よっぱらい兄さんの陽海「東海道」
揺さぶられて、目を覚ました。
なんだ、一体。気持ち良く眠っていたのに。
機嫌を損ねた東海道は、再び寝入ろうとする。またもや、東海道、と呼ばれたので、うるさいと手で払った。
「あー、だめだね、これ。無理」
「楽しそうに言っちゃって。潰したのはお前さんらでしょ」
「これは飲めるって、自分から飲んだのは東海道だよ」
「水は?」
「途中で飲ませた。てかもう眠いだけだよ。明日までは残らないと思うよ」
会話は聞こえているが、意味は理解していない。
ちょっと寒い。ぶるっと身震いしたところで、
「ああ、ほら、東海道。起きなくていいから捕まって」
そう言われて、身体がぐらりと揺れた。前に倒れようとしたところを、温かい大きな身体が支える。
山陽だ、と判ったので、遠慮無く寄りかかった。そのまま、身体が宙に浮く。
じゃあね、おやすみ、と上越と秋田が言った。そうだ、上越の部屋で、一緒に飲んでいたのだ。
眠くて眠くて、口が回らない自分の代わりに、山陽が答えた。ではまあ、いいかと思う。
安心して、山陽に抱かれたまま運ばれる。回された腕が温かくて、気持ち良く擦り寄った。
山陽が合鍵を使ってドアを開ける音がして、東海道は目を閉じたまま、自室に着いたのを感じた。
「靴……」
「後で上越んとこから持ってくるよ。よっと」
ずれた東海道の身体をもう一度抱え直して、山陽はそのまま東海道の部屋に入る。
どさりと、尻の下にひんやりとした感触がして、東海道は自分がベッドに降ろされたのを知る。誰も居なかった部屋は、やはり寒い。山陽の温もりが、離れたのが不満だ。
「東海道、もうちょっと頑張って。お前、着替えは? これでいい? ほい、ばんざーい」
山陽が、勝手に服を脱がしてくる。
なんだすけべ、寒いだろうが、触るな。
むずがる東海道を余所に、山陽は慣れた手つきで東海道を剥いて、置いてあった寝間着を着せてしまう。なんだか抵抗もどうでもよくなって、こっくり船を漕ぐ東海道を、山陽は何度も起こして励ました。
「よし、とりあえずこれでいいかな。念のため、これ、水のボトル。横に置いとくからな。喉渇いたら飲めよ。一応様子見に来るけど。また後でな、東海道」
ベッドに横に倒れ込んだ東海道を、上掛けをめくってその間に押し込んで、山陽は立ち上がった。
なんだと? どこへ行くつもりだ、私を置いて。
苛立った東海道は、ぼん、と自分のとなりの空間を叩く。
え、と呆けた山陽に向けて、早くしろ、と上掛けの端をがばっと捲った。
「もー、酔っ払いなんだから……」
文句を言いながらも、山陽はそこに身体を滑らせる。
布団を被って、その中で手を伸ばしたら、運ばれた時のようにすっぽりと包まれた。
温かい。山陽のにおいがする。
これで、やっと眠れる。
ふと思い出した。そういえば、さっき上越と秋田と飲んでいて、山陽について言われたことがあった、ような。何だったか。確か。
「……お前が、私に対して本当に甲斐甲斐しいと」
「え、何? 上越?」
「うん。でも、お前は好きでやっているから……」
だから、何も問題はない。
東海道は、満足げに頷く。
好きな相手が、好きな相手に、好きでやっていることだ。だから、何も問題はない。
布団の中が、二人分の体温で温もる。窮屈なのさえ心地よくて、もう東海道の瞼は持ち上がらない。
ぽんぽんと、山陽の手が東海道の背を叩く。
おやすみ。
少し笑った好ましい囁きを最後に、東海道の意識は途切れた。