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    wataachi_

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    wataachi_

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    第3回ワンドロワンライ参加分です
    バンモモくっつきたて、千(名前だけ)とモブ(少し喋る)が出てきます
    学パロです
    if旧Re:vale世界軸です

    教えて!大神センパイ 晴れて憧れの万理と同じ高校に入学できたはいいものの。県内屈指の進学校であるため、テストでは一定の点数を下回ると、補習期間は部活に参加出来なくなるシステムがある。歯に衣着せずに言えば、百瀬はこのままだと補習コースだ。強豪のサッカー部の一員にせっかくなれたのに、それはあまりにももったいない。だから、百瀬は三年B組の教室を訪れたのだ。一つ隣の三年A組には姉の瑠璃が在籍しているが、姉に頼るのは……ねえ? どうせなら、頼れるイケメンの先輩に頼みたいものである。放課後の明るい声がこだまする廊下を背中に、三度ドアをノックする。少し緊張した声で失礼しますと言ってから、年季の入った引き戸を開ける。黒板を掃除していた女子生徒が対応してくれた。

    「あの、バ……大神センパイいますか?」

    つい、いつもの呼称が出てしまった。この学校は、暗黙の了解で先輩のことは「〇〇先輩」と呼ばないと目を付けられる。千斗はそんなことを気にしていないのか、いつでもどこでも万理のことは「万」と呼ぶ。最初のうちはハラハラしたものだが、万理が気にしていないことを周囲が理解しているので、お咎めはない。
    一瞬聞こえた音に首を傾げた彼女は、明るい声ではーいと返事をして教室の後ろの方へ姿を消した。途端に視線が迷子になってしまい、黒板横の掲示板を何となく見た。プリントが所狭しと掲示されており、三年生の忙しさを物語っていた。こんな忙しいのに、お願いしちゃって迷惑じゃないかな。でも、バンさんはやさしいから、いいよって言ってくれるよね。ほんのすこしの期待を胸に、万理を待つ。

    「あ、百瀬くん。どうしたの?」

    万理が驚いた顔で百瀬を見る。万理に懐いている千斗ならまだしも、百瀬が万理をたずねて来ることは滅多にない。勉強のことかRe:valeのことだろうな、と見当をつけて、百瀬に次を促した。

    「ちょっと、勉強を教えてほしくて……」
    「わかったよ、自習室行こうか。荷物取ってくるから、ちょっと待っててね」

    小さく手を振ってから、万理は再び自分の席に戻る。ほどなくして、重たそうなリュックを背負って戻ってきた。行こうか、と声をかけて、二人は並んで自習室へと向かった。
    テスト前ということもあり、自習室はかつてないほど賑わっていた。参考書の棚の近くはすべて埋まっており、四人掛けの大きなテーブルでさえも埋まっているほど。窓際の一人用の席がひとつだけ空いていたので、二人分の荷物を置いて席を確保する。まだ子供と言えど、もうそろそろ体は成熟する。ひとつの椅子を共有することは厳しいので、隣の教室から椅子を一脚拝借して、万理が座った。

    「それで。何を教えたらいいかな?」
    「えっと、化学を……」
    「どこの範囲? 一年生の今頃なら……有機?」

    有機化合物の範囲は、覚えることがとても多い。化合物の官能基や異性体を覚えなくてはならないのだ。似たような官能基がとても多く、OHのヒドロキシ基はアルコールとフェノール類とに分類されるからタチが悪すぎる。カタカナの多い分野なので、覚えるのにも一苦労だ。教科書と付随のワークを開いて、印を付けておいたわからなかったところから万理に解説をしてもらう。間違えのないように、答案を片手に解説する姿は、頼もしい教師のようだった。他の人の妨げにならぬよう、小さな声が百瀬の耳をくすぐる。一度それに気づいてしまうと、解説の内容が途端に頭に入らなくなってくる。相槌の数が顕著に減って、万理は不審に思った。

    「百くん? 聞いてる?」
    「あっ、すみませんバンさん」

    だからね、と解説を続ける万理の声に耳を傾ける。少し動いただけでふれあう手だとか長い脚は、頑張って無視をする。せっかく、万理が貴重な時間を割いて教えてくれているのだ。こちらも真剣に取り組むのが道理だろう。
    日光と蛍光灯の光が混ざりあっていた自習室も、すっかり蛍光灯の光でまみれる時間になった。ぐう、と百瀬の腹が帰る時間だと合図をした。人もまばらだったのが不幸中の幸いだ。しかし、隣の万理の耳にははっきりと届いていただろう。ふふ、とやわらかい笑い声が百瀬の耳に届いた。

    「今日のところはここまでにしようか。また何かあったら、いつでも聞いていいからね」
    「すみません、お時間を取ってしまって」
    「いいよ、ちょうど俺も復習しなきゃと思ってたところだったし。テスト頑張れそう?」
    「はい! バンさんに教えてもらったので」

    気合いが入ってつい大きくなってしまった声に二人でしぃーと言い合ってから、少し笑った。教科書とワークをリュックに仕舞って、万理と揃いの細身のシャープペンシルをペンケースに仕舞う。入学祝いにと、一緒に文具屋に行った時に買ってもらったのだ。机に散らばる消しカスを手に集めて、ゴミ箱に捨てた。借りていた椅子も元の教室に戻して、静かに自習室の扉を閉める。

    「百くん、問題です」

    昇降口をそれぞれ通過して、また合流してから万理が口を開いた。

    「グリセリンは何価のアルコールでしょう」
    「え……っと、二!」
    「ぶぶー、三価だよ。こら、解説聞いてなかったでしょう」

    口ではごめんなさいと謝るが、万理だって謝ってほしい。だって、途中から意識してやけに低い声で囁いたり、手に触れてきたのだから。
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    wataachi_

    DONE第2回ワンドロワンライ参加分です
    バンモモ未満、千(名前だけ)とモブ(少し喋る)が出てきます
    旧Re:vale要素が出てきます
    ミルク多め、砂糖たっぷり その日は確か、千を待っていた気がする。春の足音が聞こえてきたとはいえ、まだまだ吐く息は白い季節だった。ライブがあった日ではなかった気がする。どうしてかは忘れてしまったが、俺と千、そして百くんの三人で俺の家に集まる予定だった。真面目な百くんは集合時間の十分前にはインターホンを鳴らしたが、全てにルーズな千はそうもいかなかった。集合時間を既に三十分も過ぎているが、玄関には二人分の靴しか並んでいない。お腹が空くような時間でもなかったので(食べ盛りの百くんはお腹が空いていたかもしれないが)、なにか飲み物でもとキッチンへ向かった。お気になさらずと百くんは言うが、俺たちは頑ななので、最初の頃のように全てを遠慮することはなくなった。気を許してもらっているようで、密かに嬉しかったのを覚えている。冷蔵庫にはジュースの類はなく、ほかに家にある飲料と言えば牛乳かコーヒーくらいだった。来客に牛乳はないだろう。二十歳も間近の百くんのことだから、きっと飲めるよね。自分の分と百くんのカップを棚から出して、ドリップバッグを開く。並行してスイッチを入れていた瞬間湯沸かし器が己の作業を完了したことを告げたので、それぞれにお湯を注ぐ。いつかはインスタントじゃなくて、ちゃんとしたペーパードリップがしたい。通っているカフェのマスターには「もうちょっと男前になってから教えてやる」とかれこれ数年は言われ続けている。俺だって、そろそろ二十二になるぞ? いい加減、教えてくれたっていいじゃないか。悶々としながら抽出したコーヒーをダイニングに運び、そこら辺にあったクッキーなんかも一緒にセッティングする。それこそ、マスターに焼いてもらったクッキーだ。とても悔しいが、口に合わない人が居ないほど美味しいのだ。召し上がれ、といつも通り硬直したままの百くんに言って、向かいの椅子で俺もコーヒーを啜る。すごく、いい香りだ。百くんは両手でカップを持って、一生懸命息を吹きかけている。あれ、猫舌だったっけ。一緒に食事をする機会があまりなかったので、知らないことがまたひとつ増えた。と思えば、困ったようにこちらを見る百くんとチラチラと目が合った。
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