石乙散文 ぎゅっと身体を抱き締められて、耳元で「好きだ」とハッキリ言われた。抱き締めてくる逞しい腕は少し震えていて、力強いのに何故か不安定で、耳元で囁かれた告白の言葉も、ハッキリ聞こえるのに何処か必死で。
いつも何事もなんでもない風に受け流して堂々としているこの人が、こんな姿を見せることがあるだなんて驚いてしまって。
そして何より自分への好意を示す言葉が信じられなくて、上手く飲み込めなくて。
その好きはどういう好きなのだろう。仲間とか友達とか、そう言う好きであるはずはない、そういう好きをこんな必死に抱き締めながら伝えるなんてありえない。
だったら、恋とか愛しているの好きだろうか。そう考えたら、そんな気持ちをこの人から向けられるなんて有り得ないって思って。
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