君ノ記憶 学徒出陣の命が出されたのは昭和18年10月のことだった。大学生の水心子正秀も徴兵検査を受けて国のために戦う――はずだった。
「……診断に間違いは?」
窓から海が見える診察室でレントゲンのフィルムを睨む医者を見つめながら水心子は訊ねた。
「ないな。典型的な肺結核の所見だ」
カルテに万年筆を走らせながら金髪の医者は答えた。
「では、国のために私は戦えないということか」
「そうなるな。大人しくここで療養してもらうことになる」
「……」
水心子は俯いた。結核患者は徴兵の対象にはならないから命を賭して国のために戦うことは出来ない。
「そんな体で戦地に赴くと、あんたが結核を広めてしまう可能性がある。そうなるとこの国は戦力が大きく削られる」
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