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    PoisonOakUrushi

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    PoisonOakUrushi

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    鬼島、天生目、葉月で写真を撮る話

    #きじあま
    brownBear
    #天生目聖司
    born-eyeSeiji
    #鬼島空良
    onijimaKora
    #葉月薫
    #NG

    写真「お願い! 鬼島くん! 一晩でいいから、天生目くん貸して!!」
    「天生目は物じゃねぇんだが……」
     吉走寺駅前にある、バー黒兎。閑古鳥が良く鳴く義母の店は、鬼島空良にとって幼馴染で親友の天生目聖司との溜まり場でもあった。最近は、八月に起きた怪異と呼ばれる存在のせいで増えた人間関係により、義妹の愛海の友達、ツケで飲もうとするダメ親父、金払いは良いが神出鬼没の女マジシャンが加わった。
     そして今、準備中の店へやけに真剣な表情でやって来ると、開口一番、土下座せん勢いで謎のお願いをして来たのは、愛海の友達、オカルト狂いの葉月薫。
     鬼島は困惑に目を瞬きながら、那津美と愛海が不在である事に安堵した。
    「ってか、貸すってなんだ、貸すって」
     天生目は歴とした人間である。
     確かに、出会い頭に犬みたいな紹介をしたのは鬼島であったが、訳の分からない頼み事をされる程、天生目と葉月が顔を合わせていないと言う事は無かった。
    「あたしだけだと絶対断られるから。でも、鬼島くんからの許可があれば、聞いてくれるでしょ」
     真剣で真っ直ぐな瞳に、鬼島が首を傾げる。葉月と天生目の間柄は、仲が悪いとは言わないが、気安く頼み事をし合う程良くも無い。そもそも、天生目の真っ黒でひん曲がった腹の中を知る葉月が、天生目に頼む事が無い。
     一体何を企んでいるのか考えたが、内容を予想するより、相手が葉月である、として考えた方が答えに辿り着く気がした。
    「……オカルトか」
    「あたしだよ? 他にある?」
     得意気で自信満々な笑顔に目一杯の溜息を返すと、鬼島は面倒はごめんだと眉を寄せる。
    「断る」
     話は済んだとばかりに、途中だった掃除を再開しようと後ろを向いた。
    「お願いお願いお願いお願いお願いお願い!」
    「うるせぇ」
     パンと手を叩いた音の後に繰り返される嘆願。拝み倒そうとする葉月に、鬼島がイラッとした声を出す。
    「……わかったよ、鬼島くん。勝負しよう」
    「なんだって?」
     何一つ分かっていない返しに、鬼島が訝しんで振り向いた。熱意に燃える瞳で覚悟を決めた表情の葉月と目が合って、思わずたじろいでしまう。一体、何故そこまで天生目に拘るのか、鬼島には分からない。
    「天生目くんをかけて、あたしと鬼島くんで勝負だよ!」
     その上、何故だか無性に面白く無く、眉間に思い切り皺が寄った。だが、くだらない、と思いながらも、勝負を降りる気にはなれず、何も言えずに顔を顰める。
    「天生目くんに選んでもらおう」
     突然の満面の笑み。
     鬼島との勝負と言いつつ、天生目に選ばせる、という事が理解出来なかったが、説得でもするのだろうと当たりをつけた。オカルト嫌いの天生目に対し、どんな手段で説得するのか気にはなったが、目に見える結果に小さく息を吐く。
    「どうせ無駄だと思うが」
    「勝負方法はあたしが決めていい? ちゃんと、公平なルールにするし、嫌だったら別のに変えるから」
     真剣な葉月の提案が、やはりよく分からず見詰め返す。天生目が選ぶのに勝負方法とは?、が頭の中でぐるぐると回る。取り敢えず、一度息を大きく吐き出して勝負について考える。体力特化の鬼島とオカルト特化の葉月なので、何か良い方法が有るならば好きにさせれば満足だろうと頷いた。
    「那津美さんに迷惑がかからなければ、なんでもいい」
    「へっへーん。これぞ、負けられない戦いってヤツだからね。悪いけど鬼島くん、勝たせてもらうよ」
     鬼島の言葉に、葉月は自信に満ちる悪戯を企む笑顔を浮かべた。
    「じゃ、鬼島くん。ちょっと腕広げてもらっていい? ハグするみたいに。あ、それ、あたし持つね」
     掃除道具を葉月に奪われつつ、訳も分からぬままに言われた通りポーズを取る。次はどうするのかと葉月を見れば、急に真面目な顔に変わった。
    「さぁ! 鬼島くん! 天生目くんが、その腕の中に飛び込んで来るかどうかで勝負だよ!」
    「………………天生目は犬じゃねぇんだよ」
     葉月の宣言をすぐに理解出来ず、微妙な間を置いて鬼島が思い切り顔を顰めた。

    「やあ、調子はどうだい。親友」
     程なくして鳴ったドアベルの音に、那津美さん達が帰って来たかと思ったが、現れたのは運の悪い親友であった。天生目は店内に鬼島と葉月しか居ない事を見ると、僅かに眉を顰めたが直ぐに人の悪い笑みを浮かべた。
    「おやおや。もしかして、お邪魔だったかな?」
     何も知らない天生目に鬼島が眉を下げて溜息を零す。
    「ほら、鬼島くん」
     隣の席に座る葉月が獲物を見つけた狩人の目で、天生目を捉えながら小声で促す。鬼島は面倒に巻き込まれたと思いつつも、どうせ勝つだろう、と高を括って立ち上がった。
    「ん」
    「……ん?」
     天生目に向かって腕を広げる。
     不審がって眉を寄せた天生目が、鬼島と葉月の間で視線を行き来させる。その様子を葉月は息を呑んで見詰めていた。
     暫く見比べていた天生目が、ふっと表情を和らげるので、察しの良い天生目が葉月の意図に気付いたかと安心した矢先。
    「なんだい空良、キミでも甘えたくなるときがあるのかい? 明日はヤリでも降るのかな? まあ、どうせ葉月さんに何か言われたんだろ」
     ノコノコと鬼島に近づいて来た天生目が腕に収まり抱きしめる。
    「おい」
    「よっしゃー!!」
     鬼島は予想外の行動に驚きの声を溢したが、同時に上がった葉月の勝利の雄叫びに掻き消された。
    「え? え?」
     天生目は葉月の反応に驚いて肩を跳ねさせると、状況が掴めずにそのまま縋り付く。
    「天生目……」
     まさかの負けに些か気落ちした鬼島だったが、それ以上に、何も知らない天生目のオカルト参加決定を思うと、背中を叩いて励ますしか出来なかった。

     ※※※

    「まったく、バカバカしい。人を使って賭けだなんて! しかも、あんなルール、確実に僕のことをバカにしてるだろ」
     那津美達が戻って来た後、暫くして夜も更けた頃に三人は店を出た。通りを歩く天生目は頗るご機嫌斜めで、顔を顰めて苛立ちを溢している。
    「そうだな」
     そんな天生目に鬼島は自業自得だと言う様な、憐れむ様な、複雑な目を向ける。
    「空良も空良だ。こんな下らない賭けに乗るなんて。僕の信頼を裏切る気か」
    「おまえを信頼した結果がコレなんだよ」
    「ぐっ……」
     鬼島に八つ当たっていた天生目だが、自覚があるのか低く呻くと肩を落とした。何と声を掛けるか悩む鬼島が溜め息を吐くと、同じ様に息を吐いた天生目がげんなりとぼやいた。
    「いったい、僕に何をさせる気なんだ……」
    「そういや、聞いてないな」
     はたと気が付いた鬼島を、天生目は恨めし気に睨む。
    「おい葉月、天生目をどうする気だ?」
     先頭を歩いていた葉月に問うと、含みの有る笑いでクルリと振り返った。
    「ふふふふ、内緒。もうすぐわかるよ」
     満開の笑顔にウインクを決めると、また前を向いて歩きだす。鬼島と天生目は顔を見合わせて肩を竦めると、仕方なしに着いていった。
     暫くすると漸く葉月が立ち止まって振り返る。
    「じゃーん! とぉちゃーく!」
    「あ? ここは……」
     着いた場所は鬼島の住むアパートから程近い小さな墓地。設置されている自販機目当てに、これまでも一人で何度か来た事のある場所であった。
     街灯と自販機は有るが薄暗い夜の墓地の雰囲気に、天生目は顔を白くして引き攣らせている。
    「こんな時間に墓参りでもするつもりかい?」
    「うん。このところ忙しかったし、またしばらく来れなくなりそうだから」
     そう答えながら一つの墓の前へ進み、話しかけるみたいにしゃがんだ葉月を見て鬼島は思い出した。
    「そういや、高村ゆりの墓、ここだったな」
    「高村ゆりさんって……ああ、そうなんだ。まったく、素直に言ってくれれば。墓参りくらい、僕だって大人しく付き合うさ」
     鬼島も天生目も、それ以上は口を開かず、静かに葉月の姿を見詰めた。
    〝ピピッ カシャ〟
     邪魔をしない様にと言う配慮だったが、破ったのは当の本人で、墓地に謎の音が響き一瞬の閃光が走る。
    「うん! いい感じ!」
     立ち上がり、戻って来た葉月の手には何故かデジタルカメラが握られていた。不思議そうな鬼島の横で、天生目が盛大に眉を寄せている。
    「そんなもん、どうすんだ?」
    「もちろん、写真を撮るに決まってるでしょ」
     鬼島の問いに、ニコニコと答える葉月を天生目は嫌そうな顔を更に顰めた。
    「何を撮る気か知らないけど、こんな場所で記念撮影だなんて、正気とは思えないな」
     小言を溢す天生目に、すっと葉月が表情を落とすと徐に口を開いた。
    「ねぇ、天生目くん。こんな話聞いたことない? 友達と撮った写真を見てみたら、体のどこかが消えている。あるいは逆に、人数よりも手足の数が増えていた。極めつけは人じゃない何かが写ってる」
    「……」
     想像したのか、天生目の顔から血の気が引く。
    「そっ、んなの、撮った奴が下手くそだっただけさ」
     平静を装って応えるが、取り繕った声の震えは、馴染みの相手なら誰でも分かる程だった。
    「写真に影響を与えるほどの幽霊って」
     変わらぬままの葉月の筈が、妙に重々しく感じられる表情で口を開いた。
    「怪異ほどじゃないけど、未練や恨みを残してるの。だから、何かしらで生きてる人にアピールする。でも、そんなの気にしない人もいるでしょ?」
     鬼島がチラリと視線を移す。
     奥の街灯の下、影になる暗い場所に最初から居る俯いた影。意識して見たのに気が付いたらしく、急に寄って来たかと思うと音も無く消えた。
     鬼島は葉月の話に納得しながら、青白い顔を引き攣らせて固まっている天生目には言えないな、とぼんやり考えていた。
    「でね、ここからが大事なんだけど」
     厳かに語る葉月の言葉に、天生目が固唾を呑む。
    「だからなのか、幽霊って怖がりな人に寄ってくるんだって」
    「帰る‼︎」
     間髪入れずに悲鳴の様に叫んだ天生目は、墓地に背を向けて走り去ろうとするも、即座にしがみ付いた葉月が引き止める。
    「この話聞いて、あたしには天生目くんしかいない! って気づいたんだ! 数枚! 数枚でいいから!」
    「嫌に決まってるだろ! このボンクラッ! 一枚だって嫌だよ!」
     目の前でギャアギャアと騒ぎながら一進一退の攻防を繰り広げる二人に、鬼島は呆気に取られて目を瞬く。身長と体重で勝る天生目を、小柄な葉月が抑え込みつつ、じりじりと墓地へと引き摺る姿に些か感心したが、ふと我に返り、とりあえず引き剥がした。
     逃げた天生目が鬼島の背中に引っ付いた。
    「あんまイジメるんじゃねぇよ」
    「いじめてないよ、お願いしてるんだよ」
    「何言ってんだ」
     呆れた声で注意すると、何故か頬を膨らませる葉月に抗議されて、鬼島が困惑に眉を寄せた。
    「それに、勝ったのはあたしなんだから。鬼島くんは、あたし側につくべきでしょ」
    「ぐっ……」
     その上、プンスカとする葉月に勝負結果を持ち出され、言葉に詰まる。
     臍を曲げて意地を張った姿は何処か愛海に似ていて、鬼島はお手上げだとばかりに深い溜息を吐いた。
    「写真だけだ、腹を括れ」
     天生目のじっとりとした恨みがましい目に睨まれる。だが、ある程度は覚悟していたらしく、この上無い程眉間に皺を寄せるだけだった。
    「………………絶対一人じゃ写らないからな」
     天生目が嫌々絞り出した返事に、葉月が嬉しそうに笑う。
    「鬼島くんと一緒で構わないよ」
    「まったく、しょうがねぇな」
     カメラを手にウキウキした葉月が距離を取ると、天生目が渋々と背中から離れた。とは言え、ぴったりと鬼島の隣に立ち、目一杯に顔を引き攣らせている。
    「夜の墓地を背景にして写真を撮る日がくるなんて……」
    「どうせ何も起きないだろ」
     震える声で愚痴ると、あっけらかんとした鬼島を不安気に見詰め、顔を顰めて一人腕を組む。この時、天生目がこっそり服の端を摘んだのに気が付いたが鬼島だったが、気が付かない振りをした。
    「それじゃ、撮るよー」
     葉月の掛け声で反射的にカメラの方を向くと、ほぼ同時に甲高い電子音が鳴り響く。
    〝カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ〟
    「……待て待て待て。おい葉月、何枚撮る気だ」
     止まらないシャッター音を直ぐには理解できず、一拍を置いてから鬼島が呆れた声でストップを掛ける。隣ではドン引きした天生目が、信じられないものを見る目を向けている。
    「指を離すまでが一枚かなって」
     悪びれもせず笑う葉月には、最早何を言っても仕方無く思えて、鬼島は大きな溜息を吐いた。
    「そんなに撮ってどうすんだよ」
    「撮影って結構暇なんだよね。心霊写真撮ったって言えば、みんな気にしないし」
    「なぁ、もういいだろ。とっとと帰ろうぜ」
     鬼島と葉月の不毛なやり取りを、天生目が止める。チラリとデジカメに視線を落とした葉月だったが、満面の笑みで明るく答えた。
    「帰る前に三人で撮らない?」
    「撮らない」
    「誰が撮るんだ?」
     葉月は、食い気味に断る天生目も、のんびりとした鬼島の質問も、気にせずニコニコとしている。
    「あたし達、三人で写真撮ったことないじゃない? せっかくカメラもあるし、女子高生の本気の自撮り見せてあげるよ」
     何やら張り切り出した葉月が、鬼島と天生目の一歩前に立ち、腕を伸ばしてカメラ位置を探る。草臥れた目を合わせた鬼島と天生目が、仕方がないとばかりに溜息を吐くと、葉月の指示を待つ。
    「まずは、試しの一枚。いくよー」
     一人ポーズまで決めた葉月の掛け声に、一応カメラに目線をやる。しかし、幾ら待てどもシャッターは下りず、不思議に思っていると葉月が首を傾げた。
    「あれ?」
     小さく呟きポーズを止めると、カメラを調べ始める。何度もボタンを押しているみたいだったが、何の反応も起きなかった。
    「おっかしいなぁ」
    「壊したのか?」
    「単純に、さっきの連写でメモリがなくなったんじゃないのかい?」
     カメラを探る葉月の手元を、鬼島と天生目も覗き込む。
    〝カシャ〟
    「わッ!」
    「ッ!」
    「まぶしッ!」
     突然光ったフラッシュに三人が驚く。葉月が試しにレンズを他所へ向けてシャッターを切ると、軽い音共に閃光が走った。
    「逆向きだったから、ちゃんと押せてなかったのかな」
    「動いてんなら問題ないだろ」
    「バッテリーは足りているのかい? 不足してると動作不良をおこすよ」
     問題無く動いた様子に、安堵の空気が流れる。事故で撮れた写真を消そうと葉月がメモリを読み込むのを、鬼島と天生目も何の気も無く眺めていた。
    「ひっ!」
     写真が表示され、見てしまった天生目が悲鳴を上げる。
     カメラを覗く顔を写した写真。覗くのは鬼島、葉月、天生目、その三人。……の筈なのに、もう一人。黒く長い前髪で目元の見えない透けた女。
     疑いようのない心霊写真に、天生目
    は血の気の引いた肌色で表情を引き攣らせている。だが、葉月が何の反応も示さない事に気付いた鬼島が様子を伺うと、眉間に皺を寄せた怖い程の真剣な目付きで写真に食い入っていた。一体何が気になるのか、声を掛けようとした矢先。
    「……この幽霊」
     葉月が震える唇を開いた。
    「ゆり……? うん、ゆりだ。間違いない!」
     険しかった眉間がゆるゆると解けるに従って、頬は興奮で朱に染まり瞳は喜びに輝く。抑え切れない歓喜に声を荒らげる葉月に、鬼島と天生目が驚いた目を向けた。
    「そこに写ってる女、高村ゆり、なのか?」
    「うん!」
     鬼島の疑問に、葉月は迷い無く答える。その姿に些か鬼島が戸惑っていると、震える天生目が必死に絞り出す。
    「な、な、なんで、いいきれるのさッ」
    「天生目くんが鬼島くんを見間違えないように、あたしだって、ゆりを見間違えたりしないよ」
     写真を見詰める葉月は嬉しそうではあるも、懐かしさと寂しさの混じる様な目で、愛おし気にカメラの液晶に触れる。写る女の顔はよくわからないが、柔らかに上がる口角は優しく微笑んでるみたいで、その辺で見る幽霊のおどろおどろしさを鬼島は感じなかった。
     怯えていた天生目も比較的早く復帰するくらいには、怖くない心霊写真だった。
    「まさかとは思うけど、その彼女を撮りに来たわけじゃ、ないよな?」
     冗談めかして尋ねた天生目だったが、葉月が悪戯っぽく笑いかけたせいで、信じられないとばかりに再び顔を引き攣らせる。
    「いやー、前にね、ゆりに心霊写真が欲しい、って言ったら〝危ないからダメ!〟って怒られてね」
     子供の頃の思い出を語る様に、葉月はしみじみと語る。
    「その時に〝死んだら絶対写真に写り込むから、危ない写真は集めない〟って約束したんだ」
    「何を約束してるんだ」
     天生目は心底呆れているが、葉月は気付きもしない。
    「もっとずっと先、お互いおばあちゃんになってからの話だと思ってたんだけどね」
     溢れた葉月の思いに、鬼島と天生目の言葉が詰まる。カメラを見詰める葉月に、少し眉を下げた天生目が口を開きかけた。
    「は、ぁあ?!」
    「……電話?」
    「誰からぁあ! ジャーマネかも!」
     唐突に鳴り出した電子音に驚いた天生目の悲鳴が響く。鬼島も葉月も慣れたものだっが、心当たりのあった葉月からも叫び声が飛び出す。
    「げっ! もうこんな時間! 鬼島くん! 天生目くん! 付き合ってくれてありがと! また連絡するね!」
     慌ただしく捲し立てると、携帯片手に走り出す。もしもし、と言う声がすぐに小さく聞こえなくなった。
    「まったく、相変わらず、騒がしい相手だったね」
    「そうだな」
    「僕たちも帰ろうか」
    「愛海を迎えに戻らないとな」
     取り残された鬼島と天生目も、バーに向かって歩き出した。
     暗い夜道に足音が響く。いつもなら軽口を叩く天生目も静かなままで、鬼島が盗み見ると何処か神妙な面持ちであった。
    「……なあ、空良」
    「あ?」
     不意に天生目がパーカーの裾を引いた。
    「僕が死んだら、カメラ持って迎えに来てくれよ。きっとそこにいるからさ」
     天生目の冗談とも本気とも取れる眼差しに、鬼島が眉を顰めた。だが、考えたくもない事態に不快さが勝り、苛立ちが募る。悪い冗談はよせ、と殴りたくなったが、墓場でのやり取りも有り、ぐっと堪えた。
    「俺が死んだら、お前は写真とれんのか?」
     気になった事を聞いてみれば、きょとりと目を瞬いて、顔色を白くする。何か言いたげにパクパクと口を動かしていたが、最終的には何も言えず、天生目は鬼島の腕にしがみ付く。
    「君、僕より先に死ぬの禁止な」
     写真の撮れない天生目からの妥当な無茶振りに呆れつつも、鬼島は端からそのつもりである。
    「お前は、俺の知らないところで死ぬの禁止な」
     返事の代わりに、悪趣味を持つ天生目へ釘を刺すと、ふんわり表情が和らいだ。
    「それじゃ、約束を守るためにも、空良にはずっとそばにいてもらわないとね」
    「望むところだ」
     悪巧み顔を浮かべる天生目に、鬼島が挑戦的に笑い返した。
    「頼りにしてるよ、兄弟」
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    PoisonOakUrushi

    PASTきじあまでホワイトデー
    我儘 ペラペラと捲る雑誌は格闘技の記事ばかり。そもそもが、そう言う雑誌だけを買っているのだから当たり前なのだが、求める答えやヒントの無さに、がっかりと溜息を溢す。
    「って」
     後頭部への軽い衝撃に振り向けば、ベッドの上を陣取る天生目に、蹴飛ばされたらしい。本で顔を隠しつつも隠れない不機嫌な気配に、言いたい事は山とあれど、撤退を余儀なくされる。
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