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    ひぜさに

    相互さんへ

    #刀さに
    swordBlade
    #ひぜさに
    forOnesWife

    ツインルームの隠忍「ああ? 本当かよ?」
    「こ、こんカスが言ってたから……」
    「はぁ…………」
    「うぅぅ……」
    「あー。違う、おまえにじゃねえよ。泣くな」
    「ごめんじゃんん」
    「寝床探すぞ。な?」
    「うぐゅ…………」

     私がいらぬ勇気を振り絞って肥前と買い物へ行きたいとか言ったからこんな事になったのかもしれない。やっぱ陰キャ引き籠もりの社不は外に出るべきではないんだ。
     本丸から現世に続く"道"がある。某22世紀ロボットのタイムマシンの道のような、それよりも難しくてよく分からないものだ。そこが何かの影響(何の影響かも懇切丁寧に詳しく言っていた気がするが、よく分からないので聞き流した。)でエラーを起こしており、転送が出来ないと管狐は言う。
     つまり、私と肥前は現世に取り残されてしまったのだ。……私は本来こっちの人間であるので、問題はないのだが。
     なんにせよ世界の全部が敵。つらいかえりたい。いや、帰れないから困ってるんだけど。ひどい、ひどい。このまま帰れなかったらどうしよう。
     肥前に手を引かれて歩く。はぐれないよう、掴まれているのは手首だ。
     この肥前忠広は、私のことを好きだと言う。趣味が悪いなぁと思うし、信じられなかった。向けられる好意に警戒する私が、唯一と表現してもいいほどに「この人は私のこと好きだよ」と言える。それくらいたくさん「好きだ」と言われてきた。
     私も、肥前忠広が好きだ。最初はその風貌に恐怖を感じていたのに、それを知って怖がらせないよう気遣いながらサポートをしてくれた。よく見ると可愛い顔をしているし、声も良い。寧ろ好きにならない要素が無かった。
     所謂"両想い"というやつであるはずだが、肥前と私はキスをしないし、セックスもしない。そして、手も繋がない。
     皆、立ち入った話をすると二言目には一文字則宗を出してくる。奴は推しでもなければ好きでもなんでもないのだが、全員、「一文字則宗は」と口を揃える。肥前忠広も、例外ではなかった。その上で、肥前忠広だけは、私に手を出さなかった。


     肥前は、白くて硬いシーツに腰掛け、心の底からほっとしていた。
     審神者に連れられて現世に買い物――までは良かった。好意を寄せている相手と二人きりで買い物だなんて感謝の言葉を叫び手を合わせたいくらい喜ばしいことだ。さすがにそれは恥ずかしいので、本人に見えない所で小さく拳を引いた。気分転換出来て審神者も喜んでいたし、笑顔も見られた。用も終わったしさあ帰ろうと、転送装置を起動した所から事態は一変する。エラーが出て帰れない。どうしてか、理由までは分からなかったが、分かったところで此方が出来ることは何も無い。回復には時間が掛かるという。日は暮れており、人の身に優しいとは言えない気温。今夜は帰れないつもりでいた方が懸命だろうと、審神者の手を引いてつい先程まで宿を探し回っていた。
     場所が悪かったのか、見つかるのは色情の気配が強い宿ばかり。繰り返すが、肥前忠広は審神者に好意を寄せている。好機があるなら抱きてえ、とは正直思っているが、彼女の様子を見てそれは自分の役割ではないと把握しているので忍び耐える日々である。つまるところ、そんなにやわ、、な理性はしていないが、リスクは減らせるなら減らすべきだ。
     そうしてあっちこっち振り回し辿り着いたビジネスホテルのツインルームにチェックインして、冒頭に至る。
     ツインルームだ。ベッドが二つある。これは大正解だろ。

    「で。なんでこっちの布団にきてんだ」
    「さっ、寂しいから…………え、だめ」
     風呂に入って、それぞれのベッドでさあ寝るぞという段階でこれだ。念には念を、で背を向けていたのに、審神者は肥前の陣地へ潜り込んできた。
     こちらの気も知らない……筈は無いのに、デリカシーが無いというか、無頓着というか……。いや、変な気を起こす起こさないはこちらの責任なのでそれを転嫁するのは男らしくない。何かやったらおれが悪い。そりゃそうだ。でもじゃあそれ、どの男にも出来んのかって話ではある。……………………出来るわ、こいつ。
    「はぁぁ…………」
    「えなに ご、ごめんじゃん」
    「…………悪ぃと思ってねえだろ」
    「え ごめん」
    「あー…………」
     敗因その一。ベッドはツインだが、離れていなかったこと。
     敗因その二。審神者が人肌を求めるタイプの人間で、肉体的接触のハードルが極端に低いこと。
     そりゃあ、毎夜、一文字則宗と寝てるんだから、何も問題はないでしょう。審神者にとっては、取るに足らない事である。"審神者にとって"は。
     肥前は向き直る。腕を差し出して、己の陣地にある掛布団をめくり上げた。
    「なんもしねえから」
    「う、うん……?」
     おそるおそる潜り込む審神者は、あろうことか背中に腕を回し抱き着いてきた。
     おい、そこまでしていいとは言ってない。
     喉まで出る言葉を飲み込んだ。一体何を考えているんだ。どうしてこんなに距離感がゼロなんだ。正気なのか。何も考えていないのか。そうなのか。そうなんだろうな。そうだ。心頭滅却すれば火もまた涼しと"カカちゃん"が言っていただろう。「修業が足らんな」と笑う一文字則宗の顔が浮かぶ。腹が立ってきた。やってやろうじゃねえか。肥前忠広、大業物と名高い刀。こんなところで負けはしない。

    「なんもしねえ」

     決意表明を繰り返す。
     肥前忠広は目を閉じ、そして意識を落とした。
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