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    ゆき📚

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    ゆき📚

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    【sngk】【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅴ
    続いたよ現パロ!という事で
    テンパった会社員、バイトだよ大学生、推しは力なり!!な感じになっております。
    相変わらず諸々雑な感じですが
    大丈夫、どんなものでもどんとこい!な方よかったら読んでやってください

    ##sngk
    ##エレリ
    #現パロ
    parodyingTheReality

    【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅴ 「めずらしいなお前がここに来るなんて」
     仕事が終わり退勤する前に一服して帰ろうとエルヴィンは社内に設置してある喫煙スペースにひとりいた。
     煙草を一本取り出して火をつけようとする前に、ふと人の気配がしたので入口に目を向ければリヴァイが静かに姿を見せたので小さく驚いた。
     「帰る前に寄ってるかもと思ってな」
     「読まれてたか」
     エルヴィンが肩を小さくすかすとその様子を見ながらリヴァイは歩を進めてエルヴィンの横を通り過ぎ壁近くに設置してあるヒップバーに腰を乗せた。
     「私に何か用が?」
     「いや、特に」
     どこか言い淀むように返したリヴァイの顔を見ようとエルヴィンは体を横に向けてテーブルに肘をつくように寄りかかった。
     「仕事の話か?それとも今日ハンジと話していた、エレンの事か?」
     エルヴィンの問いかけにリヴァイは腕を組んで静かに息をはいた後
     「すまない。お前に余計な世話かけちまって」
     「何を言ってるんだ、むしろどんどん話してくれて構わない。私が忙しそうだからと気を遣う必要は無いんだぞ」
     エルヴィンはそう言いながら煙草のフィルター部分を指でつまむようにしてとんとんとテーブルに軽くたたいた。
     「久しぶりに会ったエレンはどうだった?」
     「どうだったって」
     「様子とか姿とか」
     「元気そうな…感じだった」
     「そうか」
     会話は途切れ、静かな時間が流れていく。
     遠くのほうでエレベーターが到着した事を知らせる音がポーンと鳴っているのが聞こえた。
     「吸わねぇのか」
     不意にリヴァイにそう言われエルヴィンは自分が持っている煙草を見る。
     「君は好かんだろう」
     「ここは喫煙室だ。お前が最初にここにいて俺はそれを承知で後から来た。遠慮する事はねぇ」
     「じゃあ、お言葉に甘えて」
     エルヴィンはそう言うと持っていた煙草を口にくわえライターで火を点けるとひと吸いし煙を吐き出した。
     「うまいか」
     「そうだな」
     「禁煙する気はねぇのか」
     「今の所は」
     「ハンジは成功したぞ」
     「彼女の禁煙方法は特殊だからなぁ。それが自分にできるとは思わないしかといって彼女にやってもらうというのもちょっと気が引ける」
     「まぁ、俺も最初はよくそれで禁煙成功したなって思ったが、気の持ちようってやつなのか」
     「はは、すべてにおいて通ずるものがある言葉だな」
     エルヴィンはそう言って煙草をひと吸い、灰を灰皿に落とした後
     「ひとつ気になっていたんだが、聞いてもいいかな?」
     「なんだ」
     「なぜエレンに自分の名前を教える事を拒んだんだ?」
     そう聞かれリヴァイは組んでいた腕の力を無意識にきゅっと入れた。
     「……あいつが、覚えてなかったのが悔しくて意地張っちまった」
     「名前を知ったら何か思い出すかもしれないとは考えなかったのか」
     「会いたいと思ってたやつに会えたんだ。それだけでも僥倖だろ」
     「リヴァイ、今更私に建前を言うような事はするな」
     エルヴィンの言葉にリヴァイはそんなつもりはなかったがきつい視線を送るように相手を見ればそんな表情には慣れた様子でエルヴィンは煙草をふかした。
     「…名前を教えて、それで何も思い出さないあいつを見たらダメージを受けるのは確実に俺のほうだろ」
     「なるほどな」
     ハンジの提案で始めたSNSは長引けば長引く程、希望的観測を膨らませてしまいいざ現実にそれがやってきた時、その比重がどのように傾くかと一度考えたことはあったが
     エルヴィンはそんな事を思いながら一本目の煙草を潰すようにして火を消した。
     「しかしそんなに及び腰じゃ一向に前に進めないぞ」
     エルヴィンはそう言いながら二本目を吸おうかどうしようか考えていると
     「俺は、前に進みたいんだろうか」
     聞こえた声に視線をやれば二の腕をつかんで不安そうな表情を見せるリヴァイの姿に体勢を向き合うように変えた。
     「昼も言っていたな。自分の気持ちがわからないと、会いたかったんだろう?」
     「それは、そうだ」
     「会うだけで満足したのか?」
     「それは…そうじゃねぇ、けど」
     仕事では即断即決で容赦がないと部下などに言われたりしているが、いざプライベートととなるとこんなにも優柔不断な姿を見せるというのは
     エルヴィンはそう思いながら思わず上がってしまう口角を隠さねばと指先でその場所を揉むように触れた。
     「おい何にやけてんだ」
     「バレたか」
     さすが目敏いなとエルヴィンは思いながら口元から手を離す。
     「人が悩んでるのにどういうつもりだ」
     「怒らないでくれ」
     「理由を言えば考えなくもねぇ」
     「手厳しいな」
     エルヴィンはそう答えながらふふっと微笑むとリヴァイの眉間の皺がぐっと深くなった。
     「こんな事を言うと余計に怒るかもしれないがどうか最後まで私の話、もとい言い訳を聞いてほしい。今私は嬉しいんだ」
     「嬉しい?」
     「お前が物事の判断に対して優柔不断な姿というのは仕事では見る事が出来ないからな」
     それこそ前世の、あの頃の時代は悩む時間ももったいないくらいだった。
     極限の中でいつも何かに追われていたような時間を過ごしていた反動が、こんな形で表れているというのなら
     「お前は今苦しんでいるのかもしれない。その事に対して馬鹿にする気持ちは一切ない。ただ一生懸命悩む事は悪くは無いとも思っている」
     「何が言いたいんだ?」
     「私ももっと簡潔に伝えればいいんだが、私も私でこの感情はきっと複雑な物なんだよ」
     エルヴィンはそう言ってからリヴァイにもう一本煙草を吸っていいか問いかけた。
     「好きにしろ」
     「悪いな」
     口にくわえ火を点けるとひと吸いし天井に向かって煙を吐き出す。
     「悩めるという事はある種それだけ余裕がある事だと思っている」
     「わりぃがそれは肯定できねぇ話だな。こちとら余裕なんか持ち合わせてねぇ」
     「君の事じゃない。この世界の事だよ」
     「あ?」
     リヴァイは一言、どういう意味だ?と片眉をぴくりと動かした。
     「平和な時代だろう。今私達が生きているこの世界は」
     エルヴィンの言葉にリヴァイは相手が言ってる事を少し理解し、組んでいた腕を解いてヒップバーに手を添えるように置いた。
     「この世界ではあの頃の様に何かに怯え何かに向かい闘い続けなくてもいい。誰かを愛しその者と共に生きる事ができる」
     「……でも現実は簡単にいかない」
     「これは私の勝手な願望だが私は君にただ素直に生きてほしいと思ってるんだ。自分の気持ちにもっと素直になって、なに損はしないさ」
     そう言ってはははと笑って煙草を吸うエルヴィンに他人事の様に言いやがってと内心悪態をつきながら寄りかかっていたバーから離れるとリヴァイはエルヴィンの隣にやってきて
     「なぁ…」
     「なんだ?」
     声をかけ、それに反応を返したがそこからリヴァイは口を開けたが閉じて
     どうしたのだろうとエルヴィンが思っていると
     「こんな、何も決断できてねぇ状態で三度目の正直みたいな事が起きたらどうしたもんかと不安になってる自分がいるんだ」
     「そうか…ではあらかじめ決めておくと言うのはどうだ?」
     エルヴィンは煙草を吸って煙をリヴァイにかからないように吐き出しながら火種を潰し消す。
     「次会ったらお互い連絡先を交換する。とか」
     「……そんな事したら、いつでも連絡しようと思えばできちまうじゃねぇか」
     驚きの表情で言うリヴァイにエルヴィンはぱちぱちと瞬きをすると
     「嫌なのか?」
     「嫌じゃねぇけど」
     動揺しているように目が泳ぐリヴァイにエルヴィンは名前を静かに呼んで
     「答えをゼロかジュウで考えなくてもいいんじゃないか。もっとフラットな気持ちで」
     「それができれば苦労はしねぇ」
     「というと?」
     「…あいつを、エレンを前にすると冷静じゃいられない自分がいる」
     リヴァイはそう言いながら再び腕を組むようにして自分の二の腕を指でさすった。
     「記憶を持ってないあいつの事を一瞬でも責めてしまった自分がイヤになる。名前を教える事を拒否したのだって変に意地張って、自分のちっちぇクソみたいなプライドで」
     不公平だと言われた時も、その時の事をふとリヴァイは思いだして腕を掴む指の力が入る。
     「そんな風に自分を責めるな。時折そうやってすべて自分で背負い込もうとしているお前を見ていると心苦しくなる」
     エルヴィンの言葉にリヴァイは視線を向けた後にすぐにその視線を床に落として手のひらで顔を拭った。
     「わるい」
     「謝る事は無い。勘違いしてほしくないのは心の内を吐き出す事を悪いと言ってるわけではない。私が危惧しているのは必要以上に己を責め立て暗いものにからめとられ、溺れ、そこからお前が抜け出せなくなってしまう事だ」
     「大げさな物言いだな」
     「そうか?私は本気だ。お前が溺れそうになったら私とハンジで引きずり出すつもりだしな」
     真面目な顔をして言い切ったエルヴィンにリヴァイは少し間を置いて短く笑った。
     「なんだそれ、溺れる前提の話じゃねぇか」
     「いついかなる時も最善の策を講じる。いくつもの選択肢を用意して」
     「はは、まったく…」
     呆れたような言い方をしながらもリヴァイはそんな風に思ってくれる存在が近くにいてくれるという事に安心を感じていて
     「お前らがいてくれて本当に良かったよ」
     「それは私もだ。リヴァイ、お前がいてくれて私は本当に嬉しく思う」
     エルヴィンがそう言うとリヴァイが少し驚いたような表情をしたのでその表情の真意は何だろうと少々疑問に思ったが、今はそれを聞く時ではないような気がしたので何も言わなかった。
     「これはあくまで私の勝手な予想なんだが」
     「なんだ?」
     「ハンジがお昼に言っていた事、私もありえると思ってる」
     「あいつが昼に?」
     「エレンとの三度目の正直の話だ。近いうち君とエレンは再開を果たす気がする」
     「何故そう思う」
     「勘だ」
     エルヴィンの答えにリヴァイは小さく舌打ちすると
     「腹括るのに時間が欲しいな」
     「相手が待ってくれるか?」
     「どうだろうか」
     「なんだかわくわくするな」
     「てめぇ他人事だと思ってそんな風に言いやがって」
     「出会ったら本当に連絡先交換しろよ。私も会ってみたいな。なんならハンジと私と三人で会うか」
     「そんなすぐにはこねぇよ。」
     「自分からエンカウント率下げるような事はするなよ」
     そう言ってはははと笑うエルヴィンにリヴァイはもう一度舌打ちすると相手の尻を蹴り上げたのだった。

    *****

     エルヴィンと喫煙室で話し込んだ日から一週間が経った某日午後―
     リヴァイは仕事終わりに行きつけのパン屋の前に立っていた。
     扉のノブを握り押すように開けばドアベルの音がチリンチリンと来客を知らせる様にかわいく鳴り響く。
     「いらっしゃいませ」
     いつも迎えてくれるその声が聞き慣れたペトラの声では無く、ましてやエルドのものでもなく
     「あっお久しぶりです」
     誰の声なのか確認しようと上げた視線、向けた先に見えたレジの前に立っている人物にリヴァイは驚いて思わず後ずさった。
     閉まりかけていたドアに背中から当たり雑に揺れたドアベルが雑な音をたてる。
     「大丈夫っすか」
     「、っ…なにしてんだ」
     「バイトです」
     「バイト!?」
     大きな声で返してしまった後リヴァイはハッとした様子で店内を見渡す。
     「ちょっと前に二人組で来てたお客さんがいたんですけど、今は誰もいないんで大丈夫っすよ」
     確かにそこを気にしての事だったが、そんな事は置いといてだ。とリヴァイは内心思いながら
     「なんでお前がここでバイトしてるんだ」
     レジ前に立つ男-エレン・イェーガーはその問いかけに無駄にキメ顔でサムズアップして見せた。
     「………いや、答えになってねぇッ!!」
     「あはは、元気そうっすね」
     リヴァイはドアから離れるように数歩動くと立ち止まって
     「ペトラはどうした。いつもここでレジしてる」
     「明後日までお休みですよ。オレはその間の超短期バイトです」
     超短期バイトだと?前にここに来たのは、確か七日、いや八日前だったか?その時にはそんな話一切出てなかった。
     自分の発言の後、考え込むリヴァイを見ながらエレンは何かひらめいたような表情を一瞬するとレジから離れ奥にある厨房に頭をのぞかせる様にしてエルドを呼んだ。
     「おい、お前いつからバイトして―」
     言いながら視線を上げればそこにいたはずのエレンの姿が無かったのでリヴァイは疑問符を頭の中に詰め込みながら視線を動かしていると
     「あ、なんだ。リヴァイさんじゃないですか」
     聞こえた声に視線を向ければエルドがひょこっと姿を見せておりリヴァイは相手の名前を呼びながらレジへと近づけばエルドも正面に立つように来た。
     「ペトラが休んでいると聞いたが」
     リヴァイがそう言うとエルドは少し困ったように笑った表情をしてみせて
     「あいつは今弾丸旅行と言いますか」
     「弾丸、旅行?」
     首を傾げながら聞いた言葉を繰り返すリヴァイにエルドは頬をかきながら「話すとちょっと長くなるんですけど」
     「別にかまわん」
     「前にあいつがリヴァイさんに自分の好きなアーティストについて話してたの覚えてます?」
     「…あぁ、言ってたな。えーっと、なんだっけか。ノーネーム?だっけか」
     「そう、それです」
     「なんだ。ライブにでも行ってるのか?」
     「いえ、ライブはやってるんですけど。今回チケット取れなかったみたいで」
     「そうなのか」
     「なんか?長らく目立った活動してなかったらしいんですけど突然のライブやりますって事と新曲出しますって発表があったらしくって、その知らせを知った瞬間は家の床抜けるんじゃねぇかってぐらいはしゃいでたんすけど」
     「そりゃあチケット取れなくて相当落ち込んだだろ」
     「お客さんの前では一切見せなかったですけどね。そりゃあまぁ落ち込んで落ち込んで、家が湿気でどうにかなっちゃうんじゃないかと思う程、まぁ時間が経てば徐々に元気になってくるだろうって思ってたら急にライブ会場だけでも見に行ってくるって言いだしまして」
     
     『お兄ちゃん、私やっぱ空気だけでも感じたいの。推しがそこにいるという空気だけでいい。決して推しの迷惑になる事はしない。それが推し道。ただそこにいるという事を確認できたらあとはイメージ…そう私は同じ土地に立つことでもはやそれは推しと共に今を、今を生きているという事になるの!!!』
     
     「情熱は伝わってくるが…そのお前の、妹に対して申し訳ないが愛の方向性がとんでもねぇ事になってねぇか」
     「まぁあぁなったら止める事はできないし、決めた後は早かったですよ。飛行機とホテルの予約、自分不在の間のバイト要員を友人に頼んで、それでも昨日と今日と入ってくれる人が見つからないって出発する何日か前にここで話をしてたら、それを聞いてた彼が」
     エルドはそう言って後ろを振り向く。厨房と店の境目のような場所に立ってずっと黙って二人の会話を聞いていたエレンはエルドと目が合うとにこりと微笑んだ。
     「もしよかったらバイトさせてくれないかって」
     「レジの経験もあったし、ここのパンすっごくおいしいんでお役に立てたらなって」
     会話に入ってきたエレンをリヴァイは横目で見る。視線がかち合うとにっこりと自分に対して笑顔を見せたエレンにリヴァイはさっと目を逸らした。
     「ちょっと前からよく買いに来てくれてるなぁって顔も覚えてましたし、まぁペトラがすぐに採用!って言っちゃったってのもありますけど」
     ペトラよ、勢いで何でも決めるもんじゃねぇぞ
     リヴァイは内心そう思いながら「そうだったのか」と返した。
     「まぁそういう事なんで、帰ってきた時に安易にこの話振らないほうがいいですよ。すげぇ勢いで話してくると思うんで」
     そう言って苦笑いとまでは言わないが困ったような、それでもそこには兄として妹を思う優しさを滲ませる表情で微笑むエルドにリヴァイはすっと口角を上げると
     「別にあいつの話を聞くのは苦じゃねぇから大丈夫だ」
     そう答えたリヴァイの言葉と表情を離れた場所でエレンはじーっと眺めていると不意に電話のコール音が響いた。
     「お、すいません俺はこれで。ゆっくり選んでってください」
     エルドは鳴っている電話の方向を見た後リヴァイに向けてそう言うと急いで電話を取りに奥へと消えていった。
     リヴァイはその姿を見送った後、トレイとトングを手にそれぞれ持つとパンが並ぶ商品棚を見ながらゆっくりと足を動かした。
     
     
     「リヴァイさん」
     ふと、そう呼ばれた声に振り向けばいつの間にかレジの前に立っていたエレンと目が合った。
     「………あぁエルドから聞いたんだな」
     納得だという風に視線を戻せば「間違ってはいないですけど自分からは聞きませんでしたよ」というエレンの声が耳に届いた。
     「どういう意味だ」
     リヴァイはパンを見ながら言葉だけエレンに投げていく。
     「貴方がここに来るまでエルドさんとペトラさんに貴方の事について聞くって事一切しなかった。さっき貴方がここに来てエルドさんを呼んだ時、エルドさんが貴方の名前を呼んだ時に初めて貴方の名前を知りました」
     「そうか」
     リヴァイは短く返した後トレイにパンをひとつ乗せる。
     「思い出したんです」
     その言葉にリヴァイは持っていたトングを思わず落としそうになりながらばっとエレンのほうを見れば勢いよく自分のほうへ顔を向けてきたリヴァイにエレンは驚きながら少々戸惑った。
     「貴方、自分の力でたどり着けって言ってたなって」
     返ってきた言葉にリヴァイは自分が勘違いをしたのだとすぐにわかって見開いた目の力が抜けていく。
     「……覚えてねぇな、それにお前の力じゃないだろう」
     「ひらめきは褒めてくださいよ。貴方がここに来てからすぐに思いついたんです。顔見知りだろうからもしかして名前知ってて呼ぶんじゃないかなって。そういう考えに辿りついた所褒めてもいいと思いません?」
     レジから訴えてくるエレンにリヴァイは静かに深呼吸をひとつした後、別のパンをトレイに乗せた。
     「良かったな、俺の名前を知る事ができた」
     リヴァイはそう言うとあと三つトレイにパンを乗せるとレジへとそれを持っていった。
     「嬉しくなさそうですね」
     「そんな事はねぇよ」
     そう、遅かれ早かれいつかはわかる。根回しらしい事は何もしなかったし。
     それに、こいつはすぐにそんな事には興味をなくしてしまうだろうと片隅で思っている部分もあった。だからそれに比べれば嬉しい…もんだ。
     リヴァイはそんな風に思いながらもまさかこんな形で出会うとはと予想外の出来事に動揺はしていた。
     一週間の間、もしかしたらまた声をかけられるかもしれないと会社までの行き帰りにきょろきょろとそれらしい人間を無意識に探しておりそれを自覚すると何をやってるんだ俺は、とそんな自分に落ち込んだ。
     探してもし見つけたらどうするつもりなのか?
     また見つからないように逃げるのか?
     向こうから声をかけてきたら?
     自分は―
     お前は、いったい、どうしたいんだ?
     リヴァイは自身に問いかけながら、外に出れば自然と目はエレンを探し動き、その度に自分に問いかけた。
     エレンとどうなりたいのだと


     「現金で払いますか?」
     「あぁ」
     提示された金額を確認して財布を取り出しながらリヴァイは「なぁ」とエレンに声をかけた。
     「はい?」
     「バイトって何時までなんだ?」
     「え?一応閉店時間までですけど」
     「そうか」
     結局、今日の今日まで自問自答しながら明確な答えなど出なかった。
     なんならこのまま答えなど出さずになし崩しになればとさえ思った事もある。
     でもそれじゃダメなのだと考えなおし、されど答えは見つからず、この状況だ。
     リヴァイはそんな事を考えながらすぅっと静かに息を吸い込んだ。
     だったらもう、やるしかねぇ―ッ
     「その後、予定なければ、ウチに来ないか?」 
     「……え?」
     思ってもみなかった言葉にパンを袋に詰めていたエレンの動作がぴたりと止まった。
     「ウチって」
     「俺の、家だ」
     そう言いながらリヴァイは、言ってしまったと動揺を隠しながらキャッシュトレーにお金を乗せた。
     「この間の、礼もかねて、タオルも返したいし」
     「あぁ…別にお礼を言われる程の事はしてないですよ。タオルだってわざわざ持っててくれたんですか?律儀な人だなぁ」
     エレンはそう言いながら、ははと短く笑って袋詰めを終えると現金を確認してレジに打ち込んだ。
     機械音だけが店内に響く中、返事をしないエレンにリヴァイの心臓がことあるごとに殴打力を増すがごとくドッドッドと跳ねた。
     「閉店までもうちょっと時間ありますけど、その間リヴァイさんはどうしてるつもりなんですか?」
     そう聞かれリヴァイは言葉がすぐに出ず「そうだな…」ととりあえずな返事をしながら考えている中不意にエルヴィンの言葉が浮かんできて
     「レシート、もらえるか?」
     「はい?」
     戸惑うエレンに「いいから」と催促すれば少し焦ったようにおつりと一緒にレシートを手渡してきたのでリヴァイは手間を省くようにおつりをスーツのポケットにつっこむとレシートの裏側にボールペンで番号の羅列を書くとエレンに差し出した。
     「なんですか」
     「俺の、携帯の番号だ」
     「え」
     「バイト終わったらここに連絡くれ、迎えに来る。嫌なら捨ててくれてかまわない」
     「迎えって、それまでどうしてるんですか」
     「適当にその辺で時間つぶしてる。いらないなら捨てる」
     リヴァイはそう言ってレシートを持つ手を引っ込めようとするとその手をぱしっと掴まれた。
     「ッ」
     「いります。あの一応オレの番号も―」
     そこまで言ってドアベルが鳴る音がしお客がやって来たのでエレンは反射的に「いらっしゃいませ」と声を出しながらレシートを掴むとすぐに手を離した。
     「気が変わったら連絡しなくてもいい。それは処分しておいてくれ」
     リヴァイはそう言うとパンが入った袋を掴みレジから離れた。
     「あ、あの―ッ」
     声を掛けきる前に店から出て行ったリヴァイにエレンは自分の手にある皺のできたレシートの裏側を眺めた。
     「連絡しなかったらあんたどのタイミングで帰んだよ」
     小声でぼそりと呟きながら腑に落ちないような表情をした後エレンはレシートをポケットに突っ込んで残りのバイト時間を少し恨めしく思ったのだった。
     
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