本丸桜日和上半身を起こして伸びをする主は大きな欠伸を一つ。
珍しくちゃんと布団で寝てたみたいだけど柔らかい水縹の髪がいつも以上にくるくると跳ねている。
「おっはよ、主」
「おはよーかしゅ…」
「うわっ!?」
ボンッと爆発するみたいに主の周りから台風みたいな勢いで桜吹雪が舞う。
その桜吹雪に障子ごと吹き飛ばされたあと主と同時に目を合わせる。そして…
「こんのすけーーー!!!」
「平野ーーー!!緊急事態!!」
主がこんのすけを呼び、俺が平野を呼ぶ。
幸い平野もこんのすけもすぐ近くにいたみたいで俺らの声に反応してすぐに姿を見せた。
平野を見た後に桜の勢いが増したから平野もこんのすけも状況を察した
「バグ、ですね」
「はいはい、いつものいつもの」
「知ってた」
獣の耳が付いたり、お散歩姿のまま戻らなくなったり、刀の状態から人の姿が取れなくなったり。
俺ら刀剣男士もバグは多いものの主に関するバグだって色々ある。
今回は主オンリーだったみたいで誉桜より勢いのある桜はさっきよりは減ったものの無限に湧いてくる。
「なんのバグなの…」
「好感度が桜になって表れるようですね加州清光様や平野藤四郎様への愛情が爆発したのでしょう」
「「(ドヤ顔×2)」」
「…今日1日離れの部屋で仕事する…近侍平野に任せても良い?加州は本丸の方よろしく」
「了解。書類整理が重なって出られないってことにしとくね。平野も話し合わせといて」
「分かりました」
話を終えて俺と平野は一度広間へ、主は離れの部屋へ、こんのすけはバグ報告のために時の政府へと戻ろうと一度部屋を出ようとしたところだった。
「あ、主おは…うわぁっ!?」
「…あちゃー…」
「………」
偶然なのかなんなのか、部屋を出た途端に現れた後家は勢いの良すぎる桜によって吹き飛ばされた。
主が顔押さえてしゃがみ込んじゃったじゃん。
不幸中の幸いは勢いが良すぎて後家が目回してることだ。
「…嘘でしょ…」
あ?今自覚した?主自分が思ってる以上に後家のこと好きだよね。とは言ってやらない。
初期から主のことを見ていて俺も平野も主に対して恋愛感情なんてものは持ち合わせてないけどそれ以上に俺らは別の感情はある。
それをポッと出の新刀に奪われるほど愚かではない。
だって俺らの一番はいつだって主だ。
沖田くんとはまた別の、仕えるべき人。極めてからその潜在意識はますます強くなった。
極めてない、まだ「主の刀」だと認識してない男になんて主は渡せない。
「手入れ部屋突っ込んで放置しよ」
「で、でも…」
「大丈夫ですよ、主君。桜のみなので怪我もしてはいません」
「平野もこう言ってるし大丈夫だって」
「氷雨様、まずはご自分の姿を隠すことからです!なるべく加州清光様と平野藤四郎様以外の刀剣男士様には接触せぬことです!」
平野の言葉にこんのすけの後追いもあって後家のことは手入れ部屋に突っ込む事で主は納得した。
丸一日続いたこのバグは翌日には効果は切れていて、後家自身もなんで倒れたか覚えていなかったことが幸いだった。