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    wataachi_

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    wataachi_

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    第2回ワンドロワンライ参加分です
    バンモモ未満、千(名前だけ)とモブ(少し喋る)が出てきます
    旧Re:vale要素が出てきます

    ミルク多め、砂糖たっぷり その日は確か、千を待っていた気がする。春の足音が聞こえてきたとはいえ、まだまだ吐く息は白い季節だった。ライブがあった日ではなかった気がする。どうしてかは忘れてしまったが、俺と千、そして百くんの三人で俺の家に集まる予定だった。真面目な百くんは集合時間の十分前にはインターホンを鳴らしたが、全てにルーズな千はそうもいかなかった。集合時間を既に三十分も過ぎているが、玄関には二人分の靴しか並んでいない。お腹が空くような時間でもなかったので(食べ盛りの百くんはお腹が空いていたかもしれないが)、なにか飲み物でもとキッチンへ向かった。お気になさらずと百くんは言うが、俺たちは頑ななので、最初の頃のように全てを遠慮することはなくなった。気を許してもらっているようで、密かに嬉しかったのを覚えている。冷蔵庫にはジュースの類はなく、ほかに家にある飲料と言えば牛乳かコーヒーくらいだった。来客に牛乳はないだろう。二十歳も間近の百くんのことだから、きっと飲めるよね。自分の分と百くんのカップを棚から出して、ドリップバッグを開く。並行してスイッチを入れていた瞬間湯沸かし器が己の作業を完了したことを告げたので、それぞれにお湯を注ぐ。いつかはインスタントじゃなくて、ちゃんとしたペーパードリップがしたい。通っているカフェのマスターには「もうちょっと男前になってから教えてやる」とかれこれ数年は言われ続けている。俺だって、そろそろ二十二になるぞ? いい加減、教えてくれたっていいじゃないか。悶々としながら抽出したコーヒーをダイニングに運び、そこら辺にあったクッキーなんかも一緒にセッティングする。それこそ、マスターに焼いてもらったクッキーだ。とても悔しいが、口に合わない人が居ないほど美味しいのだ。召し上がれ、といつも通り硬直したままの百くんに言って、向かいの椅子で俺もコーヒーを啜る。すごく、いい香りだ。百くんは両手でカップを持って、一生懸命息を吹きかけている。あれ、猫舌だったっけ。一緒に食事をする機会があまりなかったので、知らないことがまたひとつ増えた。と思えば、困ったようにこちらを見る百くんとチラチラと目が合った。

    「熱かった? ごめんね、沸かしたてで淹れたから」
    「あっ、えっと、ハイ!」

    元気よく脈絡のない返事をした百くんは、意を決したように一口啜った。口に含んだあと、きゅ、と目を閉じて、何かを逃がすようにふるふると体を震えさせた。……もしかして、コーヒー苦手だったかな。悪いこと、しちゃったかも。

    「やっぱ熱かったよね? 俺も丁度冷ましたかったからさ、ちょっとカップ貸して?」

    再びキッチンにはふたつのカップが並んだ。俺の方はいいとして、百くんの方はまるで減っていない。この状態からはどうしようもないので、半分ほど飲んでしまう。男同士だし、気にしないでしょう。言わなかったらばれないし。ダイニングから視線を浴びつつ冷蔵庫から牛乳を取り出して、元のかさまで注ぎ入れる。ややミルクの多い、カフェオレが出来た。それでもまだコーヒーの苦味は感じるので、砂糖を……そうだな、付属の計量スプーンでさらっとひとすくい分入れてみる。ちょっと味見をして、さらにもう一杯。普段からブラックを飲んでいる身としては、胸焼けするほど甘いカフェオレが完成した。これなら百くんも飲めるといいな。カモフラージュに、俺のカップにも牛乳を入れておく。百くんよりは濃い色をしているが、牛乳がなくなってしまったことにしよう。もう一度ダイニングへ戻って、カップを戻す。

    「結構冷ませたと思うから、飲んでみて?」
    「は、ハイ」

    カップ越しに、百くんの反応を観察する。結果は……、大成功だ。ぐ、と覚悟を決めた面持ちでひとくち啜ったあと、驚いたようにこちらに目線をやってきた。慌てて目を瞑って、あくまで俺はミルクで冷ましただけだよという意思表示をする。緩慢な動作でカップを下ろして改めて百くんのカップを見ると、半分ほど消えてしまっていた。わかりやすいなあ、百くんは。思わず笑みがこぼれてしまって、その流れのまま百くんに問いかける。

    「美味しかった? 俺のおすすめのコーヒーなんだけど」
    「はい! すごく美味しかったです! えへへ、ありがとうございます」

    真っ直ぐな笑顔に混じった照れに、どきりと心臓がはねたのがわかった。気づかれてしまう前に、クッキーもすすめる。美味しい? と問えば、また眩しい笑みが返ってきて、こちらが仕掛けたつもりがしてやられたな、と思った。
    それから百くんや千に会わない日々が五年ほど続き、再び百くんと二人で千を待つのみの状況に陥っている。あいつ、俺たちに甘えすぎじゃないのか? 忙しいのは知っているので、怒ろうにも仕事を持ち出されては怒れない。今日は、たまにはドライブでもしようよと千が提案したので、所定の場所で大人しく待機している。千が千の名義でレンタカーを借りてしまったので、鍵を引き取ることができないのだ。自分の車も預けてしまったので、車内で温まることも出来ない。寒空の下、体が資本のアイドルを震えさせる訳にもいかないので、近くにある喫茶店にでも入ろうとマップアプリを開く。検索窓に『現在地周辺 喫茶店』と入力すれば、何件か候補が上がった。近くにある店舗から外観と客層を審査していって、二件目に近い店舗に目的地のピンを刺した。隣でせわしなくラビチャを返信している百くんに「ここへ行こう」と声をかけて、徒歩で移動する。「なんだかこんなこと、前にもありましたよね」と変装用のマスクを少しずらした百くんが懐かしそうに話を始めて、まさか覚えていたなんてと驚いた。あの時何しようとしてたんだっけ。百くん、覚えてる? と問うと、百くんは顎に手を添えて考え出した。うんうん唸る百くんと並んで歩いていると、お目当ての喫茶店に到着してしまった。百くんは全然思い出せなかったようで、後で千にも聞いてみようと脳内でメモをしておく。
    カランカランと軽やかな音と共に開いた扉の向こうは、落ち着いたレトロな店内だった。シックな色合いのインテリアで統一されており、耳を癒すBGMもどこか懐かしさを呼び起こしてくれる。目の前のメモスタンドには、『お好きなお席へどうぞ』と達筆な小さなメモが挟まれていた。一応、入店してすぐ目につかないボックス席に二人で向かい合って座った。ほどなくして、白髪混じりの髭が良く似合う、ダンディな店主(他に店員らしい人が見当たらないことからそう判断した)が注文を受けに来た。メニュー表らしいものを見やすいように置いてくれたので、一番先に目に付いたホットコーヒーを注文する。

    「百くんはどうする?」
    「あ、オレも同じのでお願いします」

    かしこまりましたと店主はバックヤードへ姿を消した。ガリガリと豆を挽く音が聞こえてから、知らぬ間にコーヒーが飲めるようになった百くんに密かに悔しさをおぼえた。俺のつくる甘いカフェオレは、もうお役御免なのだろうか。
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    wataachi_

    DONE第2回ワンドロワンライ参加分です
    バンモモ未満、千(名前だけ)とモブ(少し喋る)が出てきます
    旧Re:vale要素が出てきます
    ミルク多め、砂糖たっぷり その日は確か、千を待っていた気がする。春の足音が聞こえてきたとはいえ、まだまだ吐く息は白い季節だった。ライブがあった日ではなかった気がする。どうしてかは忘れてしまったが、俺と千、そして百くんの三人で俺の家に集まる予定だった。真面目な百くんは集合時間の十分前にはインターホンを鳴らしたが、全てにルーズな千はそうもいかなかった。集合時間を既に三十分も過ぎているが、玄関には二人分の靴しか並んでいない。お腹が空くような時間でもなかったので(食べ盛りの百くんはお腹が空いていたかもしれないが)、なにか飲み物でもとキッチンへ向かった。お気になさらずと百くんは言うが、俺たちは頑ななので、最初の頃のように全てを遠慮することはなくなった。気を許してもらっているようで、密かに嬉しかったのを覚えている。冷蔵庫にはジュースの類はなく、ほかに家にある飲料と言えば牛乳かコーヒーくらいだった。来客に牛乳はないだろう。二十歳も間近の百くんのことだから、きっと飲めるよね。自分の分と百くんのカップを棚から出して、ドリップバッグを開く。並行してスイッチを入れていた瞬間湯沸かし器が己の作業を完了したことを告げたので、それぞれにお湯を注ぐ。いつかはインスタントじゃなくて、ちゃんとしたペーパードリップがしたい。通っているカフェのマスターには「もうちょっと男前になってから教えてやる」とかれこれ数年は言われ続けている。俺だって、そろそろ二十二になるぞ? いい加減、教えてくれたっていいじゃないか。悶々としながら抽出したコーヒーをダイニングに運び、そこら辺にあったクッキーなんかも一緒にセッティングする。それこそ、マスターに焼いてもらったクッキーだ。とても悔しいが、口に合わない人が居ないほど美味しいのだ。召し上がれ、といつも通り硬直したままの百くんに言って、向かいの椅子で俺もコーヒーを啜る。すごく、いい香りだ。百くんは両手でカップを持って、一生懸命息を吹きかけている。あれ、猫舌だったっけ。一緒に食事をする機会があまりなかったので、知らないことがまたひとつ増えた。と思えば、困ったようにこちらを見る百くんとチラチラと目が合った。
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