Have a nice trip「忘れ物は……ないよな」
ヨハン・アンデルセンは旅行用のバッグを肩に掛け、狭い部屋の中を見回して呟いた。
この地は気軽に往復出来るようなところではない。万が一大事な物を置き忘れでもしたら、大変なことになってしまう。
「大丈夫。ベッドの下やシーツの中まで、全部確認したわよ」
アメジスト・キャットはヨハンの独り言に対して明るく答える。そのしなやかな体で、部屋の隅々まで見て回ったらしい。
「さすが。ありがとな」
ヨハンは紫色に輝くアメジストの瞳を見つめながら屈み、彼女の頬を撫でる。短くやわらかい毛並みや張りの良いヒゲの感触を味わいながら、次にこうして彼女を撫でられるのはいつになるだろうかと考えていた。
「どういたしまして。そろそろ約束の時間じゃないの、ヨハン?」
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