得た。
     自身の未来を、そしてレイシオにとっての『この先』を知るアベンチュリンはまだ、彼に手を伸ばすことができない。
     それでも。
    「君の手を取る代わりに、君に手を差し伸べたいと願う『誰か』を、未来まで待ってて」
     アンプル一つ分の祝福を返すことくらいは、赦されたいと思ったのだ。
     苦々しい顔をするレイシオ青年の顔は、アベンチュリンのよく知るそれよりずっと幼く見える。彼はまだ教授ではなかったが、既に殆ど彼らと変わらない程多くの人間を導いているというのに。彼はこれから先も一人で、ずっと長い道を歩んでいくのだろうことを、アベンチュリンは知っている。
    「そんな奇特な人間がいると思えない」
    「いたよ。目の前に」
     いたんだ。アベンチュリンにとっては『この前』である『未来』には。確かに、彼の手を取りたいと、彼に自分の手を取って欲しいと願った人間がいた。
     やけに目立つペンだこの他は、まだ綺麗な手だ。自分から何かを強く握ろうとしたことも、人を救おうとして傷つけられたこともない、真の執着を知らない人。そんな彼の手を握りたくて堪らなかった。けれどそれが彼自身の道を歪めてしまうだろうことを知っている。
    「……僕からの誘いは断ったのに?」
    「まだ、その時じゃないから」
     『つれない』答えに、レイシオが重い溜め息を吐く。それから、一つの教えを授けようとするように、虚数で構築されたミンコフスキーの小型空間模型を掌の上で弄り始める。まるで砂時計のような形をしたそれは、カンパニーの経済圏において一般的に用いられているのとは違った、本来の『光円錐』ともいえる形の時空モデルのひとつだった。
    「残念ながら、『絶対時間』という概念は、『絶対空間』という概念がそうであるのと同じように、あくまで特定の現象群に対し人間が先験的に抱くひとつの偏見にすぎない。実際、時間というものは、それをどう捉えるかによって全く異なるものになるんだ」
    「時間の非実在性、というと……マクタガートの時間論だっけ? 時間の矢などというものは実在しないから、やろうと思えば僕らも『遠距離恋愛』できるよ、ってこと?」
    「僕はそう気が長くない」
     かの学者は時間の非実在性に関する議論のために、時間を主に二つの系列として捉える方法を提唱した。A系列ではある出来事を「過去・現在・未来」と推移するものとして捉え、B系列ではある出来事を別の出来事に対する「より前・より後」という位相として捉える。そう、教えてもらった。
    「僕はどうせならAから始まる系列がいいなあ。その方が、目標だって明確だ。君も、別にB系列を擁護している訳じゃないんだろ?」
    「そうでもないかもしれないだろう」
    最後の勝者victo“R”になることにしか頭にないくせに」
    「心外だな。最初の勝者“V”ictorになることだって頭にあるとも」
     打てば響くような返答。彼は本当に頭が良い。そして、だからこそ――
    「……君って、本当につまらない人間なんだね」
    「つまらない? どこが」
    「自分の『つまらなさ』をまだ自覚してないところ」
     無知の自覚がない、といっても良い。今アベンチュリンの目の前にいるレイシオは、まるで典型的な賢者の振りをしたがっているように見えた。それが他人より賢い自分にとっての理想的な人生で、自分の歩むべき道なのだと考えている。けれどそんな『お利口な』生き方は、彼には向いていないと思うのだ。彼の歩みは何処からどう見ても凡人たちの歩む第一の道から逸脱しているが、天才たちの歩む第二の道からも逸脱しているから。だが彼はまだ自分を他人の道に寄り添える人間だと思っているのだろう。まだそのために変われるような他人と出逢っていないだけで、いつかその誰かが訪れれば、その誰かと共に歩むことができるのだと。愚かにも、夢想している。
    「……ふん。そう言う君は、かなり高度な教育を受けてきたようだな?」
    「そう見える?」
    「少なくとも君が誰かの『家庭教師』だったのだろうと容易に想像出来る位には」
    「なら、素敵な出逢いのお陰かもね」
     何処かの星の古い文明では……人にものを教える仕事は、奴隷の領分であったのだという。しかし、まず家庭教師と呼び表すべきは、きっと、望んでもないのに態々知識を見せつけてくるレイシオの方なのだ。アベンチュリンがレイシオを見つめたいと思うとき、彼は彼自身を見ようとすれば必ず直視せざるを得ないところに知識の壁を置く。素肌に触れようとすれば石膏に阻まれるように。それは簡単に砕けてしまう程脆いが、しかし砕こうと思わなければその内側にある真の姿を隠したままにする。
     けれどそれがレイシオ自身であることを、告げることはできない。
    「……君たちの琥珀の王ができるだけ早く次の鎚を振ることを願っている」
     ほんの僅かに眉を下げたレイシオが言う。
     ――また会いたいと、思ってくれるんだ。
     そう思って、ふと。気がついた。
    「僕、自分が『未来の社員』だって君に言ったっけ?」
    「違うのか?」
    「違わないけど」
    「……君がまだこの世に存在しない、『特別な魂を持つ人間』であることは、一目見た瞬間から分かっていた。君の所属がスターピースカンパニーであろうことも」
    「分かっていて世間話に付き合ってくれたの?」
    「何故?」
    「君はカンパニーの方針が気に入らないんだと思っていたから」
     かのベリタス・レイシオがカンパニーの招聘を受け、博識学会に所属することになったのは、天才クラブに入れなかったからだと噂する人々の囁きを、アベンチュリンはもう何度も耳にしている。人の噂というものを好まないアベンチュリンにとってさえ、それらは身近な話のひとつだった。
    「気に入らない訳じゃない。ただ僕が……『壁』というものに対して、必要以上に懐疑的だというだけだ」
     そう言うレイシオの目は、まだこの世に存在していない何かを既に捉えているように見えた。
    「時間と空間の壁を超えた航路が再び繋がる日は必ず来る。僕らはいつかそれらの壁を超え、真理に到達する」
    「君だけじゃなく?」
    「僕だけじゃなく」
    「……天才なんていないってこと?」
    「違う。そこでは、全員が『天才』であれるんだ。知識は特権ではなく、基本的な権利であるべきだ」
     真理の光を覆い隠す真っ黒なベールを貫こうとしているかのように、激しく真っ赤に輝く瞳は、精気に満ち溢れている。まだ何一つ諦めていないその輝きは、ひどく恐ろしく、そして同時にひどく美しかった。けれど。
    「その頃には僕も、自分の運命と出会うことができるだろう」
    「……そうだね」
     それは本物ではない。いつか消えてしまうのを待つことしかできない、ただの幻。アベンチュリンは、そんなレイシオが本当の運命に見つかって、全てが終わってしまう前に、自身のそれと、正しく重なることを祈っている。
     そしてこの錯覚のような出会いこそ、そのためのチップなのだ。
    「それまで。どうか、この『お守り』が君を守るよう、祈ってもいい?」
     あの日あの瞬間まで大きな手に握られていた、まだほんの僅かに炎の熱を残している気がする、『只のチップ』一枚。それを、目の前のひとの手に、ほんの少しだけ無理矢理に、握らせる。
    「……構わない」
     血琥珀色の瞳に、煌びやかなチップが映る。
     その瞬間、何かが『成った』。そう思った。アベンチュリンは、また正解を選んだのだ。
    「ねえ、一つだけ確認しても良いかい?」
    「ああ」
    「君は僕にとっての『今この瞬間』の後に、何が来ると思う?」
     禅問答のような問いかけは、レイシオの頭の中の宇宙に、すぐ近くの塵だけを引き寄せることしかできない、小さな引力を産み出したらしい。ほんの少しの停滞の後、レイシオが口を開く。
    「君にとっての『この次に起こる出来事』が来るだろうな」
     言葉通りである以上に何の含意もないようなシンプルな回答は、しかし彼にとっての不動の真理の一端を示している。
     例えば、はじめの一枚から無尽蔵に増えるチップがあったとして。そのはじめの一枚は、一体何処から発生することになるのだろう。
     ――誰かが過去に投げ捨てたんじゃないか?
     ――え?
     ――だってそうだろ。無限に増えるんだから、未来から一枚減ったって変わらない。
     ああ、確かに、未来はいつかの過去で、過去はいつかの未来でしかない。となれば、過去が未来に先立つのと同様、未来もまた過去に先立つものであり得るのだろう。
     すべては、宇宙の真理に比べれば、あまりにもちっぽけな好奇心の、生涯ただ一度の羽ばたきから始まる。
     三度の邂逅はむしろ蛇足だ。今を変えるには、ただ一度、ただ一枚のチップをその川に投げ入れるだけで良い。
     正しい選択の次には、アベンチュリンにとって何より正しい結果が来るだろう。
     別れを言う必要はない。アベンチュリンにとってそれらは、一度閉じられた瞳が再び開かれるまでの刹那にすぎないから。
     逆に回した時計の針を再び元の場所に戻すような仕草と共に、アベンチュリンの『現在』は再度その位相を変えた。いつも通り真意の見えない表情をした葦毛の少女の手の内で、青く燃える砂が詰められた小さな砂時計が砕ける。その瞬間、ほんの僅かに、懐かしい香りを感じた気がした。
    「満足した?」
    「助かったよ、マイフレンド」
     今にも踊り出しそうな心を抑えて感謝の言葉を伝えられたことを、どうか評価して欲しい。そう思って振り返る前の背中に、相も変わらず冷徹な言葉が刺さる。
    「言っただろう。ある特定の二者の間にある時空の壁というものは無視できる、と」
    「まさか君が本当にガラスの天井さえぶち破ってくるとは思わなかった。……それで結局、君は何を変えようとしたの?」
    「僕が何かを変えた訳じゃない。ただ、『変わらない』ことを確認したかっただけだ。それに……信じていたんじゃないのか?」
    「君の手癖の悪さを忘れていただけだよ。……ほら、早く返して」
    「もう限界か?」
    「もう限界だ。――負けを認める」
     その瞬間、逸る心を抑えきれないアベンチュリンが無遠慮に差し出した掌の上に、雲間から月が覗くように笑みを浮かべたレイシオによって、数琥珀紀を越えてなおひどく情熱的な手により熱され続けていた一枚のチップが再度落とされた。
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