風花と揚げ雑煮 客を迎える時間でもなく人気のない店内は、余計な雑音がない分大根を擦り下ろすよく響く。
さり、さり、さり、と。
こんもりと小山のように盛られた大根おろしではあるが、いつも残るようなことは無い。
「こんなもんか」
指先でようやくつまめる程に小さくなった大根を、ひょいと口に放り込む。さくさくと歯触りがよく、ぴりりとした辛味がありながらも甘さもある。今年から畑を借りて試験的に野菜作りを始めてみたが、やはり鮮度がいいものは旨味が違う。作れる量は限られてしまうが、続けていく価値はあるだろう。
少しでも、美味しく食べてもらいたい。
料理人なら誰しもが願うことであるが、俺にはほんの少しの下心もある。この小さな店にわざわざ足を運んでくれる客は勿論だが、ただの客ではない、たった一人の大切な人に誰より美味い料理を振る舞いたいのだ。
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