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    さわら

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    さわら

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    シカマル先生に勝ちたいミライちゃんの話。(with 六代目)

    「えっ、シカマルに勝ちたい?」
     ミライの向かいで籐製の肘掛け椅子に座っていたカカシが、駒を並べていた手を止めて聞き返した。二人の間にあるテーブルには立派な将棋盤が据えてあり、カカシはミライの為に詰将棋の問題を並べていた所だった。

     湯の国から木ノ葉隠れの里へ戻る道中の、とある旅館の休憩スペースだった。廊下の一角にテーブルと椅子が置かれ、傍らの大きな窓から庭の景色が見られるようになっている。既に日が暮れており、今は月明かりに照らされる木々の影だけが見えていた。
     ミライたちがこの旅館に到着したのは、陽が沈む前の夕方のことだった。山道は既に暗くなっていた為、歴史ある旅館の外観や庭の景色は何も楽しめていなかった。ただ、朝になったら少し散歩してみようかな、と思えるくらいの余裕は、今のミライにはあった。今回の旅を思い返すとかなりの進歩だと思う。
     山奥にある古めかしい旅館だったが、温泉好きには静かに過ごせると評判の有名な宿らしかった。旅館の裏手を少し下った所にどこぞの仙人が傷を癒す為に入ったといわれている温泉があり、湯治に来る人がこの宿へと来るのだと、到着した時に旅館の人が教えてくれた。
     一行はこの旅一番の豪勢な料理を夕食にいただき、件の謂れのある温泉ではなく室内風呂ではあったが温泉にも浸かり、各々就寝までのんびり過ごすことになった。ミライも六代目火影であるカカシから、ゆっくりしていていいよと言い渡された。
     同じような言葉をこの旅で何回言われただろうか。そもそもカカシとガイはミライを護衛とは思っていなかったんだから当たり前だ。里を出発してからミライは一人で勝手に気張っていたが、ここに来てようやくカカシの気遣いを素直に受け入れた。
     とは言え、ミライは建前上は護衛という立場でこの旅に同行していた。既に火の国に入っていて取り立てて警戒する必要も無いが、まったく無防備にぼけっとしている訳にもいかない。建前上でも護衛として此処に居る以上はきちんと任務を全うしたいと思っていた。
     火影からゆっくりするよう言われたミライは浴衣に半纏を羽織った姿で旅館の中をぐるっと探索してから、廊下に設えてあった休憩スペースで本を読むことにした。この廊下の先が六代目火影の泊まる部屋になっている為、不審者が通ればすぐに気づくことが出来る。抜かりはない。
     ミライは自分の仕事ぶりに満足しながら、休憩スペースの肘掛け椅子にゆったり座って、この旅に一冊だけ持って来た本を広げた。シカマルから借りた将棋の入門書だった。もし時間があったら読もうと思っていたのだが、結局本を開いたのはこの時が初めてだった。
     するとそこへ浴衣に半纏姿のカカシがふらりとやって来て、ミライの読んでいた本に興味を示したのである。
     カカシはミライが読んでいた本を見ると、部屋に将棋盤があったからと言ってわざわざ持って来てくれた。
     ミライが初めて将棋盤を見たのは、自分の家の仏壇の横だった。ずっとそこに置いてあって、小さい頃は自分用のテーブルだと思っていた。その頃家に遊びに来た木ノ葉丸が一緒に将棋崩しをしてくれたのを覚えている。
     少し大きくなってシカマルを先生と呼び始めた頃、シカマルの家で自分の家にあるのと同じような足付きの将棋盤を見かけた。その時はシカマルが一人で将棋盤の前に座り、並べた駒を動かしていた。てっきり乱雑な駒の山を崩すのが将棋だと思っていたミライは、その時初めて本来の将棋というものを知ったのだった。
     その後シカマルに教えて貰って駒の動かし方ぐらいは覚えたが、実際に自分で考えて指すとなると全然ダメだった。シカマルにハンデをつけて貰っても全然勝てないし、木ノ葉丸には将棋崩しでもやってろと嫌味を言われるほどだった。木ノ葉丸は時々シカマルと将棋を指しているらしく、しかもシカマルに褒められる程度には強いようで、ミライはそんな従兄のことをちょっとムカつくけど羨ましく思っていた。
     尊敬するシカマル先生と対等に将棋をしてみたい、そしてできれば褒められたいと夢見て入門書を貸してもらったが、正直読んでも全然分からなかった。
     いつもはミライの修行を見てくれる母も、将棋だけは分からなかった。周囲に将棋が分かる人もいない。木ノ葉丸は頼りたくない。シカマルはもちろん忙しいし……つまり自力でどうにかするしかなく、そして入門書を読んでも分からないと来たらもうお手上げだった。
     今も優雅に肘掛け椅子に座って入門書を読んでいたが、文字を読んでも全然頭に入って来ないし、図を見てもうっすら分かった気になるだけで本を閉じてしまえば何も覚えてなかった。
     カカシがミライの居る休憩スペースにふらりとやって来たのはそんな時だった。詰将棋をやって見せてくれるというので遠慮なく甘えさせてもらい、ミライの将棋にまつわるアレやコレも色々聞いてもらった。
    「シカマル先生に一度も勝ったことないんです。ハンデつけてもらってるのに、ですよ。一回くらいは勝ちたいです」
     勝つまでいかなくても、せめてあのシカマル先生が慌てるくらいには追い詰めてみたかった。
    「なるほどねえ。でもシカマル相手じゃ勝てないのも仕方ないよ。あいつに将棋で勝てる奴はそうそう居ないだろうし……」
     因みにどれくらいハンデ付けてるの?とカカシに尋ねられ、十枚ですと答えるとカカシは絶句していた。十枚落ちは玉将と歩のみの布陣になる。ミライはそれでも勝てたことが無かった。
     七代目火影であるナルトの話によると、カカシはたまにシカマルと将棋を指しているらしい。シカマルの相手ができるということはそれなりに強いはずだ。いや、火影になるような人だしシカマルにも勝っているに違いない。
     つまり、カカシなら一発逆転の良い手を知ってるかもしれない。これはチャンスだとミライは思った。
    「どうにかしてシカマル先生に勝てないでしょうか?」
     ミライは出来るだけうるうるした目でカカシを見つめた。歳上相手ならそうしておけば間違いない、と母から聞かされていたからである。
     効果があったのか無かったのか、それとも十枚落ちを憐れんでくれたのか、カカシは相談に乗ってくれた。浴衣姿で将棋盤を前にして、顎に手を当てて考え込むカカシの姿はサマになっていた。
    「うーん。そうね……」
     俺が提案できるのは二つ、とカカシが言った。頭の横で手を握って、まずは人差し指を立てる。
    「一、忍びらしく努力する。修行あるのみ。二、忍びらしく策略を立てる……あ、イカサマをする訳じゃないよ」
     カカシは説明しながら、人差し指の隣に中指を立てていた。どちらを選ぶのか迫るように、ミライの前にピースサインを作った手を押し出す。
    「まあ普通に強くなりたいなら一なんだけど、今すぐシカマルを吃驚させたいなら、俺のおすすめは二だよ。その為の策は俺が授けよう」
     それを聞いたミライはパッと笑顔になった。さっすが六代目火影様!と心の中で拳を握って叫び、思わず前のめりになる。
    「シカマル先生を吃驚させたいです!」
     ミライは力いっぱい答えた。
    「よろしい。では猿飛ミライくん。君にはこれを授けよう」
     カカシは芝居がかった台詞を口にし、火影然とした威厳のある態度でミライの前に本を差し出した。それは先ほどからカカシが手にしていた、将棋の入門書だった。ミライがシカマルから借りた本だ。
     ミライは入門書を見て一瞬ぽかんとした。
    「えっ……。やっぱり自分で努力しろってことですか?」
     ミライが差し出された本を受け取って拗ねたようにカカシの顔を見ると、カカシは表情を緩めて笑った。
    「違うよ。その本の巻末を見てごらん」
    「……?」
     ミライはカカシに言われた通りに本を開き、将棋の基本が図を交えて書かれているページをすっ飛ばして、最後の章の最後の頁を開いた。そこでは、将棋盤と将棋の駒を利用した、変わったルールの遊び方が紹介されていた。いわゆる変則将棋というものだった。
    「その本、シカマルから借りたと言っていたね。見た感じ、シカマルはその本の特定の章ばかり読んでたんじゃないかな。本に開き癖が付いてる」
     ミライが手元の本を確認すると、確かにそうだった。開いたページには詰将棋の問題が載っていた。あいつ寄せと詰めは抜群に上手いんだよ、とカカシが言った。ミライには分からないことだった。そんな、上手いとか下手とか、相手の技量を判断するほどの実力はミライには無い。でも尊敬する先生が火影に褒められたのは、自分でもびっくりするほど嬉しかった。
    「シカマルのことだから、巻末まで読んでいないと思うよ。結構古い本の割にページも綺麗だったしね」
     しかもその変則将棋が紹介されているページは、明らかにオマケのようなものだった。二ページしか割かれていないし、ルール説明も文字だけで簡易的だった。誰がこれを見て変則ルールで遊ぼうと思うだろうか。
    「そこで、だ。この変則将棋でシカマルに挑むのはどうだろう。最初の一回なら勝てる……確率が高い。すぐ対策されちゃうだろうから、気をつけないといけないけどね」
     カカシに本を見せるよう言われ、ミライは二人の間にあるテーブルの上に入門書を広げた。カカシの指がページの上の方を指差す。カカシがちょうど指を差した下に、変則将棋の名前が太字で書かれていた。
    「俺はこの≪獅子王≫というのが良いと思うよ」
     変則将棋には種類が幾つかあり、種類ごとに変わった名前が付いていた。カカシが薦めたのは獅子王と呼ばれるもので、ルールは簡単そうだった。説明文が圧倒的に短い。
    「名前が格好いいですね!」
     ミライが第一印象を率直に伝えると、カカシはちょっと呆れたようだった。
    「まあ、そうなんだけど……駒一枚だからあれこれ考えなくて良いと思って」
    「……もしかして私のこと馬鹿にしてます?」
     ミライは将棋崩しでもやってろと言って来た意地悪な従兄のことを思い出していた。目の前に居るのは火影だというのに、ついそれを忘れてじとりと視線を向けてしまう。
    「いやいや、してないよ!? とにかく試しにやってみない?」
     カカシがやや焦った様子で答え、駒箱をひっくり返して盤上に駒を並べ始めた。
     なんと六代目火影であるカカシが相手をしてくれるらしい。ミライは急に嬉しさが込み上げて来た。六代目火影に教えて貰えるなんて、怖いもの無しに決まっている。シカマル先生を吃驚させて、うまくいったら木ノ葉丸にも挑戦状を叩きつけてぎゃふんと言わせてやろうとミライは思った。
     駒を並べ終えたカカシがルールを説明してくれる。
     ミライは鼻息荒く意気込むと、椅子に姿勢よく座り直した。
    「六代目、よろしくお願いします!」
     ミライのでっかい声が旅館の廊下に響き渡る。カカシは困った顔をして、大声を上げたミライを静かに注意した。
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