意は無 カーテンを少しずらして下に広がる通路を見下ろす。上からネオン、街灯、非常用の灯りとグラデーションで暗くなってコンクリートを鈍く照らしている。コンクリートの上では複数人の男が首を振って何かを探しているような動き。「何か見えるか?」振り返ると上着を掛ける用のハンガーが差し出される。
「路地に男が三から五人、大きな声で叫んでいるようだがこの高さからは何も聞き取れないな」
「じゃあ当分はここに居た方がいいか……」
脱いだコートをハンガーに掛ける。ほら、と声がした先に重くなったハンガーを渡した。
「はぁ……」重く深い溜め息が腹の底から湧いて出る。私の行動が原因で伊織を巻き込んでしまった。帰る方角が一緒だから、と共に駅まで歩いていたら金を出せと三人の男がスーツの男を囲んでいたのを私が咎めた。警察を呼ぶこともできたはずなのに伊織が怪我を負い、男らは仲間を呼んだ為にこうして逃げ出してきた訳だ。
6240