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    haya_stoc332

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    haya_stoc332

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    遅刻した笹塚BDです。

    ※少し未来のお話です。なので、仁科の真骨頂云々に関して、笹塚は攻略しかけています。多分。

    #笹仁
    sasahito
    ##笹仁

    よくある話「欲しい物?」
    「そう、何かない?」
    「別に。欲しかったら自分で手に入れる」

    音源の納品を済ませてPCの電源を落とした直後、唐突に投げかけられる仁科の問いかけ。特に何かを欲しいと伝えた記憶もなく、仮に無意識に何かを探していたとしたら、それをサッと横から渡してくるような男からのそれに、意図がわからず、ただありのままに思った事を返答する。
    困ったように苦笑する相方を見て、何かあったのか?と三徹目で鈍る思考を巡らせた。更に今回は、少し厄介な先方のオーダーで苦戦した後だ。その辺りは、一緒に振り回されている仁科もわかっているだろう。せめて、いつも通りに頭が働く時に聞いてほしい。

    「だろうね……そう言うと思った」
    「なら、どうして」
    「いや、お前……本当にわかってない?」
    「何を」

    やれやれ……と言ったふうに、仁科は手にしたスマホの画面を見せてくる。画面に表示された数字は4/29……の23時45分。

    「はい、明日は何の日でしょう?」
    「あ……」

    指摘されて思い出す……誕生日か。出会ってから早数年。最初の頃ならいざ知らず、スターライトオーケストラに所属してから律儀に全員分開かれる誕生パーティを経て、得意の世話焼き気質が刺激されたのか……はたまた、尽くしたくなるタイプなのか……毎年、ご丁寧にプレゼントが用意されていた。

    「お前も同じ……っていうか、お前の方が苦戦してると思うけど、連日のリテイクとか打ち合わせで仕事以外のスケジュール管理出来てなくて、プレゼント買いそびれたんだよ」
    「お前がスケジュール管理出来てないなんて珍しいな」
    「笹塚、話逸らすなよ……って言っても仕方ないか。俺も徹夜までいかなくても忙しくて睡眠不足だったの」
    「……そうか」

    確かに、何度提出しても没とリテイクの繰り返しだった、厄介な仕事は仁科の睡眠時間も奪っていた様子だ。その証拠に、昨日もアジトのソファーで眠る仁科に音が欲しいと起こした時に、いつも以上に文句を言われた――ような気がするのを覚えてる。

    「そういうこと。で、今年はプレゼントを持ってないんだけど……お前は何が欲しい?」
    「お前の音」
    「俺の音?いつも渡してるだろ。そんなの、誕生日じゃなくても、とっくの昔にお前の……」
    「違うさ」
    「?」

    頭に疑問符を浮かべる仁科に、これは伝わっていないなとため息をついて言葉にする。

    「俺を思い浮かべながら弾いたお前の音が欲しい」

    仁科がほんの一瞬、思考が追いつかないという顔をしたのが珍しくて、こんな顔をさせられるのは自分だけだと思わず口元が緩む。

    「……お前の欲しい音にならないかも」
    「お前の音である以上、そんな事にはならないだろうな」
    「俺だって寝不足なんだから、余計なこと考えたら、聴くに耐えない音になるかもよ」
    「逆に興味ある。どんな音でもお前から生まれたなら、全部聴きたい」

    ユニットを組んでからこちら、隠し通されてなかなか自在に引き出せなかった《音》は、至上の物だった。ならば、仁科の音が全て欲しくなるのは道理だ。
    その瞳を見ながら、もう一度、珍しく頭の回転が鈍りに鈍っているであろう相方に伝える。

    「なあ、仁科……今年の誕生日は、お前が《特別と思える音》が欲しい。駄目か?」

    たっぷりと時間をあけて、時計が午前0時を告げた頃、観念した仁科は頷いた。
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    related works

    紫垣🐠

    DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.2 展示作品

    スタオケ加入後の二人のお話。ナチュラルに付き合ってます。
    ※コンミス出ます
    後日談は近日中に公開予定です。
    『GRADATIONS』
    #0「Colorless Color」から続いています。
    「like a FISH in water」に続きます。
    Colored Notes#1

    「コンミスが俺たち二人に用事ってなんだろうな」
     眠たげな眼で隣をのそりのそりと歩く笹塚に声を掛けると、眼鏡の奥が唐突に思い出したように、剣呑な目つきになった。
    「……むしろ俺はさっきの全体錬の時のカデンツァに対して、朝日奈に言いたいことたくさんあるけど」
    「あのな。それは一ノ瀬先生からも、まずパート練に持ち返るって話になったただろ。蒸し返さずに今はコンミスの話をよく聴けよ?」
    「善処はする」
     スターライトオーケストラに参加することを決めて、笹塚と共に札幌と横浜を行き来するようになって数か月がたち、短期間での長距離移動にもようやく慣れて、週末は横浜で過ごすことが当たり前になってきていた。土曜日の今日も朝から横浜入りをした後、木蓮館での合奏練習を終えて、菩提樹寮へと向かう所だ。首都圏での拠点がスタオケ加入と同時に自動的に確保されたのは、笹塚と俺にとっても有難い話だった。
    11556

    紫垣🐠

    DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.2 展示作品
    本編前(ねつ造)
    笹塚くんが仁科くんの音に初めて出会った日の話

    『GRADATIONS』(5編連作)
    #1『Colored Notes』に続きます…!
    Colorless Color #0

     無色透明。透明な水のようなヴァイオリンの音色だと思った。色のない、とても澄んだ。滔々と流れていく水のような音色。
     まるで、アクアリウムの水槽を満たす水のようだ。色とりどりのライトで照らせば、無限に思い通りに色彩も雰囲気も変えられる水槽の水。
     透明な音。癖のない音。無限に表情を変えられる音。
     個性がないというのとは全く違う。高い技術の奏者にありがちな、変に主張めいた音色の出し方やこれみよがしな自我や癖がない。どこまでもクリアだった。
     音楽以外で例えるのならば、思い通りの色を思い通りに乗せられる上質なキャンバスだ。乗せたい色を損なわない。
     これが、自分がずっと求めていた音だと思った。

    **

     明け方まで一睡もせず集中して作曲を続けていたから、授業に出席はしたものの、朝からずっとやる気が起きずに、ほぼ眠りの世界にいた。それでもいったん学校へ出てきてしまった以上、睡眠のためだけに家へ戻るのも面倒くさくて、午後は校内の人目につかない場所へ移動しようと思いついた。
    2847

    紫垣🐠

    DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.3 展示作品

    スタオケ加入後の二人のお話。ナチュラルに付き合ってます。
    ※R18はつけていないですが、行為が匂わされる表現があったり、甘めだったりするので苦手な方はご注意ください。

    『GRADATIONS』>#0「Colorless Color」#1,#2「Colored Notes」#3「like a FISH in water」から続いている連作です。
    One Identity#4

     素肌の背の下に敷かれた固いシーツに大きく皺が寄った。
     菩提樹寮の笹塚の部屋に備え付けられた簡素なベッドに両手首を押さえつけられ、半身で乗りかかられるような形で、もうどの位の時間が経ったのだろう。西日が射しこみ、夕暮れの赤い光が眩しく室内を満たす中、呼吸まで浚うような長いキスをずっと施され続けていた。
     覆いかぶさった熱。身長は俺と同じはずなのに、がっちりとした恵まれた体格を存分に生かし、その腕の中にいともたやすく全身を閉じ込められてしまう。
     二つの唇と舌が絡み合う湿った音と、せわしない息遣いだけが静まり返った部屋に響く。いくら人の気配が多くて騒がしい寮内とはいえ、声を出すことも、物音を立てることにも細心の注意を払わなければならないのに、ひとたびこうなってしまえばどちらも止めることができなくて、そのまま行為に及んでしまったことは、これまでにも何度かあった。
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