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    Inochi_XX

    @Inochi_XX

    いのちないない
    ツイートしてない💙💛多分4つぐらいあるので良かったら見てってください、良かったら

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    Inochi_XX

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    💙💛、💙が夢と現実を彷徨う話
    (💛の死ネタ、軽い流血、💙の体調不良、軽い💙の病み表現あり)
    急カーブドリフトハピエン話

    儚き夢、散る想いと文豪ふと、目が覚めた。
    少しだけ開いているカーテンの隙間から差し込む刺すような陽の光を期待しようにも、実際には光を目視出来ないことはおろか窓辺周辺は淡く照らされてすらいなかった。
    するりと抜けるようにベッドから降り、カーテンを開ける。しゃあ、と小気味良い音を立てて顕になった外の様子は、あまり好ましいような雰囲気では無かった。空は青を失い、灰を敷き詰めた囲炉裏のような曇り空だった。いつもなら、それはそれで世界がどこか落ち着いた雰囲気になっているような気がして僕は嫌いではないのだが、今日ばかりは妙な胸騒ぎを覚えた。いつか、小さい頃に割ってしまった食器を思いだす。ぱりん、鳴り響く乾いた音に焦燥を覚えてしまうような胸の感覚にまるで似ていて、僕は眉を顰める。
    カーテンを留める。留め具の少しくすんだ金色を見た瞬間、頭がつきん、と痛んだ。心当たりの無いような痛みに更に機嫌が悪くなる。最近、眠れない夜が続いていたような気がするし、ただの寝不足かもしれない。そう自らで結論付けた後に、自身の支度を終えリビングへ向かった。

    僕が朝の支度を済ませると、他の三人はもう既にリビングで思いおもいにくつろいでいた。Voxはソファに掛けながら新聞を読み、Mystaはテレビのチャンネルを弄っていた。Shuは洗い物を済ませようとしているようで、キッチンにいる。
    扉を開けた瞬間、みんなが一斉にこっちを見て目を見開いたような気がした。けれど直ぐにそれぞれの作業に戻ったので特に気にしなくてもいいか、と思った。
    このリビングには、みんなで何か用事がある訳では無くても全員なんとなく集まりたがるのだ。僕もその一人なので、あまり偉そうな事は言えないが。
    洗い物を終えたらしいShuがとことことやってきてMystaとVoxに挟まれるような位置に座る。僕はL字型のソファの短い辺の方にいつもの通りに座った。
    三人はお互いに何かを伺い合うようなそわそわとした様子でいる。
    そんな時、いつもは気にならないような違和感が僕の中を駆け巡るような感覚がした。

    「あれ、こんな妙にスペース空いてたっけ?」

    いつも通り座ったはずなのに、僕の隣にはぽかんともう一人座れるだけの空間があった。L字の辺の端の方に座っているので一人だけ離されている状態になっている。流石におかしいな、と思い聞いたけれど他の三人は僕の問いに答えようとしない。お互いが目を合わせずして空気を読み合っているのが肌で感じ取れた。いつもこうだよ。そんなに妙か?そう言われてしまえば全然諦めがつくような小さな違和感だけれど、三人の変な間の開け方に新たな疑念が生まれてしまうのも事実である。

    「なに?なんで微妙な空気になってるの?......んぅ、なんかごめん」

    あまりの沈黙に耐えきれず、思わずぶっきらぼうに謝ってしまった。その瞬間、三人ははっとしたように僕のフォローに回る。口々に「そういう訳じゃなくてだな」「違うんだって」「Ikeは悪くないよ」と、取り繕う為の普遍的な言葉を投げかけた。
    僕は不貞腐れたように頬を少し膨らませる。

    「じゃあなんで妙な空気感になったの?僕なんか変なこと言った?」

    ちょっとだけ圧のある話し方になったかもしれないと、僅かながらの不安を感じつつ彼らを詰める。彼らは黙りこくったままだったが、ついに意を決したようにVoxが静かに口を開く。

    「Ike、Ike Ike Ike。俺達の行動が君を不快にさせてしまったのなら申し訳無いと思う。しかし一つだけ確認させて欲しい。君は昨日何をしていた?」

    話が急斜的に変わった。Voxが話をはぐらかそうとしている事に気が付いたけれど、一先ず話だけは合わせることにした。
    昨日か。今までの中では比較的最新な記憶を、記憶の本棚から引っ張り出す作業。......僕は何をしていたんだっけ。ぼんやりと、それでいて漠然としない記憶の本棚。すぐそこの金糸雀色の表紙の本を捲って読んでみても、水滴が零れたように文字が滲んでいて読むことが出来ないみたいに思い出せない。

    「昨日は......あ」

    やっとの思いでふと、いくつか記憶に蘇る出来事が脳裏に浮かぶ。しかし、輪郭はぼやけたまま明確な答えを出してくれそうにない。

    「昨日は、確か、待ちに待ってた映画を映画館で見たよ。あまりに楽しみで公開初日に見に行ったんだよね。誰かと行きたかったけど......一人で行った......気、が、する」

    ふらり、とただでさえぼんやりと形を持っていない記憶の輪郭が更に歪んでいくのがわかる。僕の記憶では、隣に誰かがいて会話した記憶や心地の良かった感覚が渦巻いていたのに、それはMystaでもVoxでもShuでも無い誰かだ。僕が映画を見に行くならこの中の三人の誰かなはずなのに。でもその誰でも無いのだから必然的に一人で行った事となる。
    Voxは顎に手を当て考えるような仕草を、Mystaはふっと眉を顰め俯くような仕草を、Shuはどこか悲しみを帯びた笑みをそれぞれ見せた。

    「......ありがとう Ike。特にこの質問に意味は無い。そうか。昨日Ikeが居なかったのはそういう事情だったのか」

    タオルの糸がほつれたような、本当に小さな違和感。この空間、この場所、この記憶、そしてVox達。今ある全ての事象においてそれを感じてしまうことに大きな不安を覚える。

    「勘違いかな。何か、おかしい気がする」

    ぽつり。
    呟いた途端、腹の底から逆流するような気持ち悪さに嗚咽を漏らす。吐いてしまうかもしれない。そう思ったけれど、まるで吐くだけのものがお腹に入っていないかのように呻き声だけが空を切る。あまりの辛さに気を取られている内に、いつの間にかShuが背をさすってくれていたみたいだった。何か言っているみたいだけれど今の僕には何も聞こえない。割れて砕け散りそうな痛みを頭に感じるし、目の前が暗くぼやけて見えない。

    思考が痛みや不快感にかっ攫われてしばらくして、段々と身体の中に渦巻いていたものが波を引いていった。それでも息は荒い。はぁはぁと肩で息をしなければ呼吸も難しく、今は呼吸をする事自体が辛くなってきてしまっていた。口の辺りがぴりぴりとしているし、あまりの辛さに涙が滲んでくる。
    Mystaが僕に、「鼻からすって、口から細くはいて」と指示を飛ばす。なるべく言われた通りに呼吸をすると、少しずつ呼吸も改善の兆しが見えてきた。
    Voxは僕に

    「Ike。大丈夫だから今日は部屋で休んでいなさない。何かあったら直ぐに俺たちを頼るように。いいな?」

    と告げると、僕の前に小さく屈んだ。部屋に行こうとしても確かに僕の手足は痺れ力が入りずらいし、Voxの厚意に甘えておぶってもらうことにした。ShuとMystaに手伝ってもらって、何とかVoxの背中に移る。

    「Good boy.」

    そのまま僕は部屋まで運ばれ、ベッドに丁寧に寝かされる。
    何か食べれるものや必要なものを買ってくると言いVoxとMystaが退室し、部屋にはShuだけが残った。

    「そのままの服じゃちょっとしんどくない?僕、楽な着替え持ってくるよ。着替えるのも、大変だったら手伝うからね」

    「......ありがとう Shu。着替えはゆっくり自分でやるよ」

    「そう?無理はしないでね。何かあったらいつでも呼んで」

    Shuは僕の枕元にオーバーサイズの部屋着を置くと、静かに部屋から去った。
    ゆっくりと自分のペースで部屋着に着替える。先程まで来ていた服を畳む余裕は無かったので、ケープは乱暴に椅子にかけられている。
    僕の部屋に訪れる静寂。たった一つ鳴り続けるかち、かちという壁掛け時計の音に意識が段々と落ちていく。疲労のせいか、鉛のようにベッドに沈む身体をそのままに、僕の意識はゆっくりと隔離されていった。

    ***

    ふと、目の前に沢山の本棚が見えた。ここは一体何処なのだろう。初めて来たはずなのに、どこか懐かしいような図書館に僕は一人で佇んでいる。天井まで敷き詰められた本棚がまるで田の稲のようにずらりと並んでいる。けれど一色だけしかない稲とは違って、その本棚には様々な色彩の本がぎっしりと詰まっていた。適当な本を手に取り、ぱらぱらと捲ってみる。

    「これは......僕の記憶?」

    その本には僕についての出来事が事細かに綴られていた。まるでひとつの物語のように纏められたそれは、自身でさえ覚えていないような出来事やその時に僕が感じたであろう感情を主観的に捉えられたものであった。日記を読み返しているような面白さに耽り、思わず読み漁ってしまう。
    ふと、どこか見覚えのある金糸雀色の本を手に取り頁を捲る。恋愛小説かのような表現や技法で書かれたそれは、読めば読む程惹き込まれてしまい僕の胸を甘く痺れされた。
    しかし。

    「でもこれ、知らない」

    この本だけ、全てに置いて自分の出来事である心当たりが無いのだ。他の本を数冊読んでみても、全て僕の追体験であるのにこの本だけが違う。
    この本のあらすじ。主人公は、ある一人の男に恋をしている。段々想いが強くなる一方で、気持ちを伝えてしまいたいけれど今の関係を壊すことに恐怖や不安を感じている、なんていう普遍的なストーリーだ。もしかしたら、いつの日か僕が書いた作品なのかもしれない。僕が覚えてないだけで、こんな物語を書こうとしたこともあったのだろうか。
    この物語の行く末を知りたくて頁を捲るけれど、ある時に恋をしていた男が交通事故で死んでからは後日談も無しに話がぷつりと切れていた。
    僕との関連性が全く無い異質な物もあるんだな。ぼんやりと、そんなことを考えながら後方よ何も書いていない真っ白な頁をぱらぱらと適当に捲ると、一枚の紙切れがはらりと舞い落ちる。

    「わっ、なにこれ」

    床に落ちた紙切れは写真のようだった。ゆっくりとそれを広い上げる。
    そこには儚げを孕んだような優しい笑みでこちらを振り返る一人の男が佇んでいた。眩しい程の金の髪を横に緩く結んでおり、藤紫の瞳を細める彼の姿に胸が締め付けられる。一目惚れのような甘さ。それとはまた違う苦しさを感じる。この感覚はなんだろうか、そんなことを考えているうちに、とある既視感に気が付いた。
    写真にみられる特徴を当てはめるに、この本の死んでしまった男であるだろうことは明確だった。金髪の描写や、太陽が咲き誇ったような眩しいくらいの笑みは、確かに主人公が恋をした男そのものだ。
    写真にぽた、と水滴が落ちる。なんなんだ。室内なのに、雨漏りでもしているのだろうか?刹那、本気でそんなことを思ったけれど、同時に視界が滲んだことで僕は自分が涙を流していることに気が付いた。一粒の涙が零れた事を皮切りに、どんどんと涙が溢れて止まらない。

    「......知らないはずなのに、どうして」

    どうしてこんなに切ないんだろう。

    本棚を背に、へたりと座り込む。金糸雀色の本を抱えて、一枚の写真を片手に気の済むまで泣いた。
    訳もわからず、感情の赴くままに声を押し殺しながら涙を流す。
    僕の今の状況こそが、好きな人が死んでしまった主人公の語られなかった後日談なのだろうか。そんな事を、考えながら。
    最終的に涙と声が枯れ、疲れ果てた僕は意識を暗闇に手放した。

    ***

    目を開ける。
    かち、かち、と相変わらず壁掛け時計は音を鳴らしていた。毎朝嫌になるほど見ている天井が目の前に広がっているのを見るに、先程の出来事が夢である事は明白だった。
    にしても不思議な夢である。体調を崩すと悪夢を見やすい、なんて聞くけれど、先程の夢は悪夢と呼ぶには少しばかり違和感を感じるほどのどこか心地いい夢であったと思う。
    何気なく寝返りを打つ。その時、目に入り込んできた光景に驚きを隠すことが出来なかった。
    なぜなら、夢で見た男の写真が枕元に置いてあったからだ。思わず疑いながらも、恐る恐る手に取る。その写真を凝視してみるが、紛れもなく本当にそこに存在していた。夢の中では気が付かなかったのか、それとも書いていなかったのか分からないけれど、写真の裏には右下に小さく「Luca Kaneshiro 」と記載されていた。
    この男の名前なのだろうか。痛む頭の中に、彼の正体を知りたいという気持ちが芽生え始めた。どこか懐かしいような面影を追いかけようとしても、どうしても痛む頭では上手くいかない。そんな時、Shuの掛けてくれた「何かあったらいつでも呼んで」という言葉を思い出す。

    「何かあったら、か」

    こんな事で呼び出すのは忍びないと思いつつも、傍に置いてあった携帯でShuに連絡を入れる。

    「ごめんね、Shu。何ともないんだけど、ちょっと来てくれない?」

    「どうしたの?今向かうね」

    一分も経たないうちに返信がきた。Shuはいつも連絡が早くて助かる。それからさらに一、二分も経った頃、ぎぃと扉が開く音と共にShuがひょっこりと顔を出した。

    「Ike、どうしたの?具合悪くなっちゃった?」

    「ううん、そういうんじゃなくて」

    僕はShuに、先程の『Luca』という男が写っている写真を渡す。

    「この男の人について、聞きたくてさ。何故か枕元に写真が置いてあったんだ。Shu、何か知らないかなって」

    Shuは写真を見た瞬間、瞳孔を開き動揺の表情を見せた。一瞬だけ固く結ばれた口は、何か情報を持っているけれど話せないということを物語っていた。僕はそれを見逃さず、詰めるチャンスだ、と質問を投げかける。

    「ねぇ、何か知ってるの?この男は誰なの?どうして知らない男の写真が僕の部屋にあったの?この人は......」

    僕のなんなの?

    その思考を通して僕は初めて、彼に自分の中での立ち位置を求めている事実に気が付いた。
    大前提として、僕が彼と関わりのある人間なのかもわからない。写真はあれど実在しているかも分からないのに。
    思わずまくしたててしまい、肩で息をする羽目になる。Shuは写真をゆっくり手に取ると、ベッドにいるまま上体を起こしているだけの僕をそっとハグした。左手は背に、右手は頭に来るように抱き抱えて、耳元で優しく囁く。

    「落ち着いて。Ike、大丈夫だから。この写真の彼は、まだ君が知るべきでは無い人だよ。そしていつか必ず彼について話す事も誓うよ。大丈夫、だから今は安心してゆっくり休んで」

    とんとん、と背中を優しく叩かれる。段々と、Shuの言う通りそんな気がしてきた。Shuの甘い声にまじないをかけられているのだろうか。さっきまでもたっぷり寝ていたはずなのに、Shuの腕の中で僕はまた意識を手放してしまった。

    ***

    「...ke、Ike」

    はっ、と意識を取り戻した。辺りを見渡すと、沢山の座席が並んでおり、目の前には大きなスクリーンがある。ベッドも、布団も、壁掛け時計も何一つだってない。自身の中で情報が錯綜し、軽度のパニック状態に陥りそうだ。

    「Ike!」

    ばっと声のする左隣を見る。そこにはLucaが座っていて、彼は不思議そうな顔でこちらを覗きこんでいた。

    「Ike、大丈夫?映画のエンドロールまでは起きてたのに、そこで寝ちゃってたの?」

    どこか朧気な記憶。どうやら僕は映画のエンドロールで寝てしまっていたらしい。目の前には何も映し出されていないスクリーンが大きく構えていた。なにか、やけに鮮明な夢を見ていた気がするけれど、どうにも思い出せない。
    もう、俺は頑張って寝ないように我慢したのに〜!と、Lucaは頬を膨らませる。そんな彼を見て、モヤモヤとした気持ちをは即座に消え、僕はふっと笑みを零してしまった。やっぱり好きだな。そう感じる。叶わぬ恋を胸に秘め生きていく僕にとって、Lucaのそばにいられるだけで充分な幸せだ。

    「ほんとにごめんね。寝るつもりなんてなかったんだけど......。それに変な夢を見た気がするし。まぁいいや。とにかく、一旦出ようか」

    席を立ち上がり、僕達は映画館を出た。映画館はショッピングモール内にあったので、見終わった後、僕達は店を見て回った。雑貨屋や飲食店など、色々なお店を覗く。しばらく歩き回っただろうか、という時に、ある一軒の雑貨屋の前でLucaは足を止めた。

    「あ!Ike!見て、これ」

    Lucaが僕の手を取り、引っ張るように店の中へと連れ込む。小綺麗な内装、男二人の僕達が少し場違いであることは一目瞭然だったけれど、楽しそうなLucaを前にはそんなことは気にならなかった。

    「ほら!凄いよ、Ike。俺たちの色!」

    Lucaは通路から一番近い商品棚に置かれたブレスレットを手に取った。結構粒の大きめな、存在感のある金糸雀色と天色のブレスレット。両方とも照明に照らされているせいかきらきらと眩い程に輝いていた。二色展開なのかは分からないが、確認出来る限りではこの二つしか見つからなかった。

    「凄いね、本当に僕達の色みたいだ」

    「ねぇIke。俺がお金を出すからさ、一緒に出掛けた記念にお揃いにしようよ!」

    Lucaは目を輝かせながら僕にそう言った。思いがけない提案に、一瞬時が止まったような感覚がする。でも、次には胸が湧き上がるような感情に包まれて口元が綻んだ。

    「えっ、いいの?Lucaとお揃いか......賛成だよ!というか、僕も自分の分は自分で出すからね」

    「うわぁ、本当!?Ikeとお揃いだ!POG!」

    子供のように無邪気に喜ぶLucaを見ると、自然に僕も優しい気持ちになれた。購入した後、僕は金糸雀色のを、Lucaは天色のブレスレットをお互いに付けた。僕は左腕に、Lucaは右腕に、だ。

    「ふはは!いいね、お揃い!」

    「うん、そうだね」

    白い歯を見せて笑う彼の眩しい笑顔に、どこか既視感を覚える。何か忘れているような気がしてならなかったけれど、沢山の幸せに溢れた今の僕には関係の無い話だった。

    一日中遊び回り、そろそろかな、と僕達はみんなの待つ家へ帰ることにした。送迎はVoxに頼んであるので、迎えに来て欲しいと再度連絡を入れた。「車を出すのが少し遅れそうだ。すまない」とだけ返信が来る。了承の意を伝えると、Lucaが「Voxが来るまでの間、街を散歩しないか」と提案してきた。別に断る理由もなかったので僕達は外の歩道を雑談をしながらゆっくりと歩いた。
    最近出たゲームの話、仕事についてやLuxiemのみんなの話。一日中話したのにまだまだ話し足りないくらい、Lucaの話を聞くのは僕をこれまでに無いくらいにわくわくさせた。
    信号待ちの後、青になった横断歩道。
    Lucaは楽しそうに駆け足で進む。そんな彼を僕は後方から見ていた。思わず緩む口元をゆるりと袖で隠す。振り返ったLucaは、ふっと目を細めて笑った。
    ......どこかで見たことがある気がする。そんな僕の良く分からない既視感は、はっとした様子で向こう側を見やったLucaのただならぬ緊張感に全てかき消された。どうしたんだろう。そう思い、Lucaの見る方に僕も視線を向けると、スピードを緩めることなく僕だけを目掛けてこちらに向かってくるトラックが見えた。

    あ。

    にげなきゃ。そう思っても身体が動かない。足は竦み、脳内にはぱらぱらと走馬灯のようなものが見える。今までのVoxとの買い出しや、Mystaと一緒に見たテレビ。Shuと笑いあったミームに、Lucaと泣いたドラマの結末。開ききった瞳孔に映る段々大きくなるトラックの白が、僕の目を焼いていく。実際には数秒ほどの時間が、まるで永遠のように感じられた。
    突然、Lucaが「Ike!」と叫ぶ。空っぽになりそうな脳みそにLucaの声が響いた瞬間。

    どん。

    Lucaがこちらに体当たりしてきたと思ったら、次の瞬間に僕は地面と視線を共有していて、おまけに体全体に強い衝撃による痛みが走っていた。どうやら僕は頭を打ったらしい。ずきずきと痛む頭を抱える。地べたに這いつくばるような体制の僕は、一体何が起こっていたのか分からなかった。
    ゆっくりと立ち上がろうと膝をつく。立ち上がる頃には、僕たちの周りには悲鳴をあげる人々や駆け寄る野次馬がいた。僕が背を向けている後ろで一体何が起こっているというのだろう。
    下を俯いたままで、僕は後ろを振り返る勇気が湧かなかった。がくがくと膝が震え、今にも腰が抜けそうなのを必死で耐えた。また、とある既視感を覚える。

    そして気が付いてしまった。

    これは僕の記憶の追体験だという事を。
    僕が映画を見たのは昨日なんかじゃない。一週間前、僕は一人ではなくLucaと一緒に映画を見に出かけたんだ。そしてその帰りに彼は事故に巻き込まれ、そのまま亡くなった。
    Shuは、あの車は呪いの類いによって制御を失っていたとのだと説明した。仕方の無い、交わしようの無い事故だと話し僕を慰めた。けれど僕はそんなShuの言葉を素直に受け入れられなかった。
    だって、僕が不注意だったせいだ。僕なんかを助けようとしたLucaは、僕を突き飛ばしたせいで代わりに轢かれてしまった。
    自責の念に駆られた僕は、Lucaが死んだ事が受け入れられられず今までの一週間、ずっと部屋から出る事が出来なかったし、Vox達に酷い心配をかけさせてしまっていた。食事も喉を通らなくて、虚ろな瞳は何も写せないし、声も出せない。毎日、自分はこれからどう生きていくかとか、本当に生きていていいのだろうかとか、Lucaに会いたいとか。そんなことばかり考えていた。
    みんながそわそわしていたのも、心に深い傷を負い一週間部屋から出てこなかった僕が、突然何事も無かったかのように顔を出したからだろう。事実、僕はLucaに関しての記憶が抜け落ちていた。妙にソファに空いたスペースは、Lucaが座っていたはずの場所だ。
    全部、全部思いだした。

    つまり、僕の背後で、Lucaは。

    頭がおかしくなりそうな情報が一気に脳内になだれ込んできて、頭ががんがんと痛むし、目の前が真っ暗になり何も見えなくなる。

    からからからから、ころん。

    足元に、後ろから天色の粒が一つ転がってくる。
    それを見た瞬間、僕は立っていられなくなり、膝から崩れ落ちた。

    目を閉じる。

    ***

    次に目を開けた時には、真っ白な空間だった。
    妙に細長い空間。だが細いと言うには広く、広いと言うにはあまりにも縦長なのでどちらかと言うと通路のような造りだった。しかし、ここには扉も窓も何も無い。
    僕は進むことも後退することも出来ずにその場にへたりこんだ。
    どうして、どうして忘れていたんだろう。
    僕が愛してやまなかった彼の存在を、彼と出会い過ごした、かけがえの無い思い出を。

    そして、あの日の出来事を。

    全ての情報が滝のように流れ込み、フラッシュバックする。遠くに響くサイレン。人の叫び声。転がる天色。朱に染まる地面。
    吐き気がこみ上げるも、また嗚咽を漏らすだけで吐くことが出来ない。視線がぐるぐるとする。
    ここはまた、夢の中なのだろうか。それとも、彼を失ったのが夢?それとも、彼の存在自体が?
    情報を上手く捌けない脳で考えられる規模の問題では無かったせいで、思考がままならない。
    酷く傷付き、深く悲しみ、絶望の底にいるけれど。
    僕は震える足で少しずつ、一歩ずつ確実に進むこととした。
    直線方向に少し進んだ時、ぼんやりと壁に文字が浮かび上がってくる。

    (君がペンを握る理由は何?)

    誰かも分からない何かが、僕に問いを投げかける。どうしてそんな事を聞くのか、全く分からない。僕がペンを握る理由。答えるべきか、否か。悩みながらも道を進んでいると、また新たに文字が壁に浮かび上がってきた。

    (君が物語を紡いでいる理由は?)

    もはや、恐怖を通り越して不快だった。自分の内部にずかずかと踏み込まれているような感覚に嫌悪を感じる。
    先程も似たような質問を投げかけられた。何故、そんなことを聞くのか。
    僕が物語を紡ぐ理由、それは。
    さらに奥へと進むとそこは突き当たりだった。引き返そうとしたけれど、戻ろうとした頃には背後の壁に行く手を阻まれてしまっていた。先程まで通路だったはずなのに、何もかも不思議な空間だ。
    仕方なく突き当たりまで進むと、奥の壁にぱしゃん、と赤色の文字が浮かび上がる。

    (君が彼のいる世界を書きあげればいいよ)

    瞬き。
    その瞬間に、僕はあの図書館にいた。

    ***

    いつの間にか図書館にいた僕は片手には金糸雀色の本を。もう片手にはLucaの写真と、いつも使っている万年筆が握りしめていた。
    そういうことか。と全ての合点がいく。
    僕は目の前に見えるテーブルに本を置き、椅子に腰掛けると金糸雀色の本の最後の方のページを破り捨てる。秘められた叶わぬ想いが綴られたページも、それを伝えずして僕が恋をした男が死ぬ結末も、全部全部破り捨てて塵にした。
    本の後半に存在する真っ白なページ。僕は必死で、彼の生きる世界をその真っ白な空間に造り上げた。無我夢中で、ペンを止める事など許されないとでもいうかのように書き続ける。自分だけの世界を、思うままに、がむしゃらに紡いでいった。
    彼が元気に生きる姿を、そんな姿を見守る僕を、彼と共に困難を乗り越え絆を育む彼らの全てを僕の手で紡ぐ。
    もしこれらがただの夢だとしたら?それでも、一縷の望みに縋って最後まで抗いたい。それがたった一つの、僕を突き動かす原動力だった。

    しゅ、かたん。

    最後の一文を書き終える。ペンを滑らせ終え、ペンを置く音が誰もいない図書館に響く。書き終えた僕はもはや放心状態に近いものだった。
    ぼんやりとする意識の中、考える。果たして本の結末を変えただけで、本当に彼のいる世界を創造する事が出来るのだろうかと。
    自分の直感のままに物語を綴ったけれど、それが無意味なものになるかもしれないなんて書いている最中は考えもしなかった。

    「......上手くいくわけ、ないよね」

    震える声で呟く。眉を顰めて、目の奥の燃えるような熱を堪える。がくがくとする手を胸の前で必死に抑える。願いを込めるように、手のひらに握った万年筆の先。力を込めればきりきりと手のひらの肉に食い込み、そこからじわりと生暖かさを感じる。ふと、目の前の描き殴られた字でいっぱいのページに涙が零れ落ちた。
    Luca、Luca、Luca。大好きで愛おしい響きをこの手で書き起こせたなら。

    瞬き。

    僕はベッドの上にいた。

    ***

    かち、かち、かちと規則正しく動く時計は十三時過ぎを指していた。見慣れた天井もそのまま変わらない。ゆっくりと、痛む頭を抑えながら起き上がる。
    今朝、Shu達に休むように言われ寝かされてから、今までずっと寝ていたらしく、まともに思考が働かない。あれ、なんで休めって言われたんだっけ。それに何か、何か夢を見ていた気がするけれど、ぼんやりとしていてはっきりとは思い出せない。
    とりあえず、リビングに行ってみんなと顔を合わせようと思いベッドから降りようとする。しかし、立とうとした瞬間、上手く足に力が入らずに派手に転んでしまった。どたん!と鈍い音が部屋中に鳴り響く。途端、ばたばたと廊下から誰かが走る音が聞こえてきた。次の瞬間には僕の部屋のドアが勢い良く開かれる。

    「Ike!大丈夫?」

    扉を開いた先にいたのは、大きな物音を聞いて駆けつけたらしいLucaだった。いてて、と腰を擦りながら体制を整え、彼に視線を向ける。Lucaは普段と全く変わらないけれど、右腕の天色のブレスレットが一際目を引いた。

    「......ちょ、え!Ike泣いてるの!?ど、どこかやっぱりぶつけた?」

    「え?」

    Lucaに指摘されて初めて自分が涙を流していることに気付く。ぽろぽろと溢れる涙を手で拭っていると、Lucaが駆け寄って僕の手を取った。

    「大丈夫?立てる?......ってIke!この手のひらの傷はどうしたの!?」

    Lucaに言われるがまま手のひらを見れば、そこには心当たりの全く無い、治りかけのような生傷が出来ていた。

    「あ、る、Luca、Luca!」

    僕は思わずLucaにしがみつくように抱きついた。Lucaの肩を借りて、僕は惜しみなく声を上げ泣き叫ぶ。Lucaは困惑したようすだけれども、僕の背中をさすってくれた。そんな彼の優しさに甘んじて彼の肩に目頭をぐりぐりと押し付けて気の済むまで泣いた。どうしてこんなにも切なく、こんなにも安堵できるのか皆目検討もつかないし、なぜ涙がバケツをひっくり返したように溢れ出るのかも分からない。ただ一つ、僕の胸を大きく支配していた喪失感だけがふっと消えたような気持ちの晴れを感じただけだった。
    よく知っている瞳、声、香り、髪。手に抱き抱える感覚と抱き抱えられる感覚がたまらなく愛おしく感じられる。
    僕達の騒ぎに気が付いたVoxやMysta、Shuまで集まってきてしまい不思議そうに僕を見る。「Ike?頭大丈夫?」「え、何事?」「Luca、Ikeを泣かせてやるな」と、皆好き勝手に物を言った。

    でも今はそんな彼らの言葉も気にならない。
    相変わらずきょとん、としているLucaを僕は抱きしめる。
    彼の生きている目。昨日も見たはずなのに、もう半月も見ていないような感覚。
    混乱に染まる藤紫の瞳を見つめる。今まで一度だって、彼が僕を置いてどこかへ行ってしまったことなんてないけれど。泣き腫らして何かに押し潰されそうな喉で、僕は精一杯呟いた。

    「Luca、僕は君のことを」
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