よくある話「欲しい物?」
「そう、何かない?」
「別に。欲しかったら自分で手に入れる」
音源の納品を済ませてPCの電源を落とした直後、唐突に投げかけられる仁科の問いかけ。特に何かを欲しいと伝えた記憶もなく、仮に無意識に何かを探していたとしたら、それをサッと横から渡してくるような男からのそれに、意図がわからず、ただありのままに思った事を返答する。
困ったように苦笑する相方を見て、何かあったのか?と三徹目で鈍る思考を巡らせた。更に今回は、少し厄介な先方のオーダーで苦戦した後だ。その辺りは、一緒に振り回されている仁科もわかっているだろう。せめて、いつも通りに頭が働く時に聞いてほしい。
「だろうね……そう言うと思った」
「なら、どうして」
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