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    shirokonatake

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    shirokonatake

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    祓屋KK × 夜叉暁人君のK暁です。
    短いです。直接的な表現はありませんが軽く色物描写があります。

    無題子供の頃、父親から聞かされた話。北の山には恐ろしい鬼が居る。それは老若男女問わず拐かし喰らってしまうという情け容赦の無い鬼だと……。
    あの人はいろいろな話を聞かせてくれたが、この話をする時はいつもどこか懐かしい昔話をする様な、遠くにいる思い人を恋しがる様な、そんな口振りだった。

    と、家の戸に貼られた紙を見て思い出した。随分と昔のことだが、幼いながら父親に母以外の女の影を見出だしたのを覚えている。紙には殴り書きで一文、

    北の山の鬼を殺せ

    と書かれ、隅には都の役人が使う印が押されていた。この類いの依頼はまず断ることなど出来ない。もし断れば胡散臭がられ、気味悪がられる祓い屋の立場がさらに危うくなる。
    今夜支度を整えて明日の早朝に家を出ようと決めた。

    翌朝、夜明けと共に目を覚まし、昨晩揃えた荷物を持って山へ向かった。まだ辺りは薄暗く人とすれ違うこともない。自分の足音に耳を澄ませひたすら目的の場所を目指す。
    しかし、目的地への地図はなく、鬼が何処に居るのかもわからない。ただ勘に従い山の奥へ奥へと進むのみ。
    気がつけば正午を過ぎ、夕時になっていた。端から一日で済む仕事だとは思っていなかったが、これから数日間はひたすら歩き続ける生活を送らなくてはならないと思うと気が遠くなる。何処か寝るのに都合が良い場所は無いかと周りを見回す。

    「あれは……」

    少し離れた場所に小さく灯りが見える。
    近付くと塀に囲まれた屋敷が現れた。回りの竹藪は綺麗に整えられ、門の隙間から覗く屋敷も管理がよく行き届いているのがわかる。暫く中の様子を伺い、門を叩いた。

    「どちら様?」

    声は門の中からではなく、自分の背後から返ってきた。予想外のことに驚き、一瞬身体が強張る。ゆっくりと後ろを振り向くと薄桃色の菊が描かれた提灯を提げて一人の男が立っていた。月の光と提灯の灯に照され、その容貌が露になる。

    「北の山に住み着く鬼ってやつはお前か……」

    艶のある黒髪に端整な顔立ち。品の良い着物を着こなし静かな笑みを浮かべて立つ様は上臈も妬むのではないかという具合である。が、若い黒髪の中には確かに二本の角が生えている。小ぶりではあるがそれは人ならざるものの確かな証明だった。

    「昔此処へ来た男も同じ様なことを言っていたよ。……丁度あんたが着けてるのとよく似た数珠を着けた男だ。」
    「……そいつを喰ったか?」
    「さあ?どうだったかな……」

    鬼は変わらず笑みを浮かべている。刀刃に手を掛け、いつでもそれを引ける状態であるにも関わらず相手からは殺意も警戒心すらも感じない。気を張っていた分、鬼の容姿や態度に拍子抜けしてしまった。手を腰の物から離し、鬼と向き合う。

    「外は寒いでしょ?うちに泊まっていけばいい。」

    殺すつもりだった相手の家に泊まるなんて馬鹿げているとわかっていたが、もうどうでもよかった。刀を振るう気などとっくに失せている。

    屋敷を案内され風呂も済ませてしまった。部屋に戻ると夜食が用意されている。毒にあてられるかと考えたがそれも無いらしい。まあ、明日の朝に何かしらの症状があらわれるかもしれないが……。
    食事を終えると部屋の襖が開けられた。

    「しっかり食べてくれたみたいで嬉しいよ。」
    「ああ、なかなか旨かった。……何から何まで世話になっちまって悪いな。」
    「いや、気にしないでいいよ。お礼は今からして貰うから、」
    「へぇ、俺は何をすればいいんだ?……ここでお前に喰われればいいのか?」

    鬼は小さく笑うとゆっくりと首を横に振った。

    「そんなんじゃない。ただ僕の晩酌に付き合って欲しいんだ。……いつも一人だからたまには誰かと一緒に杯を交わしたくてね。……それくらいはしてくれるだろ?」

    鬼とはいえその見た目故、全く嫌な気はしない。寧ろ自分はそれを期待していたのではないかと思う。

    「有難い誘いだな。……いくらでも付き合ってやるさ。」
    「よかった。先に僕の部屋に行って待っていて。」


    暫くすると鬼が酒器を持って部屋に入ってきた。持ち込まれた酒は仄かに甘く口当たりの良い上質なものだった。酒が回り、心地よい気分になる。ただ杯を重ねるのも悪くないが全く会話が無いのはつまらない。そこで、口を開いてはたと気づく。

    「なあ、お前の名前をまだ聞いてないんだが……」

    鬼は少し驚いた様に月を眺める瞳を自分へ向け、そして軽く微笑んだ。

    「暁人」
    「あきと?」
    「そう。僕の名前、やっと聞いてくれた……」

    さらに鬼、暁人は顔を綻ばせた。その様子に狼狽えてしまう。何故だか急に喉に渇きを感じた気がした。

    「そうか、暁人か、いい名前だ。」
    「あんたの名前は?」
    「……KKだ。」
    「随分と変わった名前だね……西洋かぶれ?」
    「うるせぇ、言うな。」
    「ごめんごめん。もう二度と言わないから。……面白い人だね、KKは、」

    見ず知らずの自分を家に泊めたり、食事に酒まで勧めてきたり、今は月を見ながら会話を楽しんでいる。この状況に暁人へ対する疑念を持たずにはいられない。

    「暁人、お前は本当に鬼なのか……?」
    「何でそこを疑うのさ、見れば分かるだろ?」
    「……人を喰ってない、」
    「……そんなこと無いよ。信じられないなら確かめてみる?」
    「確かめるって、どうするんだ?」
    「こうするんだよ、」

    話に気を取られていた。酒が回っていたとはいえ、こんなにもあっさりと唇を吸われるとは思っていなかった。突然のことに狼狽えていると熱いものが入り込んでくる。大した抵抗も出来ずに、気がつけば床に寝かされていた。

    「……これでどう確かめられる?」
    「明日になればわかる。……KKは何も知らないんだね。父親から聞いてないのか、」
    「……夜叉だったんだな。……親父を喰ったか?」
    「いや、あんたの父親を喰ったのは別の奴だよ。」
    「……結局俺は喰われる、」
    「それは見方によるんじゃない?……口を奪ったのは僕だけど、今からは僕が喰われている様に見えるかもしれない。まあ、あんたが逆がいいって言うなら別だけど……僕はどちらでもいいからね。」
    「お前のような奴に喰われるのは御免だ、」

    言いながら妖艶な微笑みを浮かべ自分を見下ろす暁人を組み敷く。喉の渇きが一層強く感じられる。自分の下で真っ直ぐに此方を見つめる秀麗な夜叉を、欲するままに掻き抱いた。
    草木の揺れる音も聞こえない程静かな夜だった。


    顔に当たる冷気で目が覚めた。
    昨晩月を眺めた窓辺に薄絹を纏った暁人が見える。身体を起こすと節々に鈍い痛みがはしった。

    「布団を用意しておくべきだったかな、」
    「……お前は平気なのか?」
    「僕は人間と違って丈夫だから。」

    冷えた手が頬に触れ、眠気が引いていく。その手が頬から頭に移り、何かを撫でた。

    「ほら、これで僕が鬼だってわかっただろ?」

    暁人の手が触れているところに自分の手をもっていくと、先の尖ったものがある。

    「……親父には無かった。」
    「それは彼が自分の仕事を最後までやりきったからだろうね、」

    暫くの思考の後、再び暁人へ手を伸ばす。

    「暁人、身体が冷えてしょうがねぇんだが……どうだ?」
    「身体を温めるなら湯浴みをしよう。KKのしたいことはその後で、次はちゃんと布団を敷いてね、」

    言うと暁人はすぐに立ち上がり部屋を出ていってしまった。全くとんでもない仕事を受けてしまったと、一人になった部屋で苦笑する。父が昔聞かせた話を再び思い出さずにはいられなかった。
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