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    ikuuminnn

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    ミツギン#MidnightLonging用 前半部分です
    R18部分後日追加します、ごめんなさい…!
    付き合ってるミツギン

    Fish on the table「……なにこれ」
    帰るなり機嫌の悪い声が、頭上から降ってきた。
    見上げた箕作は呆れた様なイライラした様な表情でローテーブルの上に視線を注ぎ、半分潰してあったりそうでなかったりする空き缶を横目に肩からブランドロゴの入ったショルダーバッグのストラップを外した。目の前のソファーへ乱暴に投げ置く。
    目も合わせずに通り過ぎて、ややあってキッチンの方から水音が響いた。帰ると必ず一番初めに手を洗う。雑なのか神経質なのか、濡れた手をキッチンペーパーで拭き取りながら戻ってきた箕作はラグの上に座る俺の横を通り過ぎて、ゴミ箱へとペーパーを放った。片手を腰へ当て、見下ろした目がこちらを一瞥したかと思うと、それは逸らされて再びテーブルの上へと戻った。
    「なんで1人でこんな呑んでんの?」
    「乱暴に扱うなら返せや」
    中指で、ソファーの上へ捨て置かれたバッグを指し示すと箕作は小さく短いため息を吐いていやな感じに少し笑った。――確かに欲しいと言われた訳では無い。俺も欲しかったやつ、と言ったから、そんな高いもんじゃないしやる、と手渡した時こいつは確かにちょっと戸惑った顔をしていた。その前に言った「すごく似合ってるね」という言葉が言いたかったことだったか?と思い当たったが、わざわざ確認するのも変な気がして聞かなかった。それに手にしたバッグをじっと見つめた箕作のありがと、と言った頬は怒ったような、でもほんの少し赤くなっていたはずだ、とアルコールによって鈍くなった記憶を引っ張り出して俺は反芻した。ぴったりと噛み合っていなくてもその時の空気は悪いものではなかった、少なくとも今のこれよりは。
    「俺シャワー浴びてくる」
    ラグの上の裸足の足が立ち去ろうとしたので、ダルい全身に力を入れてぐっと立ち上がる。急に頭上からの圧を感じたからか箕作はびくっと少し身構えて怪訝な顔でこちらを見上げた。
    「とりあえず1杯呑めよ、付き合え」
    眉間に寄った皺を見ながら言って、リビングへ置き去りにしたままキッチンへ向かう。シンクの下から勝手にウイスキーの瓶を取り出し、氷を入れたグラスへ適当に注いだ。マドラーをまわし、冷蔵庫から取り出した炭酸水をそっと注ぐ。誰かのために酒を作るのはいつぶりか思い出せないくらいだが、体が動作を覚えていた。最後にゆっくりとマドラーを上下させて冷蔵庫から取り出した自分の分の缶チューハイとを両手に持って、リビングへと戻った。
    クッションに座っていた箕作は怪訝な顔をしていたが、腹の辺りで腕を組みがならそれでも「これ俺も食べていいの?」と先程よりも少し和らいだ声で顔を傾けて言った。テーブルの上には百貨店の地下で買ってきた食べかけのサラダが乗っている。
    「ん。つーか腹減ってる?」
    返事を待たずにキッチンへ戻る。冷蔵庫から鰹のたたきと水にさらしておいた玉ねぎを取り出して、さっさと水切りして取り出した皿に盛り付けた。ついでにパックの刺身も取り出して別の皿に盛り付ける。急に微妙に動いたからか、先程よりアルコールが回っている気がする。ふわふわとした頭で再びリビングへ戻ると、箕作はすでにグラスを半分空にしていた。情緒のないやつだ。
    「え……なに、なんか豪華?」
    「いや別に皿に盛っただけだけど」
    しげしげと皿の上を見た箕作は、取り出した使い捨ての箸で生姜をちょこんと鰹にのせて切り身を口へ運んだ。口内のピンク色の舌を少し覗かせて、赤い切り身が捕食され、箕作はもぐもぐと咀嚼しながら手の平を唇の前へ翳した。
    「普通においしい」
    「普通にってなんだよ?」
    聞いてみたが視線からは表情がわからなかった。生姜は擦ったやつではなくチューブ状のものだったが、調味料もパックに付いてきたものだったから、まずいもくそもないはずだ。多少ひっかかりながらチューハイを開ける。レモンの味のする炭酸を舐めるようにちびちびと飲みながら、食欲旺盛に刺身に手を伸ばす斜め隣の姿を見ていた。すでにグラスは空になっていたが、こいつはこのくらいじゃほとんど酔わない。度数の低い酒だが3缶開けた自分の方は低めの室内温度に設定しているにもかかわらず、とっくに体温を逃がすことができなくなっていた。想定よりペースが早すぎたかもしれない。膝に手を当てて立ち上がる。
    「空になったやつよこせ……持ってくるから」
    「なに今日……っていうか、あんたもう呑まない方がいいんじゃない」
    語尾を背に聞きながら、再びキッチンへ向かう。ふ、と小さく吐き出した自分の呼吸が熱かった。

    「……隆文さんて好きだよね、こういうの」
    じっと見つめる箕作の手の中には、琥珀色の液体とともに丸い氷の入ったグラスがある。専用の製氷機は、今どき100均でも売っているがネットストアで一番良いものを取り寄せていた。冷凍庫のスペースを圧迫するボリュームだったが、昔、店で購入していたような氷と遜色ないくらい、気持ちのいい透明度を持った完成度だった。
    「自分はあんま呑めないのにさぁ」
    揶揄するような笑いに、むっとしてチューハイを煽る。別に人並みだと思う。こいつが比較的強いだけだ。
    「なぁ、ほんとに……首まで赤くなってんじゃん、もう」
    言いながら、ボタンをいくつか外して着ていたシャツの胸元を箕作の視線がゆっくりと辿ったのがわかり、耳元から余計にじわじわと顔が熱くなる。缶の残りを一気に飲み干すと、もう座っているのも耐えられなくなった体を仰向けに横たえて床に寝転がった。背中の下のラグが柔らかい。ここは元々むき出しのフローリングだった。
    (そうだ、俺が欲しいつって……)
    機能性しかなかった部屋は買い足したインテリアなどで少しずつ居心地が良くなっている。物を増やすのが嫌なタイプかと思いきや、箕作は特に俺の買い物に言及することはなかった。こだわりがなにもないのか、相手が自分だからかはわからない。カラオケのコンセプトルーム的気持ち悪さのあった部屋は、オープンな様相からちゃんとしたプライベートな空間にかわりつつあって、自分勝手だろうが満足していた。己の家に比べたらまだ完全にリラックスは出来ないが、ここに来る頻度を増やしている理由はあった。
    「寝るならベッド行きなよ」
    「……寝ない」
    顔の横にある、床に置いた手から繋がる箕作の手首を見ながら答えた自分の声は、甘えるように舌っ足らずな音で吐き出された。
    「……寝るだろ、それじゃ」
    カランと音がしてグラスが傾いた音がした。もっと呑め、と思う。俺の家だと最終的にこいつは毎回、帰ってしまうのだった。だから今日もここにいる。
    「あんたを寝室に運ぶとかさすがに無理だから」
    声はまた若干の冷たさを帯びた音に変わってしまっている。情けない感情が喉元に込み上げて、無意識に自分の唇の内側を噛んだ。
    「お前ってなんで俺が呑んでると怒んの」
    なんとか肘を床に立ててぐだぐだになっている上半身を無理やり起こすと、肩越しにこちらを見た箕作はかっと頬を染めた。
    「いろいろ……いろいろあるんだよ!こっちには!」
    「でけェ声出すな」
    「人の気も知らないでさぁ……」
    くしゃりと自分の前髪を掴んで俯いた箕作を無視して手を伸ばし、テーブルの上のグラスへウイスキーを注ぐ。無理な体勢で、ボトルから不規則に零れた液体が溢れてテーブルの上を濡らすのを、箕作はうらみがましいような目で見た。
    「お前こそ……なに最近イライラしてんだよ、欲求不満なんじゃないのか」
    「…………だったらなんだよ」
    じゃあなんで、と出かかった言葉をすんでのところで飲み込む。
    「……もっと呑めって」
    なんとか倒さないようにボトルをテーブルへ戻し、ごろりと再び体を横たえると、怒った顔が見えなくなった。今日は、今日もだめかもな、と思い目を閉じる。まぶたの裏が熱くなったが、酔いすぎたせいだと自分に言い聞かせる。なにもかも上手くいかない。ほんとにこのまま寝ちまうか、と睡魔に身を委ねようとした時、カツンとグラスがテーブルに置かれる音が耳の奥に聞こえ、閉じたまぶたの裏が少し暗くなった。
    「呑んだけど」
    目を開けると、箕作が頭上からこちらを覗き込んでいた。
    「俺のこと酔わせてどうするつもり?」
    怒っていたかと思った顔は、予想に反して心細げな表情に変わっていた。胸がぐっと苦しくなって、心臓が鼓膜までうるさく鳴り響いている。箕作が目を逸らさないため、久しぶりに近距離で見つめ合う形になった。まぶたの縁が赤くなっていて、こいつも酔っているのがわかった。やっとだった。
    「……どうするっていうか……」
    それでも言葉にはできず、そっと目の前の箕作の手の甲へ指を這わせる。ぴくりと小指が揺れたが、拒否はされなかった。指先で手首をたどり、中指の背でゆっくりと肘の内側の柔らかい皮膚をを撫でると唇が一度ぎゅっと結ばれたあと、白い前髪が降りてきた。
    欲しかった感触が音を立てて唇から離れると、一つ息を吐いた箕作が俺の顔の横に腕を置いて覆いかぶさってきた。お互いの顔が寄って、もう一度、今度は食らうように唇が重ねられた。夢中で貪る。強いアルコールに浸っていた舌でもって舐られて、注がれた唾液を飲み下すとくらりと目眩がした。顔が離れる。荒くなった息で上下している自分の胸元を熱を持った目にじっと見られ、たまらなくなって細い首へ腕を回し強く引き寄せた。

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