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    krgntl

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    すきなものをかく

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    Dのピンチにロジがキレて暴れる話
    ロジェDです。

    碧の咆哮草木の間に潜んでいた小さな影に気付けなかったのは、完全にロジェールの過失であった。
    足を踏み入れた途端に響く叫び声、煙幕で白く染まる視界。Dが剣を構えるのを目の橋でとらえながら、ロジェールは剣と杖とをきりりと握り直した。
    姿を捉えたDが剣を振り下ろし、一体を重たく切り伏せる。地に落ちたのは卑兵と呼ばれる小柄なヒトだった。
    獣の俊敏さとヒトの賢さを持つ彼らは、おそらく知を得た亜人たちなのだろう。小さな身体を存分に生かし、集団で獲物を追い詰める……少人数の旅人には致命的なほどに厄介ないきものたちだ。
    前に立つDが振るう大剣をひらひらと躱し、キィキィと耳障りな笑い声を上げる。
    数で押されればこちらが不利だ。ロジェールは杖を振り上げ、時間稼ぎのための魔術を中空に放出する。
    断続的に魔力の破片を撒き散らす術式に卑兵どもは怯んだようだった。だがしかし、彼らには地の利もある。
    Dとロジェールは少しずつ崖へと追いやられ、窮地へと追い込まれていく。
    「まずいな」
    ロジェールが呟けば、Dはこくりと兜ごと頷いて見せる。卑兵の真骨頂、罠を張り巡らせた一角へと、二人は着実に追い詰められていた。
    Dは腰を落とし、いつでも剣を振るえるようにと身構えている。
    「囲まれている。なんとかして突破口を開かないと、お前と仲良く屍を晒すことになってしまうな」
    「こんなところで死体を晒すのは本意じゃない。D……私が魔術で道を拓くから、君は卑兵そのものを狙ってくれ」
    「了解した。互いに幸運を」
    早口で状況を告げ、対策をたてる。短時間で意思を伝え合うことができるのは経験の為せる技で、これまでの旅がもたらす恩恵だ。
    Dが剣を構え直し、鋭い息を吐いて敵を威嚇する。かかってこいと言うように剣先を下げ、卑兵たちが立ち上がるようにと誘って見せる。
    ギィィ、と怒りを含んだような叫びが響いた。
    鎖付きの鎌を携えた卑兵が飛び出し、Dの前に立ちふさがる。
    「恨みはないが」と囁きながらDは剣を振るい、叫び散らす卑兵を切り捨てた。
    Dは強い。一人でもしばらくは問題ないだろう。前衛を彼に任せ、集団を蹴散らすための詠唱を……。
    杖を振り上げかけた瞬間、前方で悲鳴が上がった。
    「……D!?」
    慌てて目を向けると、Dは喉を押さえて踞ったところだった。
    「ゲホッ……お、ッぐ」
    喉を掻きむしりながら激しく咳き込み、びくびくと身体を震わせる。卑兵の毒つぶてを受けたのだ。ロジェールはDの名を叫び、急ぎ彼のもとへと走り出す。
    嘲笑うように…否、実際に嘲笑っているのだろう…卑兵たちがキィキィと吠え、駆け寄ろうとするロジェールの進路を塞ぐ。
    「D!落ち着いて、息を止めないで……ックソ、退け!!」
    小さなものたちが嗤う。手に手に武器を取り、動けなくなったDにとどめを刺そうと。
    「D!!」
    刺剣を操り、一体二体と敵を切り伏せる。杖から放たれたつぶてが三体目の胸を貫く。
    仲間の断末魔を聞いた卑兵たちは不満の叫び声を上げると、Dを放ってロジェールへと向き直った。毒を受けた彼へのとどめは後回しでいいと、そう判断したのだろう。
    「ふざけるな……」
    金銀の鎧姿が地に伏せる。ついに意識を保てなくなったのだろう。
    同じ輝きを自らの足下に見出だしたロジェールはぎしりと歯を鳴らし、刺剣を背後に放り捨てた。
    「汚い手段で彼を苦しめておいて」
    赤茶けた砂を削りながら、足下のソレを拾い上げる。黄金と白銀が絡み交わる、その美しい剣。彼の剣を。
    「挙げ句、彼を苦しませたまま捨て置いて、弱そうな方を先に潰そうって?」
    大剣は重く、片手では扱えそうになかった。
    だが幸いにも、扱い方を知らぬわけではない。嗜みの一環として学んだことが役に立つことになろうとは、と口の端を上げる。
    顔を上げて僅かに腰を落とし、ブーツの底で砂利を踏みつけて。
    「……私を見くびるなよ、半畜生どもが!」
    握り締めた大剣を下段に構え、ロジェールは吠えた。
    先程までとは明らかに違うその気迫に、卑兵たちは露骨に怯んだようだった。
    やはりこちらをとばかりに倒れ伏したDを見やる者、逃げ道を探して後退る者。武器を振りかざし、威嚇してくる者も居る。
    ロジェールは鼻の頭に皺を寄せ、牙を剥くように唇を捲り上げる。躊躇うことなどありはしない、この手で全てを。
    「ッアアァ!!」
    咆哮と共に振り抜いた、その一太刀で卑兵の一人が打ち倒される。悲鳴と罵声が轟いた。
    戦いの流れはロジェールの手中にあった。完全に怖じ気付いた小人どもなど、既に彼の敵ではなく。
    金銀の剣が全ての卑兵を打ち倒すまでに、さほどの時間はかからなかった。


    Dが意識を取り戻した時、戦いは既に終わっていた。
    舌に広がる苔薬の苦味に顔をしかめ、次に吐瀉物にまみれた自身の身体にため息を吐く。
    と、少し離れた場所で座り込んでいたロジェールが顔を上げ、起き上がろうとするDを見とめて破顔した。
    「よかった、気が付いたね」
    「ロジェール……」
    無事だったか、と呟くDに、彼はいつものように微笑みを返す。
    「見ての通り、無事だよ。苦労はしたけど切り抜けた」
    ロジェールは大袈裟に両手を広げて見せ、それから片目を閉じる。
    「……そりゃあもう心細くて、泣きそうだったよ」
    「嘘を言うな、まったく」
    Dはようやく身を起こし、聖杯瓶を呷る。
    傷んだ組織が癒されていく、ある意味慣れた感覚。
    頬に血の気が戻るのを確認して、ロジェールが大丈夫そうかいと訊ねてきた。Dは小さく頷いて見せる。まだ身体の重さはあるが、移動する程度ならば耐えられるだろう。
    「とりあえず、水場を探そうか。君、身体を洗いたいでしょう」
    「鎧が先だ。大切なものなのでな、汚れたたままにはしておけない」
    「ならばなおさら、善は急げだ」
    言うが早いか、ロジェールは流れるような身運びで立ち上がった。ズボンについた汚れを払い、次いで荷物を拾い上げる。
    違和感に気付いて地面を見る。探し物はそこにあり、横たわっていたDの身体の下にロジェールのマントが敷かれていた。
    上等の布地を汚してはいないかと眉を寄せるのに、彼は元から汚れているから大丈夫だよと快活に笑う。
    「気になるなら円卓に戻ろうか。あそこなら水も暖炉もあるから、マントの洗濯だってできる」
    「百智卿にどやされるのを我慢すればな」
    「いつものことだよ。彼に怒られるのにはもう慣れた」
    さあ、と手を差しのべる彼に応えながら、Dはちらりと自らの剣に視線を走らせた。
    覚えのない刃こぼれがそこにあり、彼は己の記憶が夢でないことを知る。
    霞む視界で垣間見た、大剣を奮う魔術師の姿。
    雄々しく美しかったかれの勇姿を、Dはそっと胸の奥に、しまい込んだ。

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