水曜日の友達夏、梅雨が明けて気温が30度を超えていた。
陽炎が揺れていて、住宅街だったがこの暑さで外には人の影がない。
俺は心臓の病を患っていて、近くのでかい病院に通うために豪邸の叔父の家に夏のあいだ泊まることになった。
週1回、水曜日に毎日通っていた
いつもの検査の後、歳の近い金髪の髪の子が俺と同じ検査室に入っていった。大人しか周りにいなくて子供は1人だけだったから、髪も目立つし背も低いし、俺はその子の姿をすぐに覚えた。
その日から水曜日に検査が終わると彼を見るようになった、近い病気なのかな、同じ日に来て同じ検査をしてるなんて、そんな事もあるんだな。
大病院だしそんな事もあるよな、て少し親近感が湧いてて
彼も俺のことに気がついているのかなって病院の日以外にも考えるようになっていた。
水曜日を何回か迎えた日、彼とすれ違う時、その彼に声をかけられた
声変わりがまだなのだろうか、きれいで、でも少し低い声。
顔をはっきり見るのは初めてで、顔を見た時男だと思っていてもドキリとした。綺麗な顔立ちで目の下のほくろが可愛らしくて、イケメンだぁ…て声をかけられた時黙ってしまった。
「ごめんね、いきなり話しかけて…「すいようび」に、いつも見るなぁって、思って…」
彼も俺と同じで、すれ違う俺を見ていたんだとどこか嬉しくて、上手く話せない。
俺は目を逸らして小さな声で答えた
「俺も…、えっと、今から、検査なんだけど、後で話したりする?」
相手の表情は恥ずかしくて確認できなかったが、確かに彼は嬉しそうな声で
「うん!まってるね」
と言った。
彼の名前は「タカハシ ショウ」というらしい。高橋は病院の呼び出しでも何人もいるから今まで気にも止めなかったが、なぜだかショウがその苗字で特別な響に感じた。
それから俺たちは水曜日だけ会う友達のようになった。
「水曜日の友達」少しもどかしくて特別な響き。ショウの名前みたいに特別な響きだ
心臓が弱く周りから浮いていた俺に友達なんて初めてで酷く浮かれていた。
「こんにちは、「水橋くん」」
「ショウ、もう名前でいいって」
ショウはいつも変なプライドで声を自分からかけられない俺に先に声をかけてくれる。
「この後待ってるけど…話す?」
「うん!まってて〜!」
俺が先かショウが先か、診断の時間は必ず2人並んでバトンタッチみたいに交代して。どっちかが待って話すのが凄く好きだった。
漫画の友達みたいだ、変なところで一緒の行動で、どこか気軽になれるんだ
「おまたせ〜」
「長かったな、大丈夫?」
「うん、へーきー」
そう涼しい顔をして言うショウに俺は人との距離感をよく分かっていなかったからすぐに病気について質問をしてしまった。
あ、言いたくない人もいるよな。直ぐに気がついたけどショウは何も嫌な顔をしないで答えてくれた。
「「しんぞう」がね、よわいんだ」
俺もだ。
「夏、あついでしょ?「しんぞう」つかれやすくてたいへん。」
俺も。
ショウの言うことが酷く理解できた。凄くわかる。わかる。俺も。今までいなかったんだ、夏が苦しいことも、疲れると苦しいことも。
俺はショウに共感すると考え無しに話し始めた。
「ショウは何歳なの?」
「ふふ、こうこうせいくらい」
「嘘すぎる。」
「14さい、小さいからあんまり「ばか」にしないでね」
「ちっせーーー!」
「あ〜〜〜〜」
分かりやすすぎる嘘だって、可愛らしくて、愛嬌のある奴だな、話しやすい。
「ショウはもう少し成長したら手術とかするの?」
ぼくの家、そんなお金ないからなぁ…
「そっか、俺はするんだよ、ドナー待ちなんだよ」
すごいねぇ…!ドキドキしちゃうね
「はぁ?全然、余裕だよ。俺ん家裕福だから海外のすげー医者に頼むから、大丈夫なんだってさ」
お金持ちなんだぁ、うらやましいな〜
「別に?叔父さんがすごい人なだけだよ、でもこの前出たゲーム機最新版の持ってるよ」
家族が金持ちだとかゲーム機だとか、子供ながらくだらなくて小さい自慢。
そんな自慢をショウはいいなぁって素直に聞いてくれた、いつもどう話していいかわからなくて自慢をしてしまう俺を彼は素直に聞いて凄いねって純粋な目で。
そんな所が同い年の奴らとは違くて、なんていい子なんだって思ったんだ。良い奴だし少し子供っぽいような感じ、可愛いやつだなって、病院の日が楽しかったんだ。
俺はショウに、俺のことを話すのがすごく楽しくて、何を話してやろうかっていつも思ってた。
俺のただ1人だけの友達。今まで会ったヤツらとは違う、特別な友達。
また何回か水曜日を迎えた日、俺は帰って叔父に友達が出来たから家に呼びたいと話した。
とても賢くて、冗談が上手くて、変わった子だけど優しくて俺と似てるんだよって、ショウを自慢するみたいに話した。
ショウに自慢するように話した。
叔父は少し怪訝な表情をして承諾してくれた。今ままで友達がいなかった俺を心配したのだろう、あんな顔は初めて見た。
その事をすぐ次の水曜日に話した。
「ショウさ、俺ん家に遊びに来ない?広くて涼しいし変わったものがいっぱいあるんだけど」
ショウは凄く驚いて少し考えたあとこう言った
「いいのかな…どこの子かも分からないのに、「おじさん」はいいの…?」
って、家族に気を使ってくれる良い奴だ、ショウみたいな友達は初めてで紹介がしたいんだ。
なんて恥ずかしくて言えなかったけど、俺はとにかくいいんだって言うとショウは嬉しそうな顔をしていた。
していた気がする。俺はその時いつものように気恥ずかしくて、家に呼ぶ理由が言えなくて少し目を逸らしてた。
俺はその日から次の水曜日がもっと楽しみでショウの事を何度も考えていた。
病院に来てからずっと君を見てたんだよ、なんてたまに気持ちの悪いことを言うけど、そんな彼がまた馬鹿らしいくらい可愛く感じてほんと変なやつだな、て。
ショウの変な発言はユーモアを感じて面白かった。意味がわかると怖い話、都市伝説みたいな気味悪さもたまに感じたけどそこがあいつの面白いところだ。
それを理解してるのも俺だけで、きっとショウも友達がいなかったに違いない。
誘った水曜日の日に珍しく待ち合わせをした。いつも突然言葉を交わしてその日その日に話していたけど
その日だけは「じゃあ、次の水曜日に。先だから待ってるわ」
て、それに俺から約束したから凄くドキドキしている。馬鹿みたいに。
水曜日。病院の帰り、一緒に家に向かう。
俺もショウも緊張していた。変な空気だ、くすぐったくて気まづいな。
会話もすぐ途切れてしまう、俺が言葉につまるせいだが、ショウもそれにつられてた。
家に着くまで缶ジュースを自販機で買って飲んだ。
お互い薬が強いからお茶で、緑茶が好きだって。苦いから麦茶の方が好きだって。くだらない話をして
ショウは飲むのが遅くていつまでも麦茶を飲んでいた。いつまで飲んでるんだよって、お互いゆっくり歩いて家に着いた。
家に着くと「おおきいねぇ〜!」て、小さい子みたいに驚くショウ
「言っただろ、叔父さんはでっかい会社の取締役だからな。」
詳しくは知らないけど叔父の自慢は俺の自慢だった、叔父ばかりに甘えてたんだ、なんでも買ってくれる叔父が好きだったから。
でも最近叔父は家で仕事をしているから、静かにな。て話した
ショウが立つとさらに大きさを感じる門を開けて中に入る。
麦茶、のんでやろうか?て話すともうだいぶぬるくて美味しくないよ。との事らしい
中に入ったら氷をいれようって話した。
「叔父さんにしょうかいするの?」
「 まぁ。叔父さんの家だから挨拶くらいはしてよ、嫌だったらごめん。」
「うぅん、大丈夫、きんちょうするなぁ」
「 大丈夫だよ、叔父さん子供には優しいし」
そんな話をして庭をぬけた、家に入るとたまたま叔父さんが俺らを迎えるようにいた。
「ただいま叔父さん、この子がさ」
て横に缶を持ったショウを紹介する。彼は軽くお辞儀をした。礼儀正しい
「どこ住みなんだい?」
「このへんに…ひっこしてきて…」
「珍しい髪色だね」「うまれつきで」
うん、よかった。叔父さんも普通だし怒ってないし、ショウもいつも通りだ、そう思った時
普通の会話の中確かに叔父の顔に向かって缶が飛んでいった
叔父は麦茶が目にかかり缶が顔にあたる瞬間、ショウは静かに拳銃を構えて、缶に向かって弾を打った。
余りにも静かで俺の耳にはカランと缶が落ちた音だけが聞こえた。
「…… え…?」
声が出た時には足の力が抜けてショウの足元に崩れ落ちた
心臓がいきなり活動を始めたみたいにドキドキと煩くなって、俺はショウの綺麗な顔を恐る恐る見た。
叔父を静かに見つめるショウは殺せたか確認しているようで信じられなかった。
どうして、なんでそんな物を持っているんだ…?
叔父を見るのに満足したのか、ショウと目が合った。
目が合うといつもみたいに優しい笑顔をして全部冗談みたいに「ごめんね」って言ったんだ。
それを聞いてから俺は誰かに気絶させられて、ショウの綺麗な顔を意識がなくなる最後まで見ていた。
目が覚めた時には病院内で、叔父は死んだと告げられた。死んだ瞬間見ていたのに全然覚えてなくて何も言えなかったけど何も聞かれなかった。
今思うと変だけど、動けるようになってから俺は毎日病院内でショウを探した。
彼との日々が全部嘘だって、その時に気付いていたけど、会いたかったんだ。
怒りたかったとかじゃなくて会いたくて、その日諦めを感じた俺は死んだように眠って、ショウが家に来た日が俺の人生最後の日だったんだな、なんて思って、
思い出して、ショウが、最後に見えた人でよかったって。
変だよな、夏の間の友達だったんだよ、友達でもなかったかもしれないのに
俺はあの子が好きだったんだろうか、性別も分からない君が、変なことを言う君が、叔父の命を奪った君が。利用されていたはずなのに俺は、どこかで君の心に触れられたと思っていて、どこかで君が俺の心を解いていると勘違いしていた。君のことを何も知らないのに。
あの日、俺の人生最後の日、あの子との生活が消える最後の日
きちんと君が見えていてよかった。
もっとちゃんと聞けばよかった、俺のたったひとりの友達…。
夏、猛暑がすぎて気温が25度を下回った。
この地域では初めての寒い夏の終わりだった。