似てない僕たちは 最初からこんなことになるくらいなら、奴に世話を焼くんじゃなかった。床に伏せて思案に暮れたところで今更意味はない。最初から仕組まれていたことなのかどうかは定かではないが、たしかに奴には覚悟があったのだろう。
俺と奴が初めて出逢ったのは、忍者の里で定期的に行われていた班分けの試験の後だった。夕陽を眩しいくらいに照り返すブロンドの髪の、ちょうど同い年だった子供。五班に振り分けられていることが多かった奴は、所謂落ちこぼれだろう。というのも、班分けで一番成績の悪かった者が五班に行くからである。落ちこぼれのふりをして大人達の目を欺き、わざと五班に行くことで、己により厳しい修行を課して鍛え抜いてきた俺は、幾分かの余裕が心と身体にあったので、いつも見かける例の子供(と言ってもその時の俺も子供だったが)のことをいつも憐れに思っていた。きっと弱いからここから出られないんだ。一つも疑う余地はなく、まだ純然たる良心の塊だった俺は、臆することなく憐れなブロンド髪に話しかけた。ブロンド髪は自分のことを「閃光のフラッシュ」と名乗った。よくよく向き合って見てみれば、奴と俺はどこも似ていなかった。髪は光を反射して輪郭すら朧げで、俺の夜を吸い込んだような黒髪とは正反対に思えた。しかも挨拶や冗談を言っても、奴の表情は眉根一つ変わらなかった。俺とは違いユーモアの欠片もないような奴だ。ただ、初めて見た奴の瞳には光が宿っていた。強く突き刺すような光。名は体を表すとは正しくこのことなのだろう。かと言って嫌いじゃない。寧ろ他の目の死んだ奴らよりもずっと好ましく思えた。
あの時から、俺はフラッシュに構うようになっていた。その都度奴と俺の共通点を探すようにもなっていた。背格好や戦い方、「閃光のフラッシュ」と「音速のソニック」という名前の響き、武器の研磨の仕方、寝相、果てには川魚の食べ方だとか、本当にどうでもいいようなことまで「似ている」とこじつけ始めるところまで行ってしまった。あの強い光を灯す瞳を見てから、フラッシュのことを唯一の同類だと思っていたからだ。思っていたかった。信じてみたかったと言ったほうが正しいかもしれない。俺は、孤児を掻き集め、退路を封じ、徹底的に個人の尊厳を踏みにじるこの里のやり方が気に喰わなかった。暗殺に関することだけを教えて、なんの罪もない子供達を、あっという間に商品に変えてしまうこの里を変えてやりたかった。この里を、自分たちのように自由を奪われた孤児たちが強く、自分の思うまま、どこまでも自由に生きていけるようにするための施設にしてやろうと考えていた。だが、一人では絶対に叶えられない野望だ。だからこそ、俺は俺と「似た」奴を探していた。俺と似た考えを持つ者ならば、俺の夢を理解してもらえると思っていた。夢を叶えるためには、フラッシュの中にある光は、優しくて暖かく、尚且つどんな傷にも折れない強さを持った光である必要があった。つまり、フラッシュが俺と同類である必要があったのだ。
でも違った。奴は弱くはなかった。奴の光は「正義」と呼ばれるもので、本質はどこまでも身勝手で暴力的な決めつけ。卒業を間近にして、同期の奴らを皆殺しにし、俺に毒薬を盛っても、フラッシュは「正しかった」。里の外の人間はこぞって奴を認めた。奴らからしたら俺たちは「悪」と呼ばれるものらしい。ふざけるな。俺は「正義」を恨み、野望を手放した。誰にも頼らず、己の強さだけをあてにして生きていこう。床に伏せながら、俺は心の中で何度も反芻していた。
「ソニック。」あれから十年が過ぎ、随分と低くなった声でフラッシュが呼ぶ。「なんだよ。」と不機嫌な態度を露わにしたところで、真っ直ぐな光を灯した瞳は逸らされる事はない。嫌いだ。何もかも。「再び逢えたことを嬉しく思う。」だのと曰うこいつが。ブロンド髪はもちろん、体格や変声した声、生き様や立場も何もかも変わってしまった。こんな奴と似ているなんて考えていた過去の俺を殴り倒したいぐらいだ。「何をそんなに拗ねているんだ。」フラッシュがくつくつと喉奥で笑う。やっぱり似てない。笑い方だって。似てないことに妙に大きな安心感を覚えながら、自分の気持ちを押し殺すことなく、吐き捨てるかのように言った。
「貴様なんか嫌いだ。」