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    お〜〜〜原

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    お〜〜〜原

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    にょた百合則孫のバカンス
    最初の方のメモ

    バカンス1.バカンス
     夏は嫌いだ。
     とにかく暑い。汗もかく。
     せっかくの長くて美しい髪が蒸れるし、邪魔になる。突き刺すような日差しも耐えられない。
     
     海はもっと嫌いだ。
     第一に泳げないし、外にいるだけで潮風が纏わり付くのも好かない。海水も、触れただけで脳裏に「錆」と浮かんでくる。海を好む刀剣男士もままいるが、自分はとてもそんな気分にはなれそうもない。
     水面のギラギラと反射される光を見ていたら、なんだか目の奥がズキズキと痛む。別行動中の主曰く、瞳の色素が薄いせいかもしれないだとか。人の身とはなんと不便なのか。
     美しいのは景色と波音だけだ。実際にその場にいると、あれこれ嫌なところばかりが目に入る。
     しかしこんな晴天のビーチで、ぶつぶつ呟き不機嫌なのも自分だけのようで、それもまた嫌だ。

    「ダイビングは楽しめたか?」
    「ああ」
     
     則宗は隣のビーチチェアに座った孫六に声をかけた。黒いダイビングスーツに身を包んだ孫六は、海から出たばかりでびしょ濡れだ。
     喉が渇いていたのか、さも当然のように則宗のパイナップルジュースを横取りし、美味しそうに喉を鳴らして飲んだ。孫六の喉がゆっくりと上下し、中の液体が静かに揺れた。晒された喉に、男らしく出っ張る喉仏は無かった。
     つうと、細い輪郭を伝うジュースの雫を見た瞬間、則宗は反射的に手を伸ばして拭った。さっきまで海にいたせいだろう。濡れた孫六の肌は、ひんやりと冷たく湿っていた。
     孫六は抵抗も無く、じっとそれをみていた。顔を覗き込み、パラソルの日陰に縮こまる則宗を小馬鹿にするように笑った。

    「アンタも泳げばいいだろう?バカンスに来ておいて、毎日海を睨んでいるのも不自然じゃないか」
    「バカ言え。任務に来てるんだろう、僕たちは。それに……」
    「それに?」
    「僕は泳げない」
    「くくっ……だろうなぁ」
     
     いつの間にかパラソルの日陰からはみ出した足がジリジリと焼けている。じっとりとした湿気をかき混ぜるように、時折ふわりと風が吹いた。
     しかし、サングラスに水着姿といういかにもビーチらしい浮かれた格好の割に、則宗の表情はぶすりと曇っていた。
     
     理由は簡単で、二振りは観光では無く任務で来ていたからだ。しかも、この上なく面倒な任務だった。
     
     審神者に頼まれたのは、審神者とその友人達のバカンスの護衛だった。
     友達と遊びたいが、プライベートな旅行だから極力目立つような護衛をつけたく無い。
     そこで生まれたのが今回の任務だ。とある南国で2週間、「たまたま」「本当に偶然」審神者と全く同じスケジュールで動く、審神者の知人の2人という設定だ。ただの護衛任務ならいざ知らず、審神者達一行の行く先々で会う謎の知人という、慣れない上に、小芝居まで打たなければいけなかった。

     孫六はダイビングスーツのジッパーに指を掛けると、則宗の膝上にそっと乗り上がった。胡乱な顔つきの則宗を他所に、孫六が則宗の右手をとって、その手をジッパーに沿わせる。ぐっしょりと水を吸ったスーツ越しに、柔らかな感触が手のひらにじんわりと伝わってきた。

    「なぁ、このスーツ、水を吸って重くて1人じゃ脱げないんだ。アンタが手伝ってくれよ」
    「…………僕がか?」

     則宗の沈黙は、言外にどうせお前1人で脱げるくせにと告げていた。当然、孫六もそれを察してか、長い黒髪を耳にかけ、ニコリと含み笑いをした。
     ジジジ……と音を鳴らして、重なり合った手を孫六が無理矢理操作して少しずつジッパーを下ろす。大きくて柔らかそうな乳がこぼれ落ちそうになっていた。
     
    「だってアンタ、俺の恋人じゃないか。まさか忘れた訳じゃないよな」

     明るい浅葱色の瞳が、水面のようにギラギラと揺らめいていた。また、目の奥がズキズキとしているような気がして、則宗は無意識に目を逸らした。
     則宗の憂鬱の種は、小芝居付きの護衛だけでは無かった。審神者の友人に男がいると思われたくないという我儘で、何も知らされないまま、二振りとも無理やり女の姿にさせられていた。
     そして何の因果か、一文字則宗と孫六兼元は恋人という設定でもあった。







     
     
    2 出発
     現世の拠点である一軒家に降りたった則宗は、まず初めに目線の低さと衣服の違和感を感じた。
     服の上から体を撫でると、ふにゃふにゃと柔らかく沈む。視線を落とせば、体を確かめたその手すらも、いつもより小さく丸みを帯びていた。

    「は?」

     慌てて洗面所の鏡をのぞき込むと、そこには目を見開いて唖然としている女性の姿が映っていた。
     丸い輪郭に細い首、猫のような大きな瞳。身長は、おそらく160センチもない。
     
    「おい……アンタ、則宗、だよな?」
     声がして、反射的に振り返る。
     そこに立っていたのは、よく見知った顔にそっくりな、しかし明らかに女性の姿をした人物だった。
     腰まで届く長い黒髪。女にしては低めの声。トレードマークだったお団子は、毛量が増したせいか崩れかけている。
     よく見れば、身長はぐっと縮まり、輪郭と腰回りは一回り細くなっている。
     胸元は大きく膨らみ、服は肩からずり落ちていた。少し歩けば、ズボンの裾が引きずってしまうだろう。
     顔立ちだけは、かろうじて元の面影を残している。お互い、目の前の女を見つめたまましばし沈黙した。

     
     永遠のように思えた沈黙のを引き裂くように、ガタンと玄関から大きな物音が響いた。
    「あっやべっ……!」
     玄関に顔を出すと、共に訪れたはずの審神者がトランクケースを引きずって逃亡しようとしていた。

    「こら、主人。外に出る時は?」
    「ひっ!」
     
     一足先に我に帰った孫六が、瞬時に審神者に追いついた。孫六は審神者の首根っこを掴み、子猫のようにひょいと摘み上げた。吊り下げられた審神者を二振りが問い詰めた所、怒られたく無いから黙ってた、悪気は無かったとひんひん泣いて謝った。
     あまりにも凄惨な顔で泣いて謝る年若い主相手に、それ以上責める気にもなれなかった。仕方なしに緩くなったベルトをガッチリ引き締め、審神者の財布を預かり、近場の店へ服を調達しに行ったのだった。



     
     
     

     
     
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    お〜〜〜原

    SPUR ME仲良しセフレ則孫続きメモ
    仲良しセフレ則孫続き 怒涛の温泉旅行から数週間後。
     孫六の結婚相手は驚くほどあっさりと見つかった。名を詩乃と言って、落ち着いて知的な女性だと言う。
     そして今日は、その噂の女詩乃と則宗が初めて会う日である。孫六は身内が居ないので、信頼している友人を紹介したいと言って今回の食事の場を設けたらしい。人並外れた外観の自覚がある則宗も、少しは堅気に見える様に一応シャツにジャケットを着て来た。
     それにしても何故、つい最近まで抱いていた男の結婚相手と会食をしなければならないのか。あの夜からずっと、則宗は孫六の顔を見るだけで、心の底ががじくじくと痛み始める。
     「会食などやらなくても良い。勝手に結婚すれば良いだろう」と苦し紛れに孫六に言ってはみたが、「人間では『相手の家族への挨拶』が一般的なんだ。一応やっておきたいから」と至極真っ当に諭された。僕はお前さんの家族ではないし、ならば関の義兄弟でも呼べば良いだろう、と心の中で反芻する度に、家族では無いという事実にも、また心がじくじくと痛み出してしまう。恋人だと言うには不安定な関係で、友人と呼ぶには爛れ過ぎていた。今の僕は一体全体、孫六の何だと言うのだろうか。
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