下着/無邪気「…藍湛?なあ、答えたらどうだ?ん?」
「……」
同棲中のマンションの一室。玄関を開けたらそこには愛しい伴侶の魏嬰が仁王立ちをしていた。新婚夫夫よろしく、帰宅の出迎えというわけではなさそうなことぐらいその表情をみるだけで分かるほどの時を一緒に過ごしてきた。促され、リビングに向かい、ソファの前においてある机をみると見覚えのあるものが数枚置かれていた。そのことに気づくと顔を歪ませてしまい、目ざとく築いた魏嬰はにこりと笑顔を向けてくる。もちろん、その目は笑っていない。
「藍湛?どういうことだ?」
「…」
ふい、と顔をそらせば両手で頬を掴まれて無理やり魏嬰の顔に向かされる。抗おうと思うものの魏嬰の手を解くなど自分ができるはずもなく眉を下げてなんと言い訳をしようかと頭を張り巡らせるしか無い。
「だんまりか?藍湛。別に俺は怒っているわけじゃないんだよ。ただ、理由が知りたいだけだ。」
「……すまない」
怒っているわけじゃない、とはいってもそんなはずがない。わかってはいた。分かっていて魏嬰がなにも言ってこないことをいいことに私は何度も何度も同じ行為をしてしまったのだ。魏嬰に一言言えばよかったはずなのに、私は。…私は。
「魏嬰、すまない。今度からは必ず言うから」
「いや、言えば言ってはなしじゃないからな?というよりも、なんでこんなもの欲しがるんだよ!」
「魏嬰のものだから…」
「いやいやいや…」
魏嬰は振り返り、机の上においてあるそれを手に取り、私の目の前に押し付けるようにして見せてきた。
「俺の使った下着を隠すやつがいるかよ!」
「隠していたわけじゃない。コレクションしていたんだ」
「尚の事タチが悪いわ!」
あれはいつが最初だったか。ソファに座り項垂れ頭を垂れながら両手を握りしめながら語りだした藍湛はまるで懺悔をしているようだ。悪びれず言われたときはどうしようかと思ったものの、お前に下着を盗まれだして俺は下着の購入頻度が上がったから止めてほしい、と言えば悲しい顔をしてこういう姿になってしまった。
まさか俺が気づかなかったと思っていたのか!?と言えばそっぽを向かれた。思っていたんだな。
いくら俺が頓着しないように見えてもこうまで無くなれば気づくものだ。
俺も最初こそ、ありえない話だが下着泥棒に盗まれたのか?と思ったものだがそれにしてはそもそも洗濯物を取り出す段階で既に下着はなくなっていた。
普段俺は在宅勤務が多く時々しか出勤しない。藍湛も同様で在宅勤務だが週に2日は出勤をしている。そのため食事に関しては藍湛に一任しているがその他の家事は俺も行うようにしている。最初は何もしなくて良い、ただいるだけでいい。とさえ言われたが実際動き回りたい俺からすれば家事も何もせず一日いるだけでは我慢ならなかった。ので、俺が犯人に気づいたのは遅かれ早かれ必然だったと言えるだろう。
「魏嬰のものは何でも欲しかった」
「だからって洗濯をする前のものは面の皮が厚い俺でもさすがに恥ずかしいからやめてくれ」
「……」
「拒否をするな!」
何枚もある下着を藍湛は見つめてそして俺を見つめる。嫌がる素振りを見せつつも、理解はしているのだろう。ぷくり、と頬を少しだけ頬を膨らませている姿がとても可愛らしく胸の奥がきゅん、と音をたてた。
「くっ…その顔に俺が弱いことしってるだろ…!」
「魏嬰…だめ…?」
負けそうになりながらうっ、と声をつまらせる。そもそも藍湛は俺のことが好きすぎるあまりの行動なわけだ。そう思うと途端可愛らしく思えてしまうのだから恋は盲目といったものだ。
「…じゃあ…じゃあ、せめて盗むときは下着を新調してくれ。本当に困る」
「うん。わかった」
そう言って藍湛は俺の頬にキスをして、唇に深くキスをした。
少しだけ、流された気がしないでもないけれど。
しばらくたったある日、風呂に入ろうと下着をとると全て新しいものに変わっていた。
…藍忘機、お前は俺のことが好きすぎるだろう。そう、誰も居ないところで一人呟いた。