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    kaji_tate

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    書きかけの抜粋。声優尾×舞台俳優月

    「まあ、いいんですけどね、俺は」
    そう言いながら猪口を煽って、手酌で日本酒を注ぎ足す尾形の顔には『面白くない』と書かれた貼り紙の幻が見えるようだ。
    「久々に一緒に酒を飲むんだ、そんな顔をするな」
    「そうでしたかなぁ」
    「あのな……お前がうちの劇団を出ていって五年だぞ。連絡の一つも寄越さん薄情者が」
    鶴見さんが主宰を務める『劇団・第七師団』の元看板俳優が、この尾形百之助だ。本公演の千秋楽、カーテンコールで突然『今日をもって脱退します』と宣言した時は観客席のファンは阿鼻叫喚となり、何も聞かされていなかった俺たち共演者も茫然自失となったのを今も鮮明に思い出せる。ただ一人鶴見さんだけが『本当に猫のような男だ』と大笑いし、咎めることも引き止めることもなかった。
    「そんなになりますか」
    「ああそうだ。どこにいったのかと思えば、声優に転身しているし……」
    それから二年ほど過ぎた頃だろうか、休日に映画館に行った時のことだ。普段洋画は字幕版しか見ないのだが、時間が合わず吹き替えを見ることになった。映画が始まって程なく、忘れようもない声が聞こえてきた。いやまさか、きっと勘違いだ。一度湧いた疑念ばかりが頭を巡り、作品の内容なんてこれっぽっちも入ってこない。時間と金を無駄にしたなとため息をこらえてエンドロールを眺めていたが、最後に映し出された吹き替えキャストのクレジットを見てついにため息が溢れた。
    「芝居が嫌いになった訳では無いですからね。少しばかり、演じる場所が変わったに過ぎません」
    そう簡単に言うが、やはり舞台俳優と声優では、今までのやり方では通じないところも多いだろう。現に、声優としての尾形百之助の評判を耳にするようになったのは、ここ二年ほどだ。人一倍努力家のくせに、それを悟られることは何よりも嫌う。可愛らしく言えば恥ずかしがり屋だが、こと尾形に関して言えば捻くれ者という方が正しいだろうと俺は思う。
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