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    おーり

    ゲン/千とゲ/黒千と黒千/千、千/黒千が散らかってます。
    地雷踏み防止に冒頭にカプ名(攻のあと/)入れてます。ご注意ください。
    シリーズと一万字超えた長い物はベッターにあります。https://privatter.net/u/XmGW0hCsfzjyBU3

    ※性癖ごった煮なので、パスついてます。
    ※時々、見直して加筆訂正することがあります。
    ※地味に量が多いらしいので検索避け中。

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    おーり

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    ◆何でも許せる人、人外、流血表現あり。
    ◇全員人外です。
    ◆付き合っているゲン/千。

    ##ゲン千

    異形怪奇譚 『それ』は初めて見る生き物だった。
     燻した薬草の匂いを部屋から逃がそうと、窓を開けた俺の視界の前にそいつが天から落ちていくのが見えた。晴れた青空の下、雷鳴轟くようなその生き物の咆哮に思わず後退してしまい、テーブルに置いた乳鉢を落としかけてしまった。
     ただ落ちていくのが嫌だったのだろう。精一杯身をよじって抗い、声をあげて文字通りのたうち回りながら重力に従っていくのが見えた。
     慌てて外套を引っ張り出して羽織ると俺は家を飛び出した。きっと今見たものはまぼろしでも夢でもない。確固たる自信を持って出る途中に、家の隣の小屋に入ってそこで薬草袋を引っ掴む。
     そのまま駆けて行こうとするところで、正面からやってきた来客とすれ違う。

    「え? どうしたの? 千空ちゃん」
    「テメーも来い!」

     驚いている昔なじみに声をかけてそのまま走っていく。よくわからないが急がないといけない、そんな気がした。
     急なことに紫の羽織をまとった優男がわたわたと慌てふためく。俺の気迫に押されたものの何が何だかわからない。そんな面をしている。

    「ゲン、テメーも早く来い!」
    「え? 何なの?」
    「龍が落ちてきた」
    「はぁぁぁ?」

     簡潔に述べてやった言葉にゲンが目を点にする。普段から表情の掴めない百面相な昔なじみだがこんな素直な驚きの表現は久しぶりだ。彼の表情を一瞥して堪能すると俺はまた前を向いた。
     後ろから駆け出してきた男の足音が近づいてくる。決して走る速度を弱めたわけではないのにあの距離から追い付いてくるなんてやっぱり俺の脚が遅いのか、ゲンが速いのか。
     並んで走りながら俺も下半身トレーニングやろうという考えが頭を過った。



     目的に近づくにつれてあちこちにキラキラと光る鱗が散乱していた。それは輝きだけを見れば美しいものだったがべったりと血が付いていて、よく見れば鱗の落ちる方向に向かって血痕が続いている。

    「金色の鱗を巻き散らし、鱗が剥がれた場所から血を流しながら移動したんだな」
    「相当手負いじゃない。興奮してたらどうするの?」
    「そんときゃテメーが結界でも張って俺を守ってくれるんだろ? お狐様」

     出会ったときはただの悪戯キツネでしかなかった昔なじみは、俺に惚れただのなんだの言って修業して今では人里にある神社に住み着いている。そうして祭祀のないときは留守番に形代を置いて遊びに来る。

    「ううっ、い、一応神格はあるけど龍の方が格上だから力負けしたらメンゴ~」
    「その時は俺とテメーの命日が一緒になるだけだな」
    「ちょっ、縁起でもないこと言わないでっ!」
    「半妖だが力のねぇ俺よりはいいだろ? 頼りにしてんぜ、ゲン」
    「~~~~っ! 千空ちゃん、無事に終わったらハグしてキスしてもいい?」
    「いいぜ、キスでもそれ以上でも」

     言えば顔を真っ赤にしたゲンがへなへなと座り込んだ。
     余裕が飛んだのか耳まで出してしまっている。こんな言葉一つで動揺するなんて、と笑えば「千空ちゃんは俺にとって最大級のご褒美なんだからね! 動揺しない方がリームーなの!」と激しい剣幕を見せられた。
     
    「あ~、悪かった。だから一緒に行くぞ」
    「終わったら覚悟してよね。そう簡単に俺に身体の約束なんてしちゃいけないってわからせてあげるから」

     そのまま地を転がりそうな程、駄々を捏ねるゲンの尻を今は非常時だとふわふわのしっぽごと蹴飛ばしてやる。そのまま前に倒れて「キャン」と痛みに鳴くゲンを放置して俺は血の痕跡を辿る。
     背の低い草しか生えない場所に盛り上がった金色の肉の塊が見えた。
     上下に大きく動き、時折むせこむ音を聴きながらその生き物がまだ生きていることに安堵する。
     近づくにつれて状態がよりはっきり見えた。
     緩く開けられた口は鋭く尖った牙が覗いていて大量の生臭い赤に彩られている。木々をなぎ倒し、草原を転がり回って暴れたおかげで荒らされた青草と生臭さが混じった匂いが風下へ流れていく。
     簡単にエサにありつこうと、意気揚々と近寄ってきた肉食、雑食の獣たちはその生き物の圧に怯え、好奇心のあるカラスでさえも遠くで鳴くしか出来ずにいる。息のあるうちはとても、たとえ命が尽きていたとしても食するには恐れ多いものがそこにいると本能でわかるのだろう。
     乾いて大気の中で砂になっていく血液ならまだ良いが、肉と骨はダメだ。死肉でもうっかり口にしようものなら呪いに触れてしまう。天国にも地獄にも行けずにこの地で漂い続ける強い呪いを受けたい生き物などいない。
     だから怯えてどんな生物も助けようとすることが出来ない。助けたくてもその生物が怖くて出来ない。また同じ妖や異形であっても彼が消滅することで巡ってくるメリット、デメリットを考えればメリットがデカく、助けたいとは思わないのだろう。俺みたいに半妖の、多少丈夫な存在以外は。

    「テメー、大丈夫かよ」
    「貴様は何だ」

     声をかければぴくりと頭を揺らして、視線だけ寄越してきた。首を動かすのも辛いのだろう。
     荒々しく上下に大きく身体を揺らしながらふぅふぅと息を吐き、その度に傷から血が流れ落ちる。傷は多くないものの、深く突き刺さった数本の矢の付け根から鮮血が流れ続けている。致命傷を避けて貫いた矢はじわじわと、だが確実にその生き物の命を削り取っていっていた。
     
    「俺は石神千空だ。さっき窓からテメーが落ちてくるのが見えたんでな」
    「そうか、俺の名は龍水。俺を見て恐れないと言うことは俺を助けに来たかそれともとどめを刺しに来たかどちからだろうな、違うか?」

     ぐぐっと頭を持ち上げようとして、どしゃりと地面に崩れ落ちた。傷の痛みで巨体を支えきれないのだろう、金の目が歪んだ。

    「大人しくしてろ。今、矢を抜いてやる。ちぃっと痛ぇけど、悪いようにはしねぇと約束する。だから我慢しやがれ」
    「ああ、わかった」

     足で龍水の身体に踏ん張り、肉に埋まった矢を取り除いていく。
     ぎぃっと大きな牙を噛みしめ、痛みのせいで顔を険しくしながらも龍水は言われた通り暴れることなく矢を抜かせた。幸いかえしのついていない矢じりは肉の中に残ることなく、全て取り除くことが出来た。

    「しっかし、でけぇな。人間サイズに化けれねぇか? 血止めの薬草が全然足りねぇ」
    「はっはー、お安い御用だ」

     バッシーンという奇妙な音の後に龍水は金色の髪をした青年の姿に化けて見せた。肩やわき腹は赤に染まって痛々しかったが、表情はどこか楽し気で笑っていた。

    「テメー、ケガしてんのに陽気だな」
    「貴様がいいやつだとわかったからな。しかし……」

     俺を見る龍水の視線が頭の先から足の先まで動くのが分かった。ただの視線なのに全てを見透かすような瞳の輝きに思わずたじろいだが、遅かった。

    「ふむ。なるほど、これは面白いな。貴様、蛇の妖の血が混じっているな。なるほど、今のままでは半端だが俺が力を注いで種をやる。俺の子を孕め。そうすれば神格を得る資格を得られる。俺と契りを交わさないか? 貴様が欲しい」 
    「あ˝ぁ? いきなりなんだ。確かに俺は蛇の半妖だが、人間として生きることを選んでいる。悪いがテメーの伴侶にはなれねぇ。孕むにしても相手はもう決めてある」

     幼い頃から養父に育てられた俺は実の親を知らない。育ての養父は俺を親友の子と説明し、俺を人間として育て続けた。
     蛇の妖が混ざってあるのを告げられたのは俺が周りの子供らよりずいぶん成長が遅いことに気が付いてからだった。『妖だろうがなんだろうが、お前は俺の息子だ』そう言って育ててくれた養父ももういない。それでもゲンがいたのでそれなりに今を楽しく過ごせている。

    「ふぅん、その容貌だ。言われなきことで責められ、迫害を受けたのだろう?」
    「確かに人と異なる髪の色、瞳の色で悪目立ちもしたが育ての親が庇ってくれたおかげでそこまで傷は負ってねぇ」

     そこまでは本当のことだ。少なくとも養父が生きている間はこれといって目立つ嫌がらせはなかった。それは養父の人柄や自分の性格も手伝ってのことだろう。

    「半妖に生まれてしまえば、妖の世界にも入れず、人の中でも生きれない。その貴様の苦しみを育てた人間以外に知っているものがいるとは思えんがな」
    「ククク、さすが龍だな。本質を見抜こうとしてかかりやがる。テメーが言う通り、養父が流行り病で逝去してからは良からぬ噂も手伝って俺は人里を離れてる。だが、別に迫害されたからってわけじゃねぇ。この周囲には薬草も多いし、魚や獣も捕れる。大自然の中で生きるのに唆られたんでな。何一つ困っちゃいねぇよ」
    「そうか?」

     ゆらんと龍の目が輝く。
     寂しかったろう、苦しかったろう? 半妖は人と同じ時間を生きれない。そして妖とも同じ世界で生きれない。
     百夜が死んだ日のことがぶわっと脳を駆け抜けていく。
     生意気を許してくれながらも大きな愛を注いでくれる彼が好きだった。もっとずっと長い時間を一緒に生きていけるのだと信じていた。成長する俺の肉体の変化が遅すぎて、いつのまにか百夜の命の灯が付きかけていることに気が付けなかった。
    (そうだ、あれは流行り病でも何でもない。百夜が俺のためについた最期の嘘だ)
     枯れて小さくなる百夜の肉体。枝のようにしおれた指が俺の手に触れ、わずかに動く唇が俺の名前を呼んだ。もう悪態をついても笑って許してくれるやさしい人はいない。
     伸ばされた手のひらの先で尖った爪が鈍く光って見えた。養父がいなくなって独りぼっちになった俺に一緒に来いと誘ってくれる男の瞳には嘘が見えない。真っすぐに輝く金色の目だ。細く伸びた瞳孔は人のものとは違う異形のもの。
     この手を取れば彼と一緒に寂しくない時間を共に過ごすことが出来るのだろう。

    「俺は……」
    「ちょーっと、俺を置いて話を進めないでくれる?」

     わずかに動いた腕ごと後ろから強く抱きしめられる。
     抱き寄せられた男の匂いが鼻をくすぐり、記憶がコマ送りに流れていく。
     繋いだ小さな手、大きな轟きの後に夜空に咲いた大輪の花火、焼けたタコ焼きのソースの香り。白い狩衣は目立つからと家に連れ帰って一緒に浴衣を着て祭りに行った。
     神社で一人遊んでいた時に仲良くなった少年。
     実際は俺よりかなり年上だったが見た目の年齢はそこまで変わらない。夕立に降られて雨宿りして寒暖差に震える俺に「内緒だよ」とふわふわのしっぽで温めてくれて、それがくすぐったくて照れ臭い距離に「濡れた毛皮が獣臭い」と文句を言えば「ドイヒー」と独特な言葉で半泣きになっていた。

    「ゲ……ン」
    「ああ、良かった。俺の名前ちゃんと言えたね。戻ってこれたね」
    「ん、正直ちとヤバかった」
    「俺が千空ちゃんの傍にずっといるって約束したじゃない。ちゃあんと思い出した?」
     答える代わりに深く頷くと、ゲンはふふっと嬉しそうに頬を染めて笑った。
    (俺にも俺のことを大事と言ってくれる人物が百夜以外にもいる)
     その事実を取り戻した途端、普段は感じなかった存在の大きさにじわっと瞳が滲んできた。

    「ゲン、貴様もいたのか」
    「龍水ちゃん、お久~。千空ちゃんは俺のお嫁さんになるの。だから欲しいって言われてもあげられない」

     ちりんと鳴る鈴の音にハッと我に返る。あてられた気を何も言わずにゲンが引き取って消してくれるのがわかった。潤んだ瞳を手で擦る。
     ゲンは俺を自分の背中に移動させると、龍水と向かい合った。

    「ゲンか……キツネよりも龍の方が格上だ。身をわきまえろ」
    「出させてもらってるのは口ですぅ。いくら龍水ちゃんでも千空ちゃんだけは譲れないんだからねっ!」

     龍水の目が爛々と輝いて手のひらに丸い光の玉が集まっていく。その対面にいるゲンも両手を素早く動かして印を組むと尻尾の数も増え、ポポポと小さく青白い炎がゲンの周りを舞った。

    「無傷では済まされんぞ。ゲン、やめるなら今だ」
    「だーかーら、千空ちゃんのことについては譲れないって言ったでしょ? いくら龍水ちゃんが強くっても今は手負いだからね、ワンチャンあるかもしれないでしょ?」
     見ているだけの自分にも二人の差は歴然としているのが分かった。手負いだとしても龍は龍、キツネはキツネ。元が違い過ぎる。

    「っ、ゲン!」

     叫ぶと同時に二人の間を光の筋が割って割いた。地に深々と突き刺さったそれは龍水の身体を貫いているのと同じ形の矢である。

    「はい、二人ともそこまでだよ。龍水、人の恋路を邪魔しちゃダメだってフランソワからも教わっていたでしょ? 欲しい欲しいってそんな強欲だから天帝の怒りを受けちゃうんだよ」
    「羽京……貴様、命じられたとはいえ遠慮なく俺を射抜いたな」
    「このくらいで死ぬような君じゃないって知ってるからね。さあ、戻って仕事するよ。フランソワが心配して待ってる」
    「はっはー、そうやって命令に私情を挟まないところがいいな。やはり貴様が欲しい」
    「はいはい、その欲しがりで今回もお叱りが下ったんだから今日くらいは大人しくしてなよ。ああ、君たち邪魔したね。うちの皇子がお世話になりました」

     現れた童顔青年は龍水にひとしきり塩対応を続けると、俺たちに向かって帽子を脱いで深々とお辞儀した。その背中には白い翼が生えていて彼も人間でないことがわかる。

    「全く羽京ちゃんからも言っておいてよ。千空ちゃんはずっと前から俺のなんだから龍水ちゃんには渡さないって」
    「はいはい、だからちゃんと止めたし、迎えに来てあげたじゃない。ああ、千空、初めましてだね。僕は羽京。ゲンとは彼が修行に来た時に知り合ったんだよ」
    「ちょっと、羽京ちゃんまで千空ちゃんにちょっかい出さないで!」

     もはや発狂しているのかと言わんばかりの悲鳴を上げて、半泣きのゲンが羽京から俺をかっさらっていく。

    「もぉ、とっとと龍水ちゃん連れて帰りなよ」
    「あはは、ゲン。なんなら千空を連れて君も一緒に……」
    「謹んでお断りしますぅ~、俺には千空ちゃんだけでいいもん。千空ちゃんがいたいって場所で守ってあげたいのっ!」

     グスグスと鼻を鳴らしながらゲンが俺を抱きしめて肩に顔を擦りつける。さっきの凛々しさはどこへ行ったのやら、泣き虫な男の背を抱きしめ返してよしよしと撫でてやる。

    「テメーは俺でいいのか?」
    「千空ちゃんしかダメなの。千空ちゃんが『テメーなら出来る』って言ってくれたおかげで俺頑張って神格も取れたんだもん。俺を神様にしたのは千空ちゃんなの」
    「そうか」

     泣きじゃくるキツネ男に「爬虫類と哺乳類ならまだ龍の方が蛇に近いぞ」とからかってやれば、「俺が変化で千空ちゃんに合わせるから!」と熱烈なアプローチが始まった。
     一体いつになったらこの男は付き合ってくれと言ってくれるのか。好意の言葉と性行為の回数は多いのに肝心の言葉をまだ聞けていない。好きを何度告げられても、嫁に欲しいと言われても関係を始めるには「付き合ってください」が先だろう。
     頭を傾げながら、俺が孕むとしたら相手はゲンしかいないのにと空に昇っていく二人を見送りながらぼんやりと考えていた。

    <END>
    支部にて2021年10月23日に初出
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