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    わたり

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    ハッピー572ウィークエンド企画、参加作品です!
    嬉し恥ずかし初デートは何度妄想しても楽しいですね!

    ##五夏

    初めてのデート 呪術界に広く名を知らしめている最強の二人とはいえ、所詮十七歳の子どもである。どんな凄惨な現場や戦闘を経ていようとも、人生の関門の前に立てばまだまだ生まれたてのひよこに近い。
     おかげで親友から恋人へとシフトするのにも随分な苦労と時間がかかった。とくにもう一人の同期である家入硝子にはそりゃあもう、さりげなくも多大な協力を得たとも。一生分の酒を奢っても足りないくらい。……は言い過ぎか。
     とにもかくにも、もしかしたら親友という関係性さえ破棄される危機のあった大告白ののち、五条悟と夏油傑はめでたくお付き合いを始めたのだが、まさか呪術界に大きく知らしめるわけにはうないわけで。今日も今日とて最強ご指名の任務が容赦なく舞い込んでくる。
     補助監督の送迎付きでこなす任務を、五条は決してデートだとは思いたくなかった。初めてのデートは、もっとこう、二人でゆいのやいのと計画を立てて、心満たされる充実した一日であってほしいのだ。
     頭のてっぺんからお尻まで呪霊狩りでみっちり詰まっているという意味では充実している、といえるかもしれない。けれど共に任務に明け暮れる一日を、逢瀬とは言わないだろう。だってせっかく触れ合う背中合わせなんてちらともときめきやしない。呪霊の返り血ではなく祝福を浴びたいのに。
     なんてぐちぐちと鬱憤が溜まってしまうほどには五条は存外ロマンチストであった。なんてったって、五条の檻から飛び出して初めての想い人だ。初めての親友であり、恋人。初めてのオンパレード。浮かれない方がおかしい。
     さてそんなわけで、二人揃っての休暇をもぎ取るために無理をしているところもあった。夏油もまた、五条の意図するところがわかったのか何も言わず迅速に息を合わせてくれた。阿吽の呼吸にこれまた気分が高揚した。
     引く手数多の人気者とはいえ、最強の称号を恣にする二人にかかれば、所定時間よりも大幅に早く事態が収束することもままある。今日は特に調子が良かったおかげで、巻きに巻いて夕飯の前には寮へ帰ることができた。
     思えば、硝子が突発的に「飲むぞ!」と言ってくれたのも気遣いだったのかもしれない。とはいえ彼女は大なり小なり毎日呑んでいるそうなのでなにか適当な理由が欲しかっただけかもしれない。特にこの頃の硝子はキューピッドとしての役目を終えどことなく得意気にしていたから。
     私を崇め讃えろ、とふんぞりかえる硝子に、男たちはただただ平伏した。「カートンとつまみを買ってこい」と追い出す尊大な態度も今ならば許せてしまう。相手は我らが硝子様だ。


     だから、耳が痛いくらいの静寂に放り出されてようやく五条は事態を理解したのだ。
     二人きりだ。
     と。
     掴めそうなほどすぐそこに迫る冬の星空の下、並んで歩く二人以外は滅んだのだと錯覚してしまいそうな。
     郊外ゆえに、街灯や街の灯りが極端に少ない。尚更、自分たち以外の気配を感じられなかった。
     冷えた手の甲同士が触れたのは、どちらからであっただろうか。ぶつかっても、どちらも一言も口にはしなかった。S極とN極が吸い付きあうように、当たり前の現象であるとさえ思った。
     くっきりと鮮やかに過ぎる夜の視界に、白い息が薄い帳を張ってくれる。ありがたかった。まともに顔を見れる気がしない。
     乾いた小指が引っ掻いてくる。反射的に同じものを差し出せば、蝋細工のように冷え切ったそれが絡みついてきた。逃す気のない指切りだ。
     小指程度の肌面積でも、触れ合えばぬるく濡れる。手汗が邪魔をしようと、二本の指は必死に結び合った。天にも昇る気持ちのままに飛んでいかないよう、相手を繋ぎ止めて。
     同じ歩調、交互に吐き出される白い煙。寒気で目が痛い。けれど足裏の硬い石畳の感触や鼻先の冷たさ、自分以外の呼吸音をも何一つ見逃したくなくて。五条はたとえ涙が出そうになっても第六感まで全てを研ぎすまし続けた。愛用のサングラスはとうにポケットの中だ。
     山を下る。黒い木々によって切り取られていた眩しい星たちが歩をすすめるごとに開けてくる。二人だけの世界であったならいいのに、なんて贅沢は言わない。さあ、この世を遍く森羅万象よ、祓われるのを待つ呪いたちよ。今ばかりは、そのまま黙って見守り続けていておくれ。俺たちは、初めてのデートに忙しい。
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