酔っ払いは難しい。「ん~!うまぁ…」
『口に合ったなら良かった』
「うん!すごく美味しいよこれ、何杯でも飲めちゃいそう」
暁人は俺が仕事帰りに買ってきた果実酒を上機嫌で呷る。大層気に入ったようだ。
『あんま飲み過ぎるなよ』
大丈夫だとは思うが、度数が少し高め故、注意を促し、自分は風呂へ向かった。心身の疲れを癒すため、いつもよりゆっくりと湯に浸かる。風呂から上がり簡単に髪を乾かす。この間およそ45分。暁人の元へ行く。
「あ~!けぇけぇ、遅いよぉ…」
(おーおー、出来上がってんな…。)
今夜は酔った暁人に振り回されるのだろうと、思わず溜め息をつく。
『暁人くんよぉ、俺言ったよな?あんま飲み過ぎるなって、』
「そうだっけぇ?わかんない。覚えてないなぁ…」
(こんな風に酔うのは久々だな、)
普段節度を守って酒を飲む暁人がこのタイプの酔い方をするのは珍しい。
(そんな旨いのか、それ…。)
呆れながら暁人の隣へ座る。
「けぇけぇ新しいシャンプー使ったんだぁ?」
『なんだ?ダメだったか?』
「だめじゃないよ。ふふっいい匂いだね…」
言いながら膝に跨がってくる。その目元は酔っているためかほんのりと赤く、瞳も熱を帯びている。
『暁人一、』
自分も暁人に応えるように太ももから腰へ手を這わせる。一と、グッと手首を強い力で掴まれた。何事かと暁人を見れば先程とは全く違う、冷たい瞳に見下ろされていた。
『…暁人?』
「今そんな気分じゃなから、触らないで。」
別人のような声色に上がっていた熱が一気に引いていく。
『一ッ悪かった、』
そう言って手を降参とばかりに上へ挙げる。すると暁人は目を細め、甘えた様子で背中に腕を回し、抱き着いてきた。
(くそっ、これだから酔っ払いは嫌なんだ…!)
暁人に悟られないよう、一人で悪態をついた。