心が叫んでる咄嗟に腕を掴んでしまった。
藍忘機は己の思考が働く前に身体が先に動いたことに若干の衝撃を覚える。
このようなはずではなかった。
いくら相手の素性が分からないとは言え、突然目先の人物の腕を掴むなどという非礼は本来彼が行うことではない。
…それでも、彼の身体は目の前の男の腕を咄嗟に掴んでいた。
『離さない』
心の奥底でそう思いながら、掴んだ手に更に力を加える。
相手は痛がった素振りは見せなかったが、藍忘機の拘束により竹笛を吹きにくそうに顔顰める。
だが藍忘機は見逃さなかった。己がこの男の腕を掴んだ時、男の両の瞳が驚愕に揺れていたことを。
そして、藍忘機には核心があった。
彼が今奏でていた曲…これは思い出の中のあの曲だと言うことを。
『やっと、…やっと見つけた。ーー魏嬰』
この十数年、心が千切れそうになりながらも探していた相手ーー魏無羨がまさに目の前にいる。
それだけで藍忘機の心の中には燻っていた炎が勢いを増して燃え広がった。