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    an0330ATWR

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    とうひゅ小説
    🐺が🍭から逃走する話
    前半まで書き終えたので進捗としてあげとく

    タイトル未定「デートしてほしい」

    いつも通り橙真と一緒に過ごしていると急にそう言われた。デートってなんで俺と?これってもしかして…来たるデートの下見会?普段からまつりちゃんにもっとアピールしないのかと聞きまくっていたし。もちろん協力は惜しまない、それに橙真とお出かけできるのは嬉しい。

    「いいよ!楽しみにしてるね」

    当日は橙真がどこか連れて行ってくれるらしい。より良いデートプランを立てられるようにしなきゃ。女性用のファッション誌とかにいい情報あるかな?

    「とーうまっ!お待たせ♡」

    家の前で待っていた背中に勢いよく飛びつく。今日の橙真はいつもよりオシャレしていてカッコイイ。スキニーのジーンズも黒いジャケットもよく似合う。

    「今日はどこ行くの?」
    「近くに大きいモールがあるから、そこ行く」
    「あそこかぁ、いいね」

    買い物やランチはもちろん、身体を動かして遊ぶ施設もあるらしい。一人で行ってもつまらないし、こっちのお金もさほど持っていないから一度も入ったことがなかった。そういえば前にその話をした気がするけど、覚えててくれたんだ。

    でもこの施設、前に買い物の付き添いでまつりちゃんと行ってなかった?デート先にしては馴染みの場所すぎるんじゃ…いやでも、初デートはそのくらいの場所がいいとも聞いたことがある。

    「ひゅーい、どこから行きたい?」
    「そうだなぁ…スケボーパークが気になるな」

    魔法界ではホウキが主流だから、スケボーのような小さな乗り物は見たことがない。あんな板一枚で魔法もなしにジャンプできるなんて不思議だ。

    「俺も子供の頃しか乗ったことないし、懐かしいな」

    よさそうな青いスケボーを選び、何度か練習すると上手く乗れるようになった。本格的な人みたいに空中ジャンプ!はムリだが、平面で回転するのもかなり楽しい。橙真が 「ちょっと乗っただけでそこまでできるのか」ってぼそっと呟いて悔しがっているのが可愛い。夢中で乗っているとあっという間に時間が過ぎてしまった。

    「あー、楽しかった!お腹空いたね」
    「向こうにレストラン街あるから色々見てみるか」
    「うん!」

    待って、普通に遊んでたけどこれデートの下見だった。まつりちゃんはスケボに乗らないよ、何してるんだ俺は。これからランチという大事な場面だし、彼女の好きそうな可愛いカフェを探そう。事前に店内やメニューを把握しておくことは大事だよね。

    レストラン街をうろうろと見渡すと、ふとある看板が目に入る。『超濃厚!とんこつ』と書かれているラーメン屋だ。へぇ、これ美味しそうだなぁ。

    「あ、そこのラーメン美味しいぞ。食べてみるか?」
    「えっ、えーっと……うん!」

    ちょっと見てただけなのになんでバレたの。っていうか、デートでラーメン屋ってありなの?いつもかわいい飴に囲まれているから趣向変えていくのかな。

    思うところはあるが、俺は食べたいし、橙真のおすすめなのに行かないわけがない。下見としての責任より己の欲望を優先した。無論、ラーメンはすごく美味しかった。
    うまいだろ?ってちょっとドヤ顔してる橙真にキュンとしてしまう。こんな顔知ってるのは俺だけだったらいいなぁ。

    「結構遊んだな、疲れてないか?」
    「うん、大丈夫だよ~」

    全然大丈夫じゃないよ!普通に死ぬほど遊び倒しちゃったじゃん。えっ午後からしたことってボウリング、卓球、ゲーセンでゾンビ倒す、お腹すいてハンバーガーセットで食べるって甘い初デートとは程遠いよ⁉ただただ俺が楽しかっただけじゃん。

    ちなみにボウリングは僅差で負け、卓球はぼろ負けした。悔しい。あの時の橙真、絶妙に腹立つ笑顔をしてて忘れられない。次は魔法界の遊びに付き合わせよう。

    まつりちゃんならこういのも楽しむと思うけど、すぐそこに雑貨店やスイーツ屋さんがあったからそっちに行くべきだった。今日のことは何も参考にならないだろう。

    ふと、橙真のスマホからピコンと通知音が響く。内容を確認した後、俺の方に画面を見せてきた。SNSの通知音だったらしい。

    「まつりがプリマジやるって」
    「ほんとだ、観に行こっか、マナマナ!」

    風に包まれて、大きなハートの看板が視界に入る。いつも使う観覧エリアに行くと、おなじみのプリマジスタ達が揃っていたので並んで観ることにした。
    ワッチャの溢れる二人のステージは何度みても気持ちがいい。それから……チラッと隣を覗き、橙真を見つめた。

    「やっぱり、二人のステージは最高だね」
    「ああ、本当に」

    まつりちゃんを見つめる橙真の表情はもはや愛なのか、本当に綺麗だ。なんだか妬けちゃうな、橙真のパートナーは俺なのに。なんて馬鹿なこと考えるのはやめよう。余計な感情は表に出さない方がいいからね。

    プリマジを見終わって、いつものベンチに腰を掛けていた。てっきり他の子と一緒にまつりちゃんに会いに行くと思っていたから、少しびっくりした。

    「今日すっごい楽しかったよ、ありがとう」
    「俺も楽しかった」
    「ほんと?でも、全然役に立てなかったよね、ごめんね」
    「なんの話?」
    「今日はまつりちゃんとのデートに向けて下見だったのに」
    「は?」
    「橙真と出かけるの初めてだから嬉しくて、ついはしゃいじゃって…」
    「……ひゅーい」

    急にトーンの下がった声で名前を呼ばれて身体がびくっとなってしまった。え、どうしたんだろう?

    「俺は、ひゅーいとデートしてるつもりだった」
    「えっ、そうだったの⁉」

    ふと、みゃむとの会話を思い出した。チュッピは特別仲の良い友人と二人で遊ぶことをデートというって。まつりとデートに行くんだ!って喜んでいた。つまり橙真も俺のことを特別な友人だと思って…?うわぁ、嬉しいなぁ!

    「ふふ、俺けっこう橙真と仲良くなれてるんだね」
    「仲良くって…はぁ」

    橙真が回りを見渡した後にこちらを向いて、急にガシッと俺の手を握って、じっと見つめてくる。何か話でもあるのかな。

    「ひゅーいが好きだ」
    「…!俺も、橙真が大好きだよ!」
    「付き合ってくださいって意味なんだけど」
    「………………へ?」

    ツキアッテクダサイ?誰が誰と…俺と橙真が付き合うの?好きって、待って?

    「何…言ってるの、まつりちゃんは?」
    「…まつりが大事なのは変わらない。けど、ひゅーいが横にいてくれるのがいいなって、自分の気持ちを整理できたのは、本当に最近の話だけど」
    「そんな、だって橙真はずっとまつりちゃんが…だから…」

    真剣な表情を見て、これが本気の告白なのだと悟る。けど俺が好きってどういうこと?だって俺はずっと橙真のことを見てきた。まつりちゃんを見ている橙真を。

    だから分からない、あの優しい表情も、笑顔も、声も、俺は向けられたことないよ。俺が知ってるのは、もっと砕けた顔ばかりだ。これからそれが変わっていくの?

    嬉しい、嬉しいのに喜べない。俺が彼女より好かれることがあっていいの?あまりにも今までの環境に慣れていて、混乱してしまう。

    「違う…俺を好きな橙真なんて、俺はわからない!」

    勢いよく魔法を使ってその場から逃げてしまった。適当に落ちた魔法界の森で、体力もないのに無意味に走り出す。弾けそうなほど高鳴った心臓を抑えながら。
    息切れを起こして、その場にへなへなと座り込んだ。頭は橙真のことでいっぱいだ。何度も何度も「好きだ」という言葉を思い出す。

    今日のデートは、本当にデートだったんだ。いつもよりオシャレな格好してたのも、俺が興味もったご飯や遊びに付き合ってくれたのも、全部俺のために?

    「……………橙真の顔、直視できないよ…」

    そう、俺は橙真から好意を寄せられることに全く耐性がない。端から終わってた恋心に今さらどうやって向き合えばいいのか。きっとこのまま橙真に会っても「ァ…ア…」って変な反応しかできない自信がある。
    冷静になる時間が欲しい。大きすぎる衝撃と現実を受け止めて理解する時間が必要だ。

    「でも、大事な時に逃げたし怒ってるかも…どうしよう」

    楽しかった記憶と、衝撃の告白、逃げて傷つけてしまった罪悪感、それ以上の困惑でぐちゃぐちゃになった頭を冷やすため、俺はフラフラと師匠の家、もとい俺の寝床に向かった。
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